知的生産の技術書023~024『ストレスフリーの整理術』『TAKE NOTES!』

今回は023と024を。前回に引き続き「情報整理」に関する二冊の書籍です。

『全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』

タイトルに「ストレスフリーの整理術」とあるように、本書は情報整理術の一冊でもありますし、仕事術(あるいはタスク管理)の定番書でもあります。

なかなか分厚い本ですが、難しいことは特にありません。「気になること」を頭の中に留めておくと脳に負荷がかかりすぎるので、それらを紙に書き出して外部化し、それを適切なシステムで運用することで、脳をより生産的な仕事に使えるようにしよう、というのが基本コンセプトです。

重要なのは、「これは何か?」という自問でしょう。情報に接したときに、そのままスルーするのではなく、「これは何か? 自分はこれをどう処理すべきなのか? 何が必要なのか?」と一段踏み込んで思考し、その結果に基づいて情報を分類するというアプローチが採用されています。非常に分析的なアプローチです。

こうした自問をせずに、情報を揺蕩わせるだけでは、たしかに状況が整理されることはなく、混沌は深まっていくでしょう。大切な自問です。たとえば、タスクや資料の整理においては、こうした自問が強い力を発揮してくれることは容易に想像できます。必須だとすら言えるでしょう。

ただし、判断を下す時点で曖昧なもの・不確定なものは、どうしても落ち着かない「分類」になってしまう難点があります。何であれ何かに「分類」しないといけないので、不完全であっても、どこかに着地させなければいけないのです。

この難点は「アイデア」という曖昧なものを扱うときに、一番強く露呈します。そこにてこ入れしたのが次の本です。

『TAKE NOTES!』

本書は、「カード」ベースの情報整理術です。ニクラス・ルーマンという社会学者が使っていた方法を紹介する内容で、それに加えて「考える上での書くことの重要性」や「大きなアウトプットは日々の小さいアウトプットの積み重ねでできる」といった知的生産における重要点も指摘しています。

この「カード」を使う方法は、本連載の起点ともなった『知的生産の技術』でも提示されており、基本的なコンセプトはほとんど同じとすら言えます。カード1枚に1事を書く、「分類」せずに並べる、カード同士のつながりを重視する、といったポイントはどちらのカード法でも重視されています。むしろ、そのような操作を行うからこそ、「カード」という断片的な媒体が選ばれているのでしょう。

ちなみに、このニクラス・ルーマンのカード法は「Zettelkasten」(ツェッテルカステン)というドイツ語の物々しい響きで呼ばれていたりもしますが、日本語では「カード箱」くらいの意味なので、そう構える必要はありません。本書の原著では「slip-box」と呼ばれており、その語感の方が親しみやすいかと思います(slipは紙片のこと)。デジタルツールのScrapboxも似た語感ですね。

さて、本書(の原著)では、「GTDのような包括的なシステムはたしかに必要だが、GTDでは創造的な作業には足りない要素がある」と強く主張されています。たとえば、執筆活動においては、事前に「次の行動」を定めることができません。何かをやってみて、そのやった結果によって次の行動がようやく見えてくる、ということがあるからです。必要な行動を事前に適切なリスト(コンテキスト別リスト)に分ける、というアプローチそのものが不可能なのです。

同様に、「アイデア」の扱いも事前に決めた「プロジェクト」に割り振ればそれでOKとはいきません。むしろ、事前にはその用途が見えなかったアイデアの集まりによって、「プロジェクト」が事後的に生まれてくる、ということがあるからです。

カード法が、カードを分類しないことにこだわるのはこの点が影響しています。事後的な変化や生成がまったく生じないなら、その記録は「ノート」で十分でしょう。しかし、そうではないわけです。少なくとも、そうでない状況が起こりえます。にも拘わらず「ノート」でそれを行ってしまうと、変化や生成が抑制されてしまいかねません。だからこそ、固定的な位置を持たないカードを使い、後から自由に変化させられる状況を担保するわけです。

事後的に変化や生成が生じるということは、「カード」は繰り返し参照されることを意味します。時間を置いて何度も、その「カード」について考えるのです。一度「処理」したらOKとはなりません。その意味で、カード法はぜんぜん「スッキリ」しないわけです。ストレスフリーには至れません。むしろ、カードは「モヤモヤ」を保存し、想起させる力を持ちます。

そもそも、何かが「スッキリ」してしまったら、そのことについて考えたり、執筆したりする「動力」は失われてしまうでしょう。創造とストレスは、なかなか切り離せないものなのです。

まとめると、情報や物事を「スッキリ」させるための整理法と、そこにある「モヤモヤ」と長期的に付き合っていくための整理法があるわけです。知的生産活動においては、この両方が大切になります。

知的生産の技術書100選 連載一覧

▼編集後記:



新年度です! 頑張って原稿を書いていきましょう。日々進捗が大切です。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中

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