洋画を観る場合、通常は、
- 音声:英語[オリジナル]
- 字幕:日本語
という組み合わせの方が多いでしょう。
これを、
- 音声:英語-副音声
- 字幕:日本語
という組み合わせにすると、登場人物のセリフ以外の、情景描写(ト書き)の音声も聴くことができます。
この「ト書き音声」が英語学習には打ってつけなのです。
ト書き音声が英語学習に打ってつけな理由
結論から言うと、ト書き音声を聴くことは、目で見た情景を言葉を介さず「音」としてインプットすることになるからです。
日本語が介在しない、しかも「英文」すらも介在しないことで、いま目にしている映像に対応する音(英語)を直接インプットすることができます。
これは、赤ん坊が言語を習得するプロセスとよく似ています。
スペルや文法は無視してとにかく耳から入ってきた音を、そのときに目にしていた、あるいは体験していた感覚とセットで取り込んでいきます。
こうすることで、その後に同じような体験をしたときに、同じ音が自動的に脳内で再生されるようになりますし、逆に同じ音を耳にしたときに、対応する記憶が自動的に脳内で想起されるようになります。
この自動的な反応こそが言語を身につけることのゴールのはずです。
それゆえ、映像を目にしながら、これに対応する音を耳で聴く、すなわち洋画を「英語-副音声」を聴きながら観ることが英語学習には打ってつけになるわけです。
目で見た情景をそのまま英語に変換する習慣が身につく
もちろん、英語音声+日本語字幕で洋画を観ているだけでも英語表現は学べるのですが、それはセリフとして発せられた表現に限定されます。
「英語-副音声」であれば、セリフには現れない、役者たちの「動き」や「表情」も英語で説明してもらえるので、「こういう動作は英語ではこう表現するのか!」という発見が得られます。
「話す」という行為は自分が目にしている、あるいは頭の中に思い浮かんでいる情景を言葉に変換することなので、映像を目にしながら副音声を耳で聴くのは実に理にかなった勉強法と言えます。
映画を楽しんでいるだけなのに英語の勉強にもなってしまうという。
Netflixは字幕を英語に切り替えることができますので、「いま何て言った?」と疑問に思ったら英語字幕で確認できます。
一方、「ト書き」については英語字幕でも確認できないため「音」だけしか分かりません。
でも、むしろそれが良いのです。
文章ではなく音で、いま目にしている情景を刷り込むほかないからです。文章を介在させることなく音と情景を関連付けていくことになります。
目で見た情景をそのまま英語に変換する習慣が身につくわけです。
なかなか聴き取れなかった「安心させるような表情で微笑んだ」
最近観たあるシリーズドラマで、不安にさいなまれている役者A(男性)に対して、役者B(女性)が「安心させるような表情で微笑む」というシーンがありました。
ト書きでは、
- She gives him a reassuring smile.
と言っていたのですが、最初は速すぎて聴き取れませんでした。
そこで、このシーンをくり返し再生。
…しているうちに、一部分を除く、
- She gives him XXXXX smile.
が聴き取れて、なおもくり返し再生しているうちに「あっ、reassuringか!」と気づいて、ようやく
- She gives him a reassuring smile.
と解釈できました。
英和辞典を引くと、以下のような用例が見つかり、納得。
もちろん、聴き取れなかったシーンすべてについて、いちいちくり返し再生していたら映画が楽しめないので、本当に気になったところだけにしていますが、一度聴き取れると、その後は「あぁ、アレか」と瞬時に、しかも和訳を介さず理解できるのが快感です。
実はこの表現、同じドラマのその後のエピソードでも登場したので、まさに「あぁ、アレか」となりました。
「副音声」がない作品もある
ただし、すべての作品に「副音声」が用意されているわけではないようです。
特に、激しいアクション映画など、副音声が「追いつかない」ような作品は対象外なのだと想像します。
たとえば、以下は「ジョン・ウィック:チャプター2」の音声および字幕メニューですが、音声は「英語[オリジナル]」か「日本語」のいずれかしかありません。字幕も「日本語」のみ。
逆に「イングロリアス・バスターズ」のような、英語以外の言語が飛び交う作品では「副音声」が向きます。
たとえば、役者がドイツ語を話すシーンでは副音声がこれにかぶせる形で同じセリフを英語で話してくれるため、特にドイツ語を勉強している人でない限りは英語学習の面では都合がよいでしょう。
「イングリッシュ・アドベンチャー」を思い出す
昭和世代しかピンと来ないと思いますが、僕が大学生の頃(1990年代)に「イングリッシュ・アドベンチャー」という音声教材がありました(探したら今もありました!)。
「家出のドリッピー」とか「コインの冒険」とか「ゲームの達人」といったシドニィ・シェルダンによる小説をオーディオ化した教材です。
小説なので、当然「ト書き」も含めて聴くことができます。
オーディオ教材なので当然映像はありませんが、これはまさに「英語-副音声」そのものです。
まず音を覚え、その後で文字を見る
僕自身、大学で言語学をかじっていたこともあり、人が新しい言語を身につけるプロセスには並々ならぬ関心を持っています。学生時代は個人的に6つの外国語を平行して勉強していた時期もあり、新しい言語を学ぶのにどんな方法が最も効率が良いのかについて一家言もっています。
ベースになっているのは、『科学的な外国語学習法―日本人のための最も効率のよい学び方』という本。
1992年刊行ということで中古本しか出回っていませんが、学生時代から愛読しており、復刊が期待されます。
本書でも「耳から学ぶ」学習法が強調されています。
ざっくりまとめると以下のような手順です(「テープ」という言葉が時代を感じさせます…)。
- 教科書を見ずに、テープを何十回も聞く
- 辞書を引かずに、テキストを音読し、その内容を探ろう
- 品詞と機能をチェックする
- 同じ練習問題を何回もやる
- 書き取りをやる
- テキストを朗読して、テープに吹き込んでみる
- 予習は完璧にやる
特に最初の「教科書を見ずに、テープを何十回も聞く」が強烈で、以下の解説にうなずかされました。
- 効率の良い勉強法は、テープの外国語を聞いたら、その言葉を自分でも唱えてみることである。
- 最初のうちは、日本語に存在しない音(たとえば、フランス語、ドイツ語の[r])が全く聞こえなかったり、話し方が早いために、よく聞き取れなかったりで、テープから流れてくる外国語の音について行けないが、聞こえた音を自分で唱えているうちに、聞こえない音も、次第に聞こえてくる。
- 「テープで音を覚え、その後で文字を見る」という順序は、絶対に守られなければならない。その逆に、音を聞く前に、教科書を見ると、間違った発音で、文字を読んでしまう。
- 音を聞きながら、テキストを見ているのも、実に悪い勉強法。これをやると、音を聞いた途端、文字を思い浮かべる、という困った条件反射が出来上がり、外国語の習得、特に、会話学習の妨げとなる。
- 音を聞く時は、目を閉じていた方がよい。