しかし、本に関する情報は、インプットするだけでは足りません。その情報をもとに、実際にどれを読むのかの決定が必要です。
面白い本(かもしれない)本は、できればすべて読みたいところですが、現実的な時間と金銭には限りがあります。取捨選択を避けて通ることはできません。
もちろん、自分好みの情報を集めてきたのですから、適当に選んでもハズレを引く確率はそこそこ低いでしょう。しかし、もう一歩踏み込んだ決定方法も欲しいところです。
今回はその方法について考えてみましょう。
著者買い
一番簡単で、わかりやすく、すでに多くの人が実践している方法が、「著者買い」です。一度読んで面白かった本と同じ著者の本を率先して買う。本選びの失敗をリスクと捉えた際、もっとも効率的なリスクマネジメントがこの選択方法でしょう。
なにせ「自分が面白かった」という強力な経験があります。もちろん、同じ著者の別の本が同じように面白いという保証はなく、単なる帰納的な推論でしかありませんが、それでも確率を考えればリスクはかなり低くなります。
ただし、この選択方法には問題が二つあります。一つは、その著者が出している本をすべて読み切ると選択肢がなくなること。もう一つは、これまで読んだことのない著者の本がまったく選ばれなくなること。この二つです。
詳しい解説は不要でしょうが、ようするに、この選び方だと読書範囲が強く閉じてしまいます。よって、プラスアルファの選び方があった方がよいでしょう。
著者関連買い
ある著者の本が面白いと感じたら、その著者が少しでもコミットしている本やコンテンツに手を伸ばす、という選択方法もあります。解説を書いている、紹介文を書いている、書評を書いている。なんでも構いません。こうすると、本選びに「まぎれ」が起こり、新しい広がりを得ることができます。
もちろん、これは間接的な基準なので、単純な「著者買い」よりもハズレを引く確率は少し上がります。しかし、これは「閉じない」ための最低限のコストと考えておけばよいでしょう。そのコストを支払うことによって、自分が知らなかった(≒これまで体験してこなかった)面白さと出会う可能性を発生させられます。
同様に、気に入った著者が気に入っている別の著者に手を伸ばしてみる、という探索方法もあります。これも間接的でしかないので、ハズレを引く確率は上がりますが、一つの冒険としてはリスクはそれほど高くありません。
読者買い
もう一つ、別の角度からの選択としては、「お気に入りのレビュアーが勧めている本を優先的に読む」という読者買い(レビュアー買い)です。
この選択方法は、ややもすると権威主義的になりかねないのですが、しかし、「気に入った著者の本はだいたい読んでいる」のと「気に入ったレビュアーが勧めた本はだいたい読んでいる」のに、どれくらい大きな違いがあるでしょうか。
もちろん、違いはありますが、レビュアーの選択自体を権威で選んでいない限りはそれほど大きくありません。つまり、「有名人の○○さんが勧めているから読んでみよう」ではなく、「あの人が勧めていた本は面白かったから、別の勧めていた本も読んでみよう」なら、結局コンテンツの関連性で本を選んでいるだけであり、著者買いしているのに近い状況になるわけです。
※もちろん、そのレビュアーさんがまっとうにレビューしていれば、という前提がつきます。
もし、複数人のレビュアーを観測しているならば、「あの人とあの人が面白いと言っていたから読んでみる」のように、少し複雑な閾値を設定することも可能です。医療でもセカンドオピニオンの重要性がよく説かれますが、このように複数人(※)から広く本の情報を集めていると本の選び方にも幅が出てきます。
※違うクラスタの複数人でないとあまり意味はありません。
さいごに
これまで一冊も本を読んだことがない人は、そもそもとして選ぶための基準を持たないので、誰かのオススメか、ランキング、あるいは偶然性に身を任せるしかありません。
少しずつ読書体験を重ねることで、お気に入りの著者やジャンルが生まれ、選ぶための基準も育ってきます。しかし、著者買いだけだと、本選びの幅は広がりません。自分が面白いと思えるかもしれない本との出会いの可能性を大きく削っていることになります。そこで、ときどきそこから飛び出して、新しい世界に手を伸ばしてみることも必要でしょう。
著者関連買いをしてみたり、読者買いで普段なら手に取らないような本を読んでみたりといった、ややもすると「ノイズ」になりかねないものに接触することで、閉じることを防げるようになります。ただし、その情報は事前に「自分好み」でフィルターしておかないと、ハズレばかり引いて辟易してしまうかもしれません。その点には注意が必要です。
▼今週の一冊:
タイトルに騙されてはいけません。小説の書き方の詳しく解説されるのではなく、むしろ「小説」全般についての講座と捉えるのがよいでしょう。もちろん、ある程度はエーコがどのように小説を書いているのかの話もあるので、そういう話題が好きな人にも楽しめる内容です。驚きは、「リスト」の話がまるまる章一つ使って語られていること。実用的なリストの話ではないのですが、まさかこんなところでリストに遭遇するとは思ってもみませんでした。
» ウンベルト・エーコの小説講座: 若き小説家の告白 (単行本)
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由