※雨上がりの駒沢公園。「場所」は生き方を映す鏡といえるかもしれない。
著者は広島県にお住まいの1級建築士・八納啓造(やのうけいぞう)さん。
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» なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?[Kindle版]
一読して感じたのは、場所が人に及ぼす影響力。すなわち、環境のパワーです。
そこで思い出したのが、2006年頃から個人的に考察を深めていた「環境ドリブン」と「自分ドリブン」というコンセプトです。
「環境ドリブン」と「自分ドリブン」
「環境ドリブン」、「自分ドリブン」、いずれも僕の造語です。
人は身を置く環境によってその行動に影響を受けています。静かな図書館であれば、おのずと集中して勉強をする気になりますし、自宅に帰り着けば放っておいてもリラックスするでしょう。
もちろん、例外もあります。静かすぎる図書館よりも、ある程度騒がしいカフェのほうが仕事がはかどるという人もいるでしょうし、神経が高ぶっていれば自宅でも緊張が解けないこともあるかもしれません。
それでも、たいていは環境を変えることで気分が改まり、行動にも変化がおよぶものです。
このように、環境の力を借りて行動を変えようとするアプローチを「環境ドリブン」と呼んでいます(ドリブンとは「駆動」の意味で、ここでは環境の変化がきっかけとなって行動に何らかの変化が起こる、というニュアンス)。
一方、環境に関係なく、自らの意志と努力によって行動を変えるアプローチもあります。こちらを「自分ドリブン」と呼んでいます。
この2つの「ドリブン」を比べた場合、いうまでもなく「環境ドリブン」のほうが「自分ドリブン」よりも楽に行動を起こすことができるでしょう。
例えば、受験生にとっての図書館や、ビジネスパーソンにとってのカフェは、それぞれ自宅という環境よりも何かに集中して取り組むうえでは適した環境といえます。
人が行動を引き起こす背景には外発的か自発的かという対立構造があるわけです。
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現在の住まい環境には満足している
僕自身、現在は駒沢公園のそばに住んでいます。2007年9月からなので今年で10年。
駒沢公園がそばにあったことでランニングの習慣が定着しました(今は肩を負傷しているため、お休み中)。
住み始めた当初は駒沢公園には特に関心はなく、訪れることもなかったのですが、2年ほどたったある日、会食をしたメンバー3人が駒沢公園の近所住まいということで意気投合。
この3人で一緒に週に一度の「早朝ランニングの会」を始めました。毎週月曜日の朝6:30に駒沢公園に集合して1週2Kmを走るだけでしたが、これがきっかけとなって、自分一人でも走るようになりました。
駒沢公園という環境が「早朝ランニングの会」を引き寄せ、「早朝ランニングの会」という環境が僕の中にランニング習慣を根づかせたわけです。
つまりは、環境ドリブンです。
また、仕事面においても、住んでいるマンションは静かな住宅街の一角にあるので落ち着いて仕事に取り組めています。
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不満に感じていることにすら、満足している
もちろん、不満に感じていることもいくつかあります。最も大きな不満が近所にスーパーや飲食店がほとんどない、ということです。
でも、この不満が実は「環境ドリブン」として機能しています。
平日の昼間は基本的に一人で過ごすことになるため、ランチは自分で作るか、買ってくるか、外食するかのいずれかになります。
僕自身、自炊ができないので、とにもかくにも外出する必要があります。
最初はこの「制約」をとてもネガティブに感じていたのですが、あるときふとポジティブにとらえられるようになりました。
外出をすることで強制的ながら気分転換ができるからです。つまり、「引きこもりすぎ」を抑止してくれるわけです。
今の時期ならあえて駒沢公園内を通り抜けることで、ちょっとしたお花見も楽しめますし、春や秋ならベンチで仕事、ということも可能です。
確かに外出は面倒なものですが、以下でも書いたとおり、いつもと違う場所に身を置くことで、ほどよい緊張感が生まれます。これが仕事を後押ししてくれるのです。
また、上記記事でも書きましたが、環境に慣れすぎないようにするために、同じ場所に連続して行かないようにしています。
以前、同じファミレスに足繁く通っていた時期があったのですが、ほどなくして緊張感が生じなくなり、仕事そっちのけでYouTube動画をえんえんと見ていたり(当時は「7GB制限」のようなものが一切ない、牧歌的でフリーダムな時代でした…)、調べ物に熱中したり、と“糸の切れた凧”に陥りやすくなりました。
環境を適度に切り替え、使い分ける必要があったのです。
最近気に入っているのが駒沢公園脇に新しくできたスターバックス。「巡回先」の1つです。
ちなみに、どうしてもまとまった時間を確保したいときは「ひとり合宿」も行っています。
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場に残る記憶
さて、『なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?』の中で興味を惹かれたのが「場に残る記憶」という話です。
ざっくりまとめると、以下のような内容です。
- あるできごとが起きた場所では、その場を使う人にその記憶が働きかけ似たようなことが発生しやすくなる
- 強く感情を揺さぶられたことほどその場に、記憶として残る
ややおどろおどろしい話になりますが、「場」には人の感情がしみついており、その後に訪れた人にも影響を与える、というわけです。
たとえば、「銀行が差し押さえ、競売に出された物件」には、そこに住んでいた人がローンが払えずに苦しんだという感情が残っており、その後に住む人にも同じような感情が引き起こしやすいというのです。
逆にいえば、ポジティブな感情で満たされた空間というものもあるわけで、そういう場所で打ち合わせをしたり仕事をしたりすることで、良い結果を引き寄せやすい、とも言えるでしょう。
科学的な根拠はありませんが、このあたりについて本書では以下のように書かれており、同意できるところです。
人間には誰にでも、「直感」が備わっており、「理屈では説明できないけれど好き」「どうしてもイヤな予感がする」といった感覚が、的を射ていることも少なくありません。
ここで仕事をすると捗る、あるいは気分よく仕事に取り組める、という場所は確かにあります。そういう場所が「巡回先」に加わっていくわけです。
まとめ
住まいだけでなく、ホテルやカフェなど、身を置く「場所」のもたらす、目に見えない力についての考察が新鮮でした。本書を読むことで、どこに暮すかはもちろん、どこで会うか、どこで話すか、どこで取り組むか、などなど「どこで?」の意識が高まります。
その結果、自分にとって望ましい「環境ドリブン」をいかに引き寄せるか、そのヒントが得られるはずです。
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