今回は、少し独特だと言われているScrapboxの記法についてお話します。
結論から言えば、そんなものは特に覚える必要はありません。
実際私も、Scrapboxを使い始めた頃はいろいろな記法で遊んでいましたが、時間が経つにつれ使うものは減り、最終的にはまったく使わなくなりました。
ただ一つ、ブラケティングを除いては、です。
ブラケティング
Scrapboxで唯一覚えなければならないのは[]です。
キーワードを[]で括ること。
URLを[]で括ること。
以上です。
そのような動作はブラケティングと命名され、Scrapboxユーザーの間で親しまれています。
空っぽの[]からスタートすれば、入力したテキストに応じてページタイトルをサジェストしてくれますし、もし万が一強調したい(文字を大きくしたい)という要望を持つなら、ブラケットの中に*を入れればいいだけです。
文字サイズを大きくしたいなら、*の数を増やせば問題ありません。
極めてシンプルです。
Scrapboxを使う上で、おおよそ9割程度はこの記法知識でいけます。
これはマジな話です。
画像はドラッグ
もう一つだけ覚えておきたいのは、画像の挿入です。
といってもこれは記法を使う必要はなく、単に画面に画像をドラッグ&ドロップすればOKです。
画像をクリップボードにコピーしておき、ペーストすることでも挿入できます。
この場合は(設定で変えない限りは)、Gyazoに画像がアップロードされ、そのURLがブラケティングされて挿入されます。
逆に言えば、Webに置いてある画像のURLをブラケティングしても、画像を表示できます。
そうです。ここでもブラケティングがあれば事足りるのです。
ショートカットで移動
入力に関しては、本当に以上で問題ありません。
やたらめったら凝ったページを作るのでない限り──つまり、知的生産活動のコア部分は──何一つ支障なく行えます。
むしろ、記法よりも重要なのは、入力した項目の移動です。
Scrapboxでは、ショートカットキーで行操作・段落操作ができます。
行操作はカーソルがある単行を、段落操作はカーソルがある行をトップとする段落を移動させられます。
この操作を使い、ざっと入力した内容を「編集」していくのです。
「編集」という言葉が大げさに感じられるなら、「書き直す」や「整える」でも構いません。
なんであれ、書き出したことを土台として、内容をversion upさせるのです。
文章作法では、「トピック・センテンス」という考え方があります。
その段落の概要を示す一文がトピック・センテンスで、その部分だけを読んでも段落で言いたいことがわかる内容になっているものです。
一般的に(特に英文では)トピック・センテンスは段落の冒頭に示すのですが、問題は走り書きのようなメモでは、そのような順番で頭からは出てこないことです。
つまり、最終的に言おうとしているのがDであっても、その時点で頭に浮かんだのがAであり、
- A→B→C→D
と書きながら/考えながら、徐々に浮かび上がってくることが多いのです。
そこで活躍するのが、項目の移動です。
つまり、まずは A→B→C→D で書き出しておき、最後のDをトップに持ってくることで、あたかも最初にトピック・センテンスを書き出したかのように整えられるのです。
これは、一つの段落だけに適用できる話ではありません。
ページ全体について言えることでもあります。
つまり、まず内容と思わしきものを書き出していき、その後でそのページの概要→タイトルをつける、ということも含まれるのです。
ちなみに、他のツールではページ(ノート)のタイトルと本文が領域的に区別されているものが多いですが、Scrapboxではそれが地続きになっています。
よって、本文の一行目をショートカットで「一つ上」に上げると、それがタイトルになります。
ページ全体のトピック・センテンスなわけです。
さいごに
Scrapboxは、入力操作に関してはおどろくほど簡単になっています。
それは、凝った表現とは距離を置いているからです。
凝った表現は、整った最終成果物において必要になるものであり、knowledgeベースで必要になるものではありません。
国語辞書がAmebaブログみたいに書かれていたらきっと使いづらいでしょう。
そういうことです。
多彩な記法より(もっと言えば多機能より)必要なのは、まず内容を書くことであり、次にその内容をブラッシュアップすることです。
KJ法を解説した『発想法』(川喜田二郎)でも、適切な見出しをつける難しさが説かれています。うまいタイトル、ぱっと意味が掴める箇条書きを書くのは簡単ではありません。
ある程度の試行錯誤と技術が必要です。
幸い、Scrapboxはそのことをちゃんと理解していて、これをサポートするための機能が満載です。
Scrapboxについて、まず評価すべきはこの点であって、他のツールと比較してできることが多いとか少ないとか言うのは、ツールの中身を見ていないに等しいものです。
大切なのは、ノートそのものではなく、ノートを書く人の技術(=ノーティングの技術)です。
それが不足していれば、どれだけ高性能なノートツールがあっても、知的生産を活性化させることはできません。
ですので、いろいろなツールに目移りするのではなく(そうしたい気持ちは十分理解できますが)、まずは一つのツールにおいて、着想や情報を書き留め、それをブラッシュアップし続けることを経験してください。
それがノーティングの最初の一歩となります。
▼参考文献:
Scrapboxは簡単に使えると書いていますが、案外「隠し要素」は一杯あるので、その辺を知りたい方は本書をどうぞ。
▼今週の一冊:
タイトルと出版社から、一見『思考の整理学』を彷彿としますが、実は『発想法』の系譜を継ぐ一冊です。現代的なKJ法の方法論を学べる内容になっています。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。