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前回触れられなかった「知的生産」と「情報生産」について考えてみます。
情報は遍在する
知的生産で生み出すものは、知的情報です。その意味では、「知的生産」と「情報生産」は重なる部分がたしかにあります。
しかし、まったく同一でもありません。
情報は、実に幅の広い概念です。それは、どこにでもあります。
たとえば犬が大声で吠えていたら、何か危険なものが近づいていると知ることができるでしょう。「犬の鳴き声」という情報を、人が読み取ったわけです。しかし、この犬の鳴き声を知的生産と呼ぶことはできるでしょうか。
あるいは生物以外でも情報を生み出すことがあります。雲の流れが早いのを見て、天気が崩れそうだと予想するとき、人はそこに情報を読み取っています。しかし、「雲が知的生産した」とは言わないでしょう。
もちろん、コンピュータ(アルゴリズム)だって情報を生み出すことができます。Twitterで人気のつぶやきをそのままコピーしてツイートする。それでもう情報は生まれています。でも、これは知的生産ではありません。
情報を生み出すことならば、誰にでも・何にでもできます。正確に言い換えると、人が情報として読み取れるものは、いくらでも生成できるのです。
でも、情報を生産したからといって、知的生産を行ったとは言えません。
知的生産の定義
『知的生産の技術』では、「知的生産」は以下のように定義されています。
p9
「知的生産というのは、頭をはたらかせて、なにかあたらしいことがら──情報──を、ひとにわかるかたちで提出することなのだ」
ほんとうにシンプルな定義ですが、ここにはたくさんの要素が詰まっています。情報生産と関連する点で、大切な部分は以下の二つ。
- 生み出すために「頭をはたらかせる」必要があること
- 生み出されるものが「あたらしいことがら」であること
この場合の「頭をはたらかせる」は、脳の機能を使うと考えてもよいでしょう。あなたが何かを見て、別の何かを連想したとするならば、それは立派な知的生産の第一歩です。どれだけちっぽけに思えても、それが脳の機能によって生み出されたことは間違いありません。
もちろん、もっと高度な働き(分析・推測・推理など)によって生み出されるものもあります。そうしたものの方が価値が高いことはありうるでしょう。しかし、最低限の土台は「頭をはたらかせる」ことだけです。
逆に言えば、そもそも脳を持たない雲などの自然物は知的生産は行えませんし、動物に関しては(人間の基準から見て)脳の機能の高度さがやや劣るので知的生産は難しいかもしれません。
もう一点の「あたらしいことがら」である、という点は「なにをもってあたらしいと呼びうるか」が決めにくいので扱いが難しいのですが、少なくともまったく同じ情報が存在するならば、「あたらしくはない」とは言えそうです。
情報と生産者の価値
話を人間中心に戻しましょう。
Aという情報があって、それを受け取ったとします。そして、それをAという形でアウトプットする。つまり、
- A→□→A
という構図は、仮に□が人間であっても、それは知的生産ではありません。しかも、二重の意味で違います。
第一に、「頭がはたらいていない」こと(こだまでも復唱はできます)。第二に、「あたらしいことがらを」生み出していないこと。ゆえに、知的生産という観点からみれば、このアウトプットはほぼ価値がありません。
さらに言えば、こうした作業はいくらでもアルゴリズムで代替可能です。情報市場から見ても、こうした情報は価値が高くなりません。すると、その情報を生み出している主体もまた同じ運命を辿ります。
もう少し踏み込んで考えると、これまで「知的生産」と呼ばれていたようなものでも、アルゴリズムの進化によって、急激に(情報市場における)価値が下がってしまうようなことも起こりえるでしょう。知的生産者(知識労働者)は、そのことを自覚しておく必要がありそうです。
さいごに
ごく簡単に言えば、知的生産は
- A→□→A’
を行うことです。できれば、
- A→□→X
という形にアウトプットできれば、なかなか代替できないものになるでしょう。
その人なりの情報生産。それが知的生産のひとつの形です。
さて、一通り「知的生産」の行為とその中身について考えてきました。次回は、その行為の目的に注目してみましょう。
▼参考文献:
とにかくこの本から。
▼今週の一冊:
ゲームデザインのお話。実際に行われた講義をまとめた一冊です。
この分野に興味があるなら得るものは相当に多いでしょう。ゲームデザインの歴史を振り返ることもできますし、ある意味でゲームデザインのパターンランゲージ的にも読めます。
私もタスク管理+ゲーム、という新ジャンルで何か作りたいですね。あるいは、発想術+ゲームとかも面白そうです。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。