人に頼る本選び | 面白く本を読むための読者術

カテゴリー: R25世代の知的生産

本は情報を伝える媒体であり、その価値は読んだ後にわかります。

熟練の本読みともなると、表紙を見ただけでその本の面白さが判断できるという噂も耳にしますが、ごく普通に本を読んでいる人はなかなかそうはいかないでしょう。

となれば、本の価値は、実際にその本を読んだ人(≒読者)に聞くのが一番です。



本と読者のマッチ

電子機器のように、スペック表があれば機能的価値が判断しやすいものはともかくとして、本のように情報を摂取してからはじめてその価値がわかるようなものは、リアルな体験者の意見が大いに役立ちます。

そして、幸いなことに、現代では実際に本を読んだ人の声をたくさん聞くことができます。ブログの書評記事しかり、カスタマーレビューしかり、感想ツイートしかりです。これだけ豊かな情報があれば、さぞかし本を選びやすい状況になるかと思いきや、なかなかそうはいきません。なぜでしょうか。

もちろんそれは、人によって本の価値は変わってくるからです。

ごく単純な話をすると、初心者向けに書かれた本は上級者にとっては冗長でしょうし、上級者向けに書かれた本は初心者には読めないかもしれません。他にもいろいろなパターンが考えられますが、本と読者がミスマッチしていれば価値は見出されませんし、また誰かが価値を見出していたとしても、自分にとって同様の価値があるとも限りません。

わかりやすく言えば、「誰かが面白いと言っていても、自分にとってはつまらない可能性があるし、誰かがつまらないと言っていても、自分にとっては面白い可能性がある」ということです。この点が、本の感想・評価の扱いの難しさになります。

レビュー・レビュー

であれば、感想をそのまま受け入れるのではなく、それを解釈しなければいけません。「ああ、この人は上級者なので、この本は合わなかったんだな。でも、初心者の自分にとってはどうだろうか」、と。

しかし、感想がただ「つまらない」だけであったとしたらどうでしょうか。ここから何かしらの解釈を引き出すのは、かなり難しいものです。どこの、どんな点が、どのようにつまらなかったのかが指摘されていれば、その点を踏まえて、自分なりの解釈が可能となりますが、限定的な情報では限界があります。

あるいは、「つまらない」だけであったとしても、その評価者の他の本の評価や趣味を知っていれば、ある程度は情報の解釈が可能でしょう。しかし、断片的に評価だけがポツンとあるだけではこれは不可能です。

本に対する評価があるにしても、それを利用するためには、その評価について自分で評価しなければいけない──そのため、ウェブ上に大量に本の感想があるにしても、真なる意味で「使えるもの」は実は限られています。

主観的な価値

もう少し考えてみましょう。本は、

という二つの価値を持ちえます。実用書は前者に重きを置き、小説は後者に重きを置きます(もちろん、多様なバランスがありえます)。

前者は比較的客観的な評価が可能ですが(「明らかなウソが書いてある」など)、後者は主観的なものであり属人的な要素を持つので(「ジェットコースターのような展開が快感だった」など)、一般に敷衍するのは難しくあります。しかし、本の評価として欲しいのは、まさに後者の情報です。

ページ数が多いとか参考文献が多彩だ、といった情報ももちろん有用ではあるのですが、それは決定的な本選びの材料(あるいは、面白い本を選ぶための手がかり)にはなりません。そこにどのような読書体験があり、それをどう評価したのかがわかれば、自分にとっての面白い本選びの材料として使うことができます。

つまり、そういう情報を発信している人をぜひとも知りたいところなのです。

さいごに

「万人が万人とも面白いと評価していれば、自分にとってもその本が面白い」と言い切れるなら話は簡単なのですが、そうはいかないのが本選びの難しいところです。

どちらにせよ、星の数ほどある本の中から選び取るためには、何かしらでフィルターせざるを得ません。その中で、「人」をフィルターにするのは、なかなか有効な手段です。本は読まれてはじめて価値が生まれるものなのですから、本を読んだ人に頼るのはまっとうでしょうし、また、人の好みや属性は(ある程度は)近しい部分があるので、その傾向を利用するのも効率的でしょう。

とは言え、誰かが勧めた本は必ず読む、みたいなスタイルは当たり外れが大きくなります。なぜなら、自分とその人は完全に同じではないからです。だから、どのような評価であっても、一定量の解釈が必要です。評価の情報を、さらに評価するのです。そのため、詳しい感想を書いてくれる人や、連続的に評価を発表してくれる人は、そうでない人よりも「頼りがい」があることになります。

さらに、複数の評価者とつながっておくことで、「あの人とあの人が面白いと言っているのだから、ちょっとチェックしてみようか」という風に、細かい閾値を設定できるようにもなります。

こうしたことが、人に頼る本選びのちょっとしたコツであり、面白い本との遭遇率を上げてくれます。

▼今週の一冊:

たまたまゆえあって再読したのですが、時間が経って(主に社会のデジタル化が進んで)役に立たない記述もちらほら見かけますが、書斎の作り方や情報が溢れてしまう傾向などの考察は、今でもキラリと光ります。ちなみに、私の作業机は、台と台に天板を渡しただけの簡素な作りで、引き出しもろもろは一切存在しませんが、本書が指摘するように、これが一番使いやすい机の形だと思います。

» 「超」整理法2 捨てる技術 (中公文庫)[Kindle版]


▼編集後記:




かーそる第二号がいよいよ佳境です。というか、ほぼできかかっています。さすがにこの記事が公開されるタイミングではまだ発売されていないでしょうが、そう遅くはないうちに発売できそうです。特集のテーマは「書く道具と書く動機」(仮)です。お楽しみに。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。

» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由


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