「まあ、知らないならしょうがないよね。『演繹』とは、いくつかの決まりがあって、それを組み合わせて結論を出す方法のこと。それとは反対に、結論や結果から、もともとの原因や決まりをたどっていく方法が『帰納』だね」
「なるほど。まだ少しイメージがつかめないのですが…結論から前提を考えるなら、『なぜ、なぜ』は帰納ということになるんですか?」中川さんは、どこから取り出してきたのか「ピンポーン」と、○×クイズの正解音が鳴るおもちゃのボタンを鳴らしてから答えた。
「そうだね、『なぜ』を問いかけることで、帰納的にに考えることができるんだ」
「帰納的に考えるのは何がいいんでしょう?」
「ひとつは、結果、つまりゴールがはっきりと決まっていることだろうね」僕は、少し話の内容が飲み込めた気がした。
「そうか。今回のプロジェクトだと、最終目標は人形が売れることだから、そこから考えればいいということですね!」
「おお、よくわかったね、国分君」中川さんは、腕組みをして、やたらと大きくうなずきながら答えた。
今回ご紹介する『理系アタマのつくり方』は、文字通り「理系アタマ養成テキスト」。「理系アタマ」とは、本書の造語であり、「文系アタマ」と対を成す。
著者によると、それぞれ次の4つと3つの力の総称。
理系アタマと文系アタマ
●理系アタマ
- 論理力
- 抽象力
- 計算力
- 実験力
●文系アタマ
- 営業力
- プレゼン力
- コミュニケーション力
やや強引に分けるなら、理系アタマは「分かる力」(まず自分が理解する)、文系アタマは「分ける力」(人に理解してもらう)という分け方になるでしょうか。
僕自身は、どちらかというと文系アタマですが、最初の仕事はシステムエンジニアでしたから、「理系アタマ」に囲まれながら仕事をしていました。個性の差こそあれ、IT業界において「できる」と感じさせる人に共通するのは以下のような特徴。
- 飲み込みが速い
- 再現力が高い
- 応用力が高い
要するに、初めての仕事でもさっさと要領をつかんで、サクサクこなしていくような人です。プログラミングというのは、いかにパターンを見抜くか、そしてこれを別のケースに応用するかが問われますから、それが得意(=理系アタマ)な人であるほど有利ということになります。
僕自身は、純粋にコンピュータに対する好奇心からこの業界に一時身を置いていた、という程度で(今でもある程度はプログラミングもできますが)、プログラムを作るよりもむしろ「プログラミングってこういう感じですよ」とか「ブログのネタに詰まったらこうするのが吉」などのように、自分の「分かった」を人に伝える(=分ける)方が楽しく感じられます。
つまり、典型的な「文系アタマ」だということに本書を読みながら気づかされました。
どっちが読むべき?
では、本書がターゲットとしているのは、理系アタマな人なのか、僕のように文系アタマな人なのか、どちらでしょうか?
タイトルが「理系アタマ~」ですから、当然、文系アタマな人向けでしょう。でも理系アタマな人にも読んでいただきたいです。なぜなら、もっと文系アタマのことを知って欲しいからです。
理系アタマな人にとっては「文系アタマの人って、こんなことも分からないのか!」などと呆れるかもしれません。
例えば、「3個580円のりんごと7個1680円のりんごで、1個あたりの値段が安いのはどちらか?」という質問に対して、即座に判断が下せるのは理系アタマ。
文系アタマは(僕だけかもしれませんが)、答えよりも先にそこに至る道筋に意識が行ってしまいます。つまり、答えを出すプロセスを人に分かってもらいたい、というところからスタートするのです。だから、遅い。
本書には、どうしたらこうした判断を素早く下せるようになるのかの方法が紹介されているのですが、これはテクニックという側面ももちろんあるのですが、それ以上にそのようなテクニックを思いつく素地からして違うな、ということに気づかされます。
理系アタマの方に、この違いに気づいていただくことで、両者のコミュニケーションは円滑になるでしょう。知恵を分け合えるようになります。もちろん、文系アタマとしても、理系アタマを分かるための努力は惜しみません。
本書は両者にとっての良きガイドとなるはずです。
合わせて読みたい
『理系アタマのつくり方』には様々な考えるための手法やメソッドが出てきますが、以下の本もそのバラエティでは負けてはいません。理解を深めるために、そして応用範囲を広げるために、チェックしておきたい一冊です。
理系アタマの4つの力は「地頭力」と言い換えることもできます。ざっと読むことで、別の角度から復習することができるでしょう。