こういう現象を「好き」というのでしょうが、これら「好きなこと」について、「なぜ好きか?」とか「もういいかげんにしたら?」(と言われたことがあります)とか言われても、答えようがないのです。
ヒトの脳は「因果律」に弱く、やたらと因果律が好きです。
「なぜ好きか?」と過去の原因を問い、「何になるのか?」と未来の報酬について聞く。
これらはいっけん頭の良さそうな質問ですが、実際には決して賢明な問ではありません。
「好き」どこにある?
「好き」とは因果関係が、うんと背景に退いたときに浮かび上がるものです。
因果をわざわざ前面に引っ張り出しても「好き」をとらえ損なうだけなのです。
自分の好きなことをちょっと思い出してみても、このことはすぐわかるでしょう。
自分の子どもが好きだという人に、理由などないはずです。尋ねたところで「自分の子どもだから?」としか答えようがない。「利発だから」とか「かわいいから」などというのは理由ではない。
我が子よりかわいい子も利発な子もいるに決まっていますが、そう知ったとたんに愛情がそのぶん目減りするなどということは起こらないはずです。
映画や小説やコミックにどっぷり浸ると、時間のことが頭から消えます。これはほぼすべての人が経験していることです。
原因は過去に、結果は未来に仮置きされるものです。時間感覚が頭から消えれば、原因も結果も消失します。好きなことは、原因と結果の消えたところにあります。
「好き」は説明できない
ウィンブルドンを何度も制し、「芝生の王者」の異名をとるスイスのロジャー・フェデラーは、きっと「テニスが好き」でしょう。
好きでは充分でないかもしれません。テニス以外なにも頭になかったほど、どっぷりのめり込んでいた時代も、当然あったはずです。
フェデラーはなぜ「テニスが好き」になったのか?
きわめてどうでもいい問としか思われません。
フェデラーがテニスをしている「目的」は、健康を維持するためか?
論外と言うべきでしょう。
原因を言語化でき、目的を説明できるようなことは、「好き」なことではありません。
あるいは、そのような原因と目的に関する説明は、真実ではありません。
レロン・リーにガムをもらったから、「ロッテが好き」になったわけではありません。もしもそういうことなら、レオン・リーにガムをもらったのに「大洋ホエールズ(当時)」を好きにならなかった説明がつかなくなります。
勝つと精神衛生上有意義で、明日の仕事がはかどるから「ロッテを応援している」わけではありません。そういう目的であれば、今年は楽天イーグルスのファンに鞍替えすべきでしょう。
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