緊急事態と、超緊急事態です。
これの他に「重要度」という軸を設けるべきだという意見が一般ですが、個人的には受け入れられません。
と言うのも、物事は切迫すると、重要度も増してしまうからです。トイレがどうしても我慢できないのをムリヤリがまんしているとどうなるか。トイレに行くことこそが、あらゆる物事を押しのけて、最重要かつ最緊急事態にならざるを得ないはずです。
多忙な人はトンネリングを起こしている可能性がある。子どもと過ごす時間をとても大事にしているかもしれないのに、急いで仕上げようとしているプロジェクトがすべてをトンネルの外に追いやってしまう。彼はあとで人生を振り返って、子どもともっと一緒に過ごさなかったことについて、深い苦悩を告白するかもしれない。
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この本の著者は、だから、トンネリングには警戒せよ、と言っています。
しかしそれでは不十分です。
今日と同じ明日はない
私たちの大半は、現在、非常に忙しいのです。トンネリングにどれほど「警戒」していたところで、緊急事態が次から次へと降ってくるのです。
「家族との時間をもっと大切にしたい」と切々と訴えていらっしゃる方には、ほぼ毎日のように出会いますが、彼らが上司からの呼び出しやクレームメールをそっちのけにして、子どもとハイキングに出かけたりできるとは、とうてい思えません。
子どもや家族を「待たせている」という生き方は、すでに緊急事態です。
しかし、会社の仕事はそれを超えてくる「超緊急事態」ばかりなのです。その「超緊急事態」にいったん取り組み始めてしまったら、どれほど気がとがめたとしても、もはや「緊急事態」に戻るというわけにはいかなくなります。
プロジェクトはいま仕上げなくてはならないが、子どもは明日もいる。
しかしここにワナがあることは誰の目にも明らかです。子どもは確かにたぶん明日もいるでしょうが、まったく同じ子どもがいるわけではありません。明日いる子どもは、1日分歳をとっています。何事であれ、前と同じままに待っていてくれる事象はあり得ないはずです。
「繰り返すタスク」を「超緊急事態」に優先せよ
これに対抗する手段は、私が信じるところ、1つだけです。そんなに大事なことならば、繰り返し毎日対処することにして、たとえ数分でもいいから「超緊急事態」に先駆けて、やってしまうことです。
明日もいる子どもと今日の朝対応してから、プロジェクトを仕上げにかかるというように、優先順位を逆転させるわけです。
このようにしないと、毎日「超緊急事態」だと思わされているものに対応し続けているうちに、繰り返し対応するべき緊急事態については、繰り返し無視するはめになるからです。
時間やお金が欠乏しているときにそれをどう使ったかを振り返ると、きっとがっかりするはずだ。切迫する欠乏は大きくのしかかってくるので、それに関係のない大切なことが無視される。欠乏を何度も経験すると、このように看過される物事が積み重なる。これを関心がないのだと勘ちがいしてはならない。結局、本人は後悔するのだ。
私はタスクシュートのデイリータスクリスト、すなわち毎日目にするリストにおいて、他人が見たらいぶかしく思うかもしれない順位づけにしています。
つまり、なんてことのないようなリピートタスクを上位において朝のうちに対応し(その中には娘とiPadのゲームで遊んだりすることが含まれます)、あまった時間で、締め切りが迫っていたり、あるいは締め切りの過ぎているプロジェクトに対処しているのです。
私は、娘とiPadのゲームで遊んだりすることを、「緊急ではないが重要なこと」だとは思いません。そういう事項は私のリストにはのぼりようがないのです。娘といま遊ぶことは、緊急なのです。
ほんのわずか前には自分1人で立ち上がることもままならなかった子が、いまでは1人で学校へ行き、割り算をして、iPadでRPGをしているのです。この時期に自分の「プロジェクト」などにかまけていたら、次に気づいたときには成人して結婚してしまっていることでしょう。
リストには、すでに締め切り間際の超緊急の仕事と、家族と過ごしたり健康診断を受けるなどといった緊急の用事の、どちらかしかありません。
でも、誰だってそうなのです。いまのような経験の提供が豊富になされていて、知らなくてもいいような重大情報が誰にでも簡単に手に入る時代に、八〇年というリソースを考えたら、緊急でないことに手がける余裕などないでしょう。
Follow @nokiba
今回この本を久しぶりに読み返してみると、まさにタスクシュートユーザーである私にとっては、あるあるのオンパレードで、「すでに常識だ」と言いたくなるようなことばかりです。
時間的余裕を意味する「スラック」は、セクションごとの「バッファ」と同義ですし、極端な近視眼を意味する「トンネリング」も、終了予定時刻をとっくに過ぎた後の作業ではしばしば、「そうなることが予想される時間帯」です。
問題提起と事例の豊富さがこの本の読みどころである一方、これほどの問題にどうしたらいいのか、解決策の提示については相対的に物足りません。あるいは読者とは、解決策の提示に飢えてしまうのでそう感じているだけかもしれません。
同じことを繰り返し言わせていただければ、この本の著者らに足りないのはタスクシュートです。彼らがユーザーになれば、そのことをきっと理解してくれて、改めて本を書くはずです。
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