先週の続きです。
1~7までのルールは、要するに「フリーと戦う」努力や「フリーを押しとどめる」努力はむなしいという意見でした。デジタルコンテンツは無料になるのだから、デジタルコンテンツを有料にして売り出していても、いつかそれが売れなくなるか、無料にするしかなくなる、というのが筆者の主張なのです。
8~10は、少し違います。ここから先の3つのルールは、「ではどうすればいいか」について書かれたものです。ここからは、かなり心理的な話にもなっています。次の二点で、心理的なのです。
・無料があふれている中でもお金を払うユーザーの心理に詳しくなる必要がある
・無料のものを提供する側も、考え方を切り替える必要がある
自分が苦労して作り上げたものを、無料でどんどんコピーされることに、心理的抵抗がある人がいて不思議はありません。仮に、「みんなが楽しんでくれればそれが幸せ」という心の広い人であっても、収入がゼロでは生活ができません。このもっともな疑問への筆者の答えは、異常なものです。「もっと無料でばらまけ!」なのです。なぜなのでしょう?
無料のルール
8.ムダを受け入れよう
もしあるものが気にする必要もないほど安くなっているのならば、もう気にすることはやめよう。
これには、色々な意味にとれます。ですがこの環境要因があるならば自動的に、「自分が苦労して作り上げたもの」の苦労を減らすことにつながるでしょう。
たとえば今私が書いているこの記事ですが、「苦労ゼロ」ということはありませんし、通信回線にも、プロバイダにも、「コスト」を支払っています。もちろん電力会社にも。しかし、どう計算しても、30年前に同じ事をする「コスト」と比較すれば、取るに足らないものです。
原稿用紙に記事を書いて、何らかの形で校正し、何千枚もの紙に印刷して、多くの人に読んでもらえるようにする。手間もかかりますし、お金もかかりますし、何より時間がかかるはずです。今はもう、あと数十分後に、私の目的は達成されるのです。まるでメールを送信するような手軽さで、です。
「ムダは許されない!」のであれば、写真の個展を開くことであれ、自作のマンガを発表することであれ、まず受け入れられるかどうかを問題としなければなりませんでした。今はそれをほぼ問題としなくていいのです。もし何かを大々的にやってうまくいかなくても、本人の時間がムダになり、本人の心がちょっぴり傷つくだけですみます。
つまり、とにかくたくさんの人に「試して」もらうことは容易になっているのです。まずはそこから始まります。
9.フリーは別のものの価値を高める
潤沢さは新たな希少さを生み出す。一〇〇年前には娯楽は希少で、時間が潤沢だったが、今はその逆だ。
例えば「時間が惜しいからテレビは見ない」というような人が、意外にたくさん登場してきます。そういう人はタイムシフトはもちろんのこと、「少し早送りしながら見られる装置」などにはお金を払う気になるかもしれません。
あるいは、「本を読む時間がない」という人がたくさんいます。そういう人は「代わりに読んでくれる人」にお金を払うでしょう。もちろん、「代読した成果としての書評」がデジタルコンテンツであればそれはフリーですが、そこから派生した広告収入を得るということは今は普通に行われています。
それはまだ小さなビジネスにすぎない、という意見はあると思います。しかし、ここから例えば、音楽作品を作る人たちにコンサルタントしたり、タイムシフトを作る人たちへコンサルタントするようになってくれば、小さなビジネスではなくなります。
10.希少なものではなく、潤沢なものを管理しよう
結局、本書の結論はここにつきるのです。限界コストがゼロに近づいてくると、当たり前のことですが製品の潤沢に出回る環境が整います。そんなものに人は、お金を払うのがややばかばかしくなってしまうのです。それでもお金を払うとすれば、「それはほとんどが心理的な理由による」と著者はいいます。
・時間を節約したいから
・製品の保証が欲しいから
・自尊心を満たすため
・利他的な気持ちから
「フリー」の世界では、上記のすべてがますます「希少」なものへと変わっている事実に注意しましょう。試供品を片端から試していては時間がなくなりますし、無料のものは保証がありません。試供品を使いまくって自尊心を満たすのも難しいですし、ただで何かを使ったり読んだりして、「利他的欲求」を満たすのも難しいでしょう。
人は「希少なもの」には価値を認め、支払い可能な価格であれば、それらには支払いをするのです。
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技術評論社 2009-10-21 |