これはデジタルツールならではの特性だと言えるでしょう。アナログツールが固定的・固着的なのに対して、デジタルツールは可変的・変動的なのです。
デジタルノートを使っていく上では、そうした特性を捉まえておくことが肝要です。でないと、アナログツールの操作感をデジタルツールに求めてしまう結果になってしまいます。それはもったいないものです。
言ってみれば、今話題のDX(デジタル・トランスフォーメーション)と同じです。単にデジタルノートを導入するというのではなく、それを使う私たちの認識とワークフローの全体をデジタル・シフトしていくのです。
編集性の高さ
では、デジタルノートにはどのような特性があるでしょうか。
まず編集性の高さがあります。簡単に編集できるだけでなく、自由に編集できます。たとえば、書いたものを書き直すことはアナログノートに比べれば圧倒的に楽ですし、書いたものを別の場所に動かすことも容易です。書いた後で文字サイズを変え、その後でもう一度サイズを変えることもできます。すべての原稿を書き終えた後に、文章のフォントを変更することもできます。さすがにここまでの「編集」は、アナログでは難しいでしょう。
この特性があるおかげで、入力そのものを気軽にスタートできるメリットがあります。まず思いついたことを書き、あとで調整することが容易く可能なのです。原稿用紙ではまず考えられない「書き方」です。
すでにこの点で明らかですが、ツールの特性の違いによって、入力のやり方そのものが変化してしまうことがあります。入力だけでなく、もっと大きなワークフロー全体にもそれは及びます。そうした変化を視野に入れておくことがDXでは重要です。
移動容易性
さらにデジタルノートでは、情報の「移動」が容易です。別の場所に移すことが限りなく低コストでできるのです。
たとえばメールを思い浮かべればわかりやすいでしょう。紙の手紙と違って、世界中どこにでも送信できますし、同時に複数人に送ることもできます。情報を容易く「広げて」いけるのです。
また、この「移動」は、ある種の「複写」でもあります。その複写を自分用に行えば「バックアップ」となります。これもデジタルノートでは容易です。一つのノートをパソコンとハードディスクとサーバーの三種類に保存しても何の苦痛もありません。昔は、修道士が聖書を手書きで書き写していたことを考えれば、すごい技術の進歩です。
情報をたくさんの場所に持っておくことは、「冗長性」の確保と言え、情報の残りやすさを向上させてくれます。単一の場所にあるデジタル情報は失われやすいのですが、それが広範囲に「散らばせる」ことで、その生存率はアップするわけです。
「こんなんなんぼあってもいいですからね」というのはまさしく情報に当てはまるメッセージです。
検索と情報量
次いで重要なのが、検索です。デジタルノートは検索が可能である、という点が極めて重要です。
まず前提として、一昔前に比べるとデジタルノートに保存できる情報量は増えています。それも劇的に増えています。そうすると、目視で情報を探すのは、どこかの時点で無理になります。なんらかの手段を用いて情報を「検索」し、必要なものを取り出すことが必要となります。
逆に言えば、検索さえできるならば、保存されている情報が相当数多くなってもまったく問題はありません。アナログノートの場合は「後から探せる」ようにするために保存する量を抑える必要があったわけですが、デジタルツールはそうしたこと考えずに情報を保存していけます。あるいは、一度保存したものを「整理」して、数を減らすような努力も不要です。
この「検索さえできるならば、情報の量はどれだけ多くなっても構わない」というのは、理屈としてはわかっても、感覚としてはなかなかついていきにくいものがあります。ここが知的生産DXの大きな課題です。どうしても、自分の感覚の方に合わせてしまって、デジタルノートの特性を活かせないのです。
もう一点、「検索」に関していえば、それをやりやすいように情報が一定度合い「整形」されているのが望ましくなります。情報の形が揃っている方が、検索で見つけやすい、ということですね。それを突き詰めれば、正規化やデータベースにたどり着きますが、そこまでいかなくても、ある程度「揃えておく」と後から見つけやすくなる特性はあります。
転用性
デジタルノートに保存されるのはある形式を持った「データ」です。そしてそのデータは、他の形式に変換することができます。この点も、アナログノートとは違っています。
アナログノートでも、コピー機を使えば(つまり一度デジタルを通せば)複写は可能ですが、そこまでです。同じ情報のものがもう一つできるだけで、他の形になることはありません。
一方でデジタルツールでは、一つの形式から他のさまざまな形式へと変換させることができます。Wordでも多数のファイル形式の出力が可能ですし、WorkFlowyでもExportの種類は複数あります。また、ノートツールそのものにそうした「出力形式の選択」ができなくても、情報を保存してあるファイルが触れるなら、その中身を別の方式に変換することはいつでも可能です。
一番分かりやすい例は、テキストエディタでマークダウン形式で文章を書き、それをPDFに変換して、プリントアウトする、といったものでしょう。はじめから「紙で書く」ことをせずに、変換を経由してその形式に「持っていく」ことができます。あるいはそれをHTML形式にしてWebページにすることもできます。自由自在に動かせるのです。
少し抽象的に言うならば、デジタルノートではAの形式で作成しても、その利用はBやCの形式で行うことができます。しかも、そうしたところで、おおもとのAが失われるわけではありません。AはAのまま残しつつ、別様の利用が可能になるのです。
さいごに
今回は、まず大きくデジタルノート(ツール)の特性を見てきました。これらの特性を総合して言えるのは、アナログノートとデジタルノートは「記録を残す」という点では同じでも、ツールが向いている方向がぜんぜん違う、ということです。結果として、情報の残し方や利用の仕方も大きく変わってきます。
では、そうしたデジタルノートの作法とはどのようなものなのか。それについては次回考えてみましょう。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。