どんなシチュエーションかというと、以下の引用のようなものです。
車にワックスをかけたくなり、でもそのためには新しいホースを買いに行く必要がある。
でもそのためには通行料のかかる橋を渡る必要があり、近所の人のパスを借りなくてはならない。
でもそのためにはまず、息子が借りっぱなしにしていたクッションを返さなくてはならない。
そして最後にはなぜか動物園でヤクの毛を刈るはめになるのです!
これは前回ご紹介した『新 ガラクタ捨てれば自分が見える』に載っている「ヤクの毛を刈る」という挿話です。
タスク管理あるある
この話自体は「プログラマーのカーリン・ビエリが考え出し、ブロガーのセス・ゴーディンが広めたもの」だそうですが、本書の著者であるカレン・キングストンは、これに続けて次のようなエピソードを紹介しています。
「私はこの章を書き上げてしまいたい。そのためにはセスの語録が必要だから、セスのブログ『そのヤクの毛を刈るな!』でリサーチをしなくては」
「でも今日はブロードバンドが機能していないので、ダイヤルアップで接続しなくては」
「あら、電話線が切れている。ネズミが電話線を囓ったのかしら」
「電話線を調べるのに庭の壁を登らなくてはならないけれど、なんと竹のはしごが壊れているわ」
いつの間にか私はコンピューターの前を離れて、竹のはしごを車に積み、午前中ずっとはしごの修理屋で過ごすはめになったでしょう。
このくだりを読みながら、思わずニヤニヤしてしまいました。
「タスク管理あるある」だからです。
- ある朝、タスクリストの一番上にあるタスクに取りかかろうとしたら、それをやるのに必要な資料が見つからない
- その必要な資料を揃えるために必要な準備に取りかかろうとしたら、やり方を忘れてしまった
- やり方を記載した、以前自分で作ったマニュアルを参照しようとしたら見つからない
- マニュアルは確かEvernoteに作成記録があったはずなのでEvernoteを開いたら、たまたまデータベースがメンテナンス中
- ふと目に留まった、隣のタブにあった興味深いブログ記事を読み始めてしまう
- その記事で紹介されていたフリーソフトをダウンロードして使い始めてみる
- 使い方がいまいちよく分からないので、実際に使っている人たちの事例をネットで探し始める
- おや、気づいたらランチの時間を過ぎている
…というやつです。
さすがに途中で「おいおい、脱線してるぞ」と、うすうす気づいてはいるのですが、中途半端なところでやめるわけにはいかないので、とことんやれるところまでやりきってしまう。
後悔することになるのは目に見えているのに中断するのは難しい。
でも、当然ですが、やめるべきです。
勇気ある“撤退”の決断を下すために
こういう時、とことんやりきってしまった先に待っている(たいていは)残念な結果を詳しく記録に残しておくと、再発を防止するうえで効果的です。
折に触れてこの「おぞましい記録」を読み返すたびに、二度と繰り返すまい、と背筋がぴんと伸びるからです。
僕自身は、記録に残すのに加えて、「あ、ヤクの毛を刈りに行き始めたな」と思ったらすぐに引き返すようにしています。少なくとも努力しています。
そのためのちょっとしたコツが、
「5分たったらやめる」
というものです。
本来やろうとしていることから脱線することを、やむを得ず始めることになったときに、それがいかに「ほんの1,2分で終わるから」と思えるものであったとしても、例外なく5分のタイマーをセットするのです。
実際にやってみるとわかると思いますが、1,2分で終わると思ったものはたいてい10分たっても終わりません。
5分のタイマーをセットしていなければ、えんえんとやってしまうのです。
タイマーをセットしていても、なかなか引きはがすのが難しいときもありますが、それでも「あぁ、これで5分か」と時間の短さを認識できるだけでも大きいです。
「その5分のタイマーセットをし忘れる」
ということもあるかもしれませんが、これだけはルールにするしかないでしょう。
時間を節約することにつながるルールですから。
あるいは、たすくまで「休憩」という、見積り時間が5分のリピートタスクを開始するという手もあります。こうすることで、5分たったときに「休憩、終わりました?」と現実に引き戻すリマインダーを飛ばしてくれるからです。
※この画像のTED動画は「マット・カッツの30日間チャレンジ」です。
3分20秒で終わります、見るだけならば…。
年末年始に「片づけ」に取り組もうと考えている方へ
今回ご紹介した『新 ガラクタ捨てれば自分が見える』は、「元祖・お片づけ本」ともいえる一冊で、2002年の初版から読み継がれ、2回のアップデートで改訂が加えられ、2013年に文庫化されています。
例えば、モノをなかなか捨てられない人は自分の「収集癖」を見直す必要があるのですが、単に「○○なモノは捨てる」というルールを示すだけではなく、ある種のモノばかりを集めてしまう背景には何があるのか、その根本的な原因に目を向ける方法が紹介されています。
著者から一方的に教えてもらうのではなく、自分自身との対話を促されるのです。
捨てるべきもの(ガラクタ)をいくつかのジャンルに分け、それぞれごとにどのように向き合い、整理していけばいいかが書かれているので、ジャンルごとに攻略していくといいと思います。
また、改訂で加わった「時間の無駄を管理する」という章はなかなか読み応えがありました。今回の「ヤクの毛を刈る」のエピソードもこの章から引いています。
文庫本なので、持ち運びにも便利で気軽に読めると思います。
年末年始に「片づけ」に取り組もうと考えている方には特にオススメです。