ビジネス書の「落とし穴」から抜け出すための2つの視点

カテゴリー: 書評

営業にとって大事なのは、運よく大きな契約を取ってくることではなく、小さな成果を積み重ねることというのが和人の持論である──43ページ

営業に限らず、すべてのビジネスに通じる心構えです。大きな案件を取ってきた人、ビジネスで成功している友人などを見ていると焦りの気持ちが生まれます。しかし、彼らも小さな成果を積み重ねて自信をつけ、ノウハウを身に付けてきたのです。まず小さな目標を立てましょう。

ビジネス書を選ぶ基準は人によってさまざまありますが、僕自身が最も重視しているのは次の2つの視点です。

  1. 自分なりの方法論を作るための方法論が得られるかどうか
  2. 自分なりの方法論を作るためのきっかけが得られるかどうか

「目指す穴」と「落とし穴」

「欲しいのはドリルではなく、直径5ミリの穴」とはよく言われるところですが、油断していると「ドリル」にばかり目を奪われて、いっこうにその先にあけるべき「穴」に到達できない、といったことがしばしば起こります。

優れた成果を出した人を見つけると、どうすればその人と同じような成果を出せるのか、その人の「ドリル」を知ろうと躍起になります。成功者による「ドリル」の解説書が垂涎の的となるわけです。

 
でも、ここで注目すべきは、先にも書いたとおり自分が必要としている「穴」であって、「ドリル」ではありません。求めるべきは自分が目指す「穴」をあける方法。

その意味で、成功者から学ぶべきは「どんなドリルを使ったのか?」ではなく「どのようにしてそのドリルにたどり着いたのか」というレシピ。すなわち、材料と作り方です。

首尾良くレシピを手に入れられたなら、次はそれを自分が目指す「穴」に合わせてアレンジすること。この過程が、方法論を作るための方法論となります。

 
一方、これといったレシピが得られないこともあります。あまりにも属人性が高かったり(その人にしかできない)、身を置く環境が違いすぎたりといった理由で模倣の余地がないケースです。

そんな場合でも、彼らが「穴」にいたるまでのドラマを辿ることはできます。むしろ、その過程にこそ意味があります。彼らが原点を発して頂点に至るまでの間に、必ず自分と同じ立ち位置を、少なくともそのそばを通過するはずだからです。

彼らがどのように障害を乗り越えて前に進んでいったのか、その一部始終を疑似体験することで、自分にとっての突破口を知るきっかけが得られることもあるでしょう。

「最初からうまく行っていたわけではないんだな」とか「彼らの乗り越えた障害に比べれば、今の自分が抱えている悩みなど取るに足りないものだ」といった勇気をもらえるのです。

「ハウ」を得るか、「へぇ」で終わるか

今回ご紹介する『奇跡の営業所』は、Biz.IDの好評連載の書籍化。実話がモデルになっているだけに、リアリティがあります。

内容としては、全国最下位の小さな営業所が日本一になるまでの過程を描いた物語。当然、読者対象は営業に関わる人ということになります。

また、この営業所が扱っているのはマイラインであり、同種の商品を扱っているセールスパーソンということで、ターゲットはさらに絞り込まれます。

でも、本書から学べるのはマイラインの販売ノウハウという尖った「ドリル」にとどまりません。

学べるのは、全国最下位から日本一に至るまでの間にちりばめられている無数のレシピの作り方であり、前に進むための取っかかりといった、用途に応じて自由に組み合わせて使えるレゴブロックのようなキットです。

どんな「穴」をあけたいのかが明確になっている人にとっては、大いに得るものがあるでしょう(そうでない人にとっては、「へぇ~」で終わってしまうかもしれません)。

 
本書は、前半は物語、後半はこの物語をベースにした解説という二部構成になっています(冒頭に引用したくだりは後半の解説部分)。これにより、読者は物語から容易にレシピを引き出すことができるでしょう。また、物語を読むことを通して、現状打開のためのヒントやパッションが得られるはずです。

「ドリル」ではなく「穴」を求めている、という人に是非読んでいただきたい一冊です。また、これからどんな「穴」をあけるのかに夢をふくらませている学生の方にもおすすめできます。



 
▼合わせて読みたい:
どんな「穴」を志向しているのかがはっきりしている人にとっては、さらに「ドリル」づくりに寄ったこの本が役に立つかもしれません。初版は2002年で、僕自身が読んだのは2004年。それから5年たった今読み返しても、まったく古さを感じさせないのは、ベースにある原理原則に忠実だからでしょう。以下は目次(章のみ)。

  1. マーケティングは一つではない!
  2. 知覚されないニーズにどう対応するか
  3. 認知しただけで顧客が買うとは限らない
  4. 値段だけの商談をするな!
  5. 戦略は、四つのステップでつくる
  6. 展開されてはじめて戦略
  7. 強者の法則

とはいえ、以下のような著者の独白もところところ見え隠れします。そういう意味では、本書もまた勇気を与えてくれる一冊といえます。

疲れますよね。容易じゃないですよね。むつかしい問題が一杯ありますね。ボクの力じゃ無理なんじゃないか。どうやっても間に合わないんじゃないか。誰も手伝ってくれないんじゃないか。不安になることがありますね。ドツボに落ちたときがありますね。

あなたは、そんなとき、どう考えるんですか。どうするんですか。どんなふうにして、その困難を乗り越えるんですか。いや、乗り越えてきたんですか。

わたしは、こう考えることにしています。こんなふうに考えて、乗り切ってきました。

やる。負けない。逃げない。頑張る。精一杯、やってみる。ひとまず、これ以上は無理だ、というところまでやる。やってどうするか。寝る。できたら、イッパイやって寝る。寝て大丈夫なのか。大丈夫かどうか知らないけれど、どにかく精一杯なんだから…とにかく寝る。そして、寝て起きる。スックと起きる。

朝は夜より賢いんだから。

▼「書評」の新着エントリー

» 「書評」の記事一覧
スポンサー リンク