仕事は楽しいかね? | |
デイル ドーテン Dale Dauten
きこ書房 2001-12 |
古典的名著に名指しで刃向かっているわけではありませんが、『仕事は楽しいかね?』の考え方の中にはたしかに『7つの習慣』と相容れないところがあります。『仕事は楽しいかね?』のもっとも「啓発的」なところは「目標を設定することなく成功の手応えの感じられる活動を見つけよう」というところだからです。
7つの習慣―成功には原則があった! | |
スティーブン・R. コヴィー Stephen R. Covey
キングベアー出版 1996-12 |
自己啓発なので突き詰めればいずれの方法論を信じられるかというところに行き着くのですが、信じられるかどうか以外の選択基準としては
- ハッキリとしたやりたいことや目標があるなら『7つの習慣』
- これと言ったことがないなら『仕事は楽しいかね?』
の方法論を選択すればいいと思います。
異端的な発想に慣れる
「7つの習慣」をTaskChuteで実践する方法については7つの習慣×TaskChute2!これでやっと完璧な第四世代の手帳が作れる!! | 旧jMatsuzakiを参考にして下さい。
私のこのエントリでは『仕事は楽しいかね?』の方法をTaskChuteに応用するやり方を考えてみます。
『仕事は楽しいかね?』のポイントはなんといっても「試してみることに失敗はない」です。これと言った不満はないが慢性的な不充足感があるという人向けの自己啓発書なのですが「やりたいこと」をやるのが難しく、自分が何を望んでいるか分からない人は「とにかくあれこれやってみて、うまく歯車が回り出したらそれにのめりこむ」べきなのです。
ちょっと見たところどうということのない発想ですが、これは典型的な目的達成型の考え方からするとだいぶ異端です。
- これと言った目的に向かって行動を起こすわけではなく、結果的にうまくいったことにエネルギーを注ぐ
- そのためにもうまくいきそうなことを次々に試していく必要がある
- やりたいことをやるというよりは、やっているうちにやりたいことが見つかるという発想
以上から見ても分かるとおりすでにやりたいことがハッキリしている人向けではありません。さらにもう一点大事なのは想像力や思考力をあまり信頼できない人向けの発想です。「自分のやりたいことは、自分を深く鋭い直感で探れば必ず見つかる」という考え方ではないのです。
次々にいろいろなことを試していくというやり方自体、「少なくとも一定期間は面白くないことでもやり続ける」という広くコンセンサスを得ている価値観とは相容れません。いろいろな意味で独特で、あまり広く理解されていない考え方なのです。
「余裕」を作る
『7つの習慣』を中心とした目標達成型の上昇志向と『仕事は楽しいかね?』の最も重要な違いは、余裕に関する考え方の違いにあると私は思います。
「試す」ことには失敗がつきものです。「試してみることに失敗はない」という発想は「ひたすらに試せ」と言っているのです。そうするためには少なくとも心の余裕が必要です。
『7つの習慣』でももちろん「失敗を恐れない」ことを強調しているわけですが、『仕事は楽しいかね?』で失敗を厭わないように言っている意味とは全然違っています。『仕事は楽しいかね?』で強調されているのは確率の問題です。好きになれること、うまくいきそうなことに出会うためにも、頭で考えるのに時間を使うべきではないということです。
ですから『仕事は楽しいかね?』の発想を実践するにはどうしてもある種の余裕が欠かせません。いろいろなことを試すには、そもそも時間が必要です。一見面白くもないことをとりあえずやってみるには、心の余裕も要ります。「ミッション」などはとりあえずおいておいて、何はともあれやってみろというわけです。
TaskChuteはここのところで非常に活用しがいがあります。時間の余裕を作るにはうってつけのツールだからです。TaskChuteはたしかに『7つの習慣』式の目標達成には、必ずしも直感的に使いやすいツールではありません。(階層式に管理できないため)。しかし時間に余裕を持つために、1日にやることを節約して、何かとやることを削っていけば確実に余裕が生まれてきます。
ここで繰り返し強調しておきたいことは「その空いた時間で何をするかが大事」ではない点です。むしろ「何をしても良い」くらいに思っておくべきなのです。時間に余裕があると試しに何かしてみようという気持ちを膨らませてくれます。つまり時間を無駄にする余裕が生まれるわけです。
試してみて失敗だったと言うとき、私達が恐れているのは結局時間を失うことです。そうでなくても時間がないと思い込んでいる私達はどうしても、最短距離で目標を達成したいという強迫的な思いから、トップダウン式に目標までの全行程を先に俯瞰し、その後に無駄のないアクションだけを起こそうと考えてしまうのです。
でもそれをするにはまずトップダウンの頂点に何をおくか、すなわち何に向かってまっしぐらに突き進めばいいのかを決めなければなりません。それを決められない人は「夢や目的が明確に定まっていない自分」に不信感や、時によっては罪悪感を抱きかねないのです。
しかし何を自分が好むのか、自分が何をしているとうまくいきそうなのかは、意外とやってみてからでないと分からないものです。今すぐトイレに行きたいというのでもない限り、「自分がいま何をしたいのか?」はそんなに自明ではない人も多いのです。
それでもなんとなく不満がある。つまり「やりたいことは明らかではないが、でも何か夢や目標を持って生きたい」というのであれば、ボトムアップに手探りであれこれやってみるしかありません。そのために必要なのはなによりも時間的な余裕、と言うより時間的な余裕があるという気持ちなのです。TaskChuteを使い込むことによってその気持ちを手に入れることができます。
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