そう考えると、面白い本を読むためには、面白い本に出会うことが欠かせないことがわかります。選択肢に面白い本が含まれていなければ、どれほど賢明に選択したところで面白い本を手に取ることはできないでしょう。
以上は単純な話なのですが、解決はそんなに単純ではありません。
スタージョンの法則(「全てのものの90%はカスである。」)が言うように、質の高いものの割合が小さいから、というのも理由にはありますが、それだけではなく、私たちが出会う本には偏りがあるというのもその理由です。
偏った選択肢
そもそもとして、私たちは出版されるすべての本に出会うことはまずできません。仮にできたとしても、情報量に圧倒されてしまい、それだけで本を読むための時間を消費してしまうでしょう。実際には、私たちはあらかじめ誰かによって(あるいは何かによって)選別された形で本との出会いを体験しています。
たとえば、書店では、配本されたか、書店が注文したかで選別された本が並んでいます。当たり前ではありますが、出版されたすべての本が書店に並んでいるわけではありません。選別された選択肢の中から、私たちは自分が手に取る本を選ぶことになります。もし、その選択肢に、面白いと思える本がいっさい含まれていなければ、面白い本を選びとることなど不可能でしょう。
つまり、そのような偏った出会いの中に、自分が面白いと思える本が含まれていることが、面白い本を選び取るための最低限の条件となります。
選択肢の選択肢
では、読者として、選択肢の質を上げるためにできることはなんでしょうか。それは、選択肢を選別する主体を選択することです。もっと言えば、複数の選別主体を候補に加えることです。ややこしい言い方を避けて、ざくっと簡単に言ってしまえば、「たくさんの書店を巡る」ことと言えるでしょう。
ごく単純に言って、二つの書店だけでもその品揃えは異なっています。よって、二つの書店を巡るならば、その二つの書店の品揃えが自分の「選択肢」になります。しかし、そうは言っても、似通った規模の書店ならば、品揃えも似通っていることでしょう。そうすると、その差分だけしか+αにはなりません。であれば、一つの新刊書店と、一つの古書店ならばどうでしょう。これでぐんと選択肢が増えます。
もちろん、本を選別する主体はリアル書店だけではありません。電子書籍ストアもそうですし、書評ブログやブックキュレーターもそうです。読書好きの友人も、そこに加えてよいでしょう。
そのような選択肢の提供主体を複数持つことで、選択肢そのものも豊かになりますし、またそれぞれの傾向を把握することで、自分好みの選択肢が提供されやすくもなります。そのように充実した選択肢があれば、面白い本と出会える可能性も上がり、その本を手にできる可能性もあがるでしょう。
さいごに
読者として面白い本を選択するためにできることは、まず面白い選択肢を作ることです。複数の投資先を持つポートフォリオと同じように、さまざまな選択肢を持っておけば、面白い本との出会いの可能性はアップします。逆に、面白い本がどこから降ってこないかな〜という受け身の状態では、なかなか質の高い読書生活は行えないでしょう。鼻を利かせ、辺りを警戒するハンターのように、自らで猟場を見つけるような姿勢が必要となります。
では、そうした選択肢を確保した上で、そこからどのようにして本を選ぶのか。それについては次回考えてみましょう。
▼今週の一冊:
今流行のマストドンについて、いろいろわかる一冊。単純な操作説明というよりも、マストドンという現象についての考察や、今後の使われ方などが書かれています。自分が使うかどうかは別として、ウォッチしておきたい対象(あるいは現象)ではありますね。
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▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
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