一時期のブログブームが過ぎ去り、昨今はYouTubeなどの動画メディアに人気が移行しつつありますが、ブロガーに比べるとYouTuberはプラットフォームへの依存率が高く、動画というメディアの編集の手間などを考えると、いまいち乗り切れない人も少なからずいらっしゃるでしょう(私もそうです)。
そうしたとき、最近注目を集めつつあるSubstackは、一つのソリューションになるかもしれません。
Substackについて
Substackは、ニュースレターサービスです。イメージとしてはメルマガが近しいでしょうか。ただし、ポッドキャストの配信もできるなどリッチな形態になっています。大橋さんの以下の記事も参考になるかと想います。
ポッドキャスト「シゴタノ!ラジオ」を始めました | シゴタノ!
さて、最初に大切なことを書いておくと、たいていのことはトレードオフで成り立っています。
あるものを手にしようと思えば、別のものを手放さなければなりません。つまり、選択肢のうちどれが一番優れているのかではなく、どれが一番自分が求めるものに合っているのかを考える必要があるわけです。
それを踏まえて上で話を進めると、Substackはニュースレターサービスですが、いわゆる巨大プラットフォームではありません。その点がメリットであり、デメリットになります。
Substackのデメリットとメリット
デメリットの一番大きな点は、「客集め」です。
巨大プラットフォームの場合、投稿者が「お客さん」を一人も持っていなくても、レコメンドや新着情報から新しい視聴者と出会える可能性があります。
しかし、Substackにはそのような効果は(現状ほとんど)期待できません。自分でせっせこ宣伝して、購読者を増やす必要があります。
一方で、巨大プラットフォームでないがゆえに、かなりダイレクトに視聴者や読者とつながることができます。
たとえば、既存のメルマガサービスの場合、購読してくれる人のメールアドレスを一覧で取得することは難しいのですが、Substackでは「hogehoge@hogehoge.comからフォローされました」のような通知がきちんとやってきます。
つまり、二重の意味でのダイレクト性があるのです。一つは、Substackを介さずにその人にメールを送れるようになる、という点。もう一つは、Substackというサービスを通しつつも、その人の受信箱に直接コンテンツを送れる点です。
違いがわかりにくいかもしれないので、少し解説しておきましょう。
たとえば、すでに購読してくれる人のメールアドレスがわかるなら、Substackの利用をやめたとしても、購読者とのつながりは維持できるわけです。つまり、移動できるのです。
言い換えれば、Substackでは利用者の囲い込みの敷居が極めて低く設計されています。最悪Substackが潰れてしまっても、なんとかやっていける状況があるのです。
また、メールでコンテンツを送るので、YouTubeのようにWebサイトやアプリに「来てもらう」必要がありません。
むしろ利用者が好みの形態でそのコンテンツを受信し、利用することができます。メールマガジンも同様の形態ですが、Substackでは同じコンテンツをWebサイトにも公開できるので非購読者に向けてのパブリッシュも兼ねてくれるのです。
後者のパブリッシュについては、Substackが潰れたら消えてしまうわけですが、購読者に送信したコンテンツの方は、Substackが潰れようが、私が死のうが購読者の手元に残ります。
この点は、Webサービスの短命さがよりはっきりとしてきた昨今において存外に無視できないのではないでしょうか。
有料に向けて
以上だけでも、かなり魅力的な選択肢なのですが、Substackは有料と無料の両方を一つのアカウントで展開できます。
つまり、無料のメルマガと有料のメルマガを別々にわけて展開する必要がありません。そのコンテンツの特性に合わせて無料・有料に振り分ければいいだけです。
もちろん、2020年の現在においてコンテンツと課金の関係は難しい問題をはらんでいます。
Webが理想とする「開かれたリソース」と、書き手が書き手としてやっていくために必要な資金をどう整合させるかは、ずっと問題ではありました。
ただし、勝手にマッチングされるような広告収益ではもはや限界は近く、全体の月額費をビュー数に応じて再分配する方法も競争が厳しくなりすぎて英語圏のように全体のパイが相当に大きくないとまとなレベルの収益にはならないことは想像できます。
ようするに、今のままでは無理なのです。
少なくとも、最新の話題を常に追い、ときに炎上も辞さずに、PVを掃除機のように吸い集めるようなコンテンツ作りを続けていくことをしないなら、上のような収益獲得方法とは別のしかたが必要となります。その一つが、有料のsubscriptionというわけです。
トレーニングとしてのSubstack
しかし、Substackは一筋縄ではいきません。先ほども述べたように、巨大プラットフォーム的な恩恵はないので、地道な宣伝活動を自分でおこなっていくしかありませんし、バズりなどとは違った形で、しかも有料として納得してもらえるコンテンツ作りをしていく必要があります。
少し極端に言えば、「クリエーター」として自分で立つ必要があるのです。少なくとも『Substackの教科書』のように成功のための方法を手順化することは不可能でしょう(そういうのが出たら全部嘘だと思った方がいいです)。
そもそも「一億総クリエーター化」というのは、プラットフォームの力でげたを履いて無料(でしか消費されない)コンテンツで収入を得ることではなく、むしろ一人ひとりの存在が上記のような力を得ることが真なる達成だったと思うのですが、どこかで曲がる角を間違えてしまったのが現状なようです。
だから、Substackはある種筋トレのようなものです。コンテンツ作りのトレーニングです。これには二つの意味があって、一つは上記で述べたように有料に値するコンテンツに取り組むことであり、もう一つは無料をうまく使ってプロダクト以前のものを他人にシェアすることです。
現代では、ローカル(自分のパソコン)から外に出たら一気にWebという中間の緩衝材的地点が欠落した状況で、なかなか「練習」をすることができません。どう考えても、「いきなり本番」というのは負荷が高すぎるので、そうでない場所を持っておくのは長期的に見て有用だと感じます。
なんにせよ、万物は流転し、ブームは終わり、バブルははじけ、平家もいずれは滅びます。いろいろなものが変わっていくのです。
一方で、コンテンツを作りたい人と、それを楽しみにする人はいつの時代だって存在しています。それを起点にして、あとはその接面(インターフェース)をどのようにデザインするかだけが変わっていくのでしょう。
加えて言えば、Substackは複数人での運営も可能となっているので、これまでのブログ文化とは違ったものが生まれてくることも期待できます。おそらく今から1〜2年のうちにいろいろな変化が生まれてくるのでしょう。
最後に宣伝しておくと、ごりゅご.comのごりゅごさんと新しくSubstackを始めることになったので、よろしければこちらもご購読ください。「本」についてのSubstackです。
▼参考記事:
ニュースレターサービス「Substack」とパーソナルメディア帝国 | TechCrunch Japan
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。