すごい実績を上げた人の話というのは誰もが聴きたいと思うもの。そこに「すごい実績」を得るためのノウハウがあると感じられるからでしょう。成功者による「成功本」は多くの人に読まれるのも同じ理屈です。
でも、実際に話を聴いてみると(読んでみると)、大切なのはノウハウではないことに気づきます。もちろん、ノウハウを知っていれば成功ににじり寄ることはできるでしょう。でも、それはあくまでも成功という“島”にたどり着くための“船”に過ぎません。
必要なのは船を動かすための薪や石炭。それがあって初めて成功に向かって漕ぎ出すことができるのです。
今回ご紹介する『繁盛店の「ほめる」仕組み』は、タイトルから連想される「飲食店向け」という枠を超えて、多くの迷える“船”たちに力強い推進力を与える、エネルギーに満ちた一冊。
著者によると、人が前向きな変化や進化を始めるには、あるスイッチが入る必要があるといいます。
どうすれば、そのスイッチが入るのか?
それは、その人が誰かから、自分の価値を見つけてもらったとき、そしてその人が自分の可能性に対して自信を持って、明るい未来を想像することができたとき。
その人が、自分も「ダイヤの原石」であると知ったとき。
つまり、もっと短い言葉で言うと、信頼する人から「ほめられた」ときです。
ほめるのに欠かせない比喩力
著者は「ほめる達人!」への道(ほめ達!)というブログを運営しており、本書ではその「ほめ達!」のエッセンスが体系的に解説されています。
個人的に感心させられたのは、著者の言葉力。特に、喩えが秀逸です。
例えば、以下。
- お金を入れないエアホッケー
- ほめる国への短期留学
- お客様からの返事は飛脚で来る
- スタッフという翼に風を送ってあげましょう
- 自分は花なのか、うんこちゃんなのか
- アイディアのファインプレー
- 「真剣でやってほしい」
いずれも、これだけを見ても「なんのこっちゃ」という感じかもしれません。でも、一度でも本文を読んでいれば、「あぁ、あの話ね」と言うことで即座に思い出せるはずです。人によっては読んだ時に思い浮かべたビジュアルシーンが蘇ってくる、ということもあるかもしれません。
比喩の良いところは、人の頭の中にビジュアルを描かせることができる、という点です。
例えば、今回のエントリーの冒頭で、島と船と薪や石炭という喩えを用いていますが、読んでくださった方の中には、頭の中に大海原と蒸気船を思い浮かべた方もいるでしょう。煤(すす)だらけの顔で一生懸命作業をしている船員をイメージした方もいるかもしれません。
いずれにしても、言葉だけではすぐに記憶から消え失せてしまうところを、しっかりと根をはって印象づける効果が、比喩にはあるわけです。
著者がこのような「比喩力」に長けているのには必然の理由があります。
それは、著者が日々自分の想いをたくさんの人(社員・スタッフ・仕事仲間・お客様・関係者など)に伝えなければならない状況に身を置いているからです。
たえず人に想いを伝える必要に迫られている著者の比喩力は、現場で今なおも磨き上げられ続けていることでしょう。
「ほめる」仕組み
本書ではその名の通り、「ほめる」仕組みが多数紹介されているのですが、冒頭でも書いた通り、いずれもノウハウであって、これを実地に活かさない限り、すなわち仕組みに薪を入れない限りは、1ミリも前には進めません。
薪は、本書の行間の随所に落ちており、読み進めることで拾い集めることができます。人によってたくさんの薪を拾えることもあれば、あまり拾えない人もいるかもしれません。
これは読み手の体験の量に左右されるところですので、仕方のないところではありますが、逆に言えばどんなステージにいる人であっても、学びはある、ということでもあります。
ということで、以下に挙げるのはいずれも“空砲”です(人によっては実弾入り)。
長所には4種類ある
- 自分だけが知っている長所
- 周りだけが知っている長所
- 自他ともに認める長所
- まだ発見されていない長所
・1 → 3、2 → 3、4 → 2 → 3
出会う人を味方に変える話の聴き方
- 目を見る
- うなずく
- あいづちを打つ
- 繰り返す
- メモをとる
- 要約する
- 質問する
- 感情を込める
社員・スタッフがあなたから聴きたい言葉(一部)
- 「なるほど!」
- 「そうくるか」
- 「そのアイディアもらってもいい?」
- 「知らなかった!」」
- 「刺激受けるなぁ」
- 「おしい!」
その他、気になったフレーズ・エピソード
・断られに行ったら、売れちゃった!
・ほめることしかしない会議
・著者の個人的な信条により、「HIMA」という言葉は「ゆっくり」とさせていただきます。
人を動かすための“薪”を必要としている方に読んでいただきたい一冊です。
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改めて説明するまでもない一冊。本書にも大量のノウハウが掲載されていますが、そのノウハウを活かそうと思えばやはり“薪”が要りますね。
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