「企画書のストックは最低10本は持っておきなさい」
と、以前何かの本で読んだことがあります。
一体何の本だったのかまったく忘れてしまっているのですが、この言葉だけが妙に印象的で、ずっしりと頭の中に残っています。
物書きの仕事をはじめた時も、その言葉を一つの指針にしました。
「そうだ、企画案をいっぱい持っておこう」
と。
リスクヘッジと自己アピール
物書きにとって企画は飯の種です。でもって、世の中「計画通り」にいかないことはたくさんあります。そう考えると、なるべく多くの企画のタマゴ(企画案)を持っておくことはリスクヘッジ的に考えても重要でしょう。
でも、おそらくはそれ以上の意味が企画書にはあります。
永江朗さんが書かれた『書いて稼ぐ技術』には、「企画書がライターの履歴書代わりです」とあります。どういうことかを簡単にまとめてみましょう。
- 編集者が知りたいのは「その人の価値観」であって、学歴や資格ではない。
- 「いま関心があることは何か」「最近おもしろかったことは何か」からその人の価値観が見て取れる。
- 編集者の「この人、どういう人だろう」の疑問に答えつつ、自分を説明しアピールできる道具が企画書である。
たしかに、どういう切り口で企画を立てるか、というのは如実にその人の価値観を表現しています。たくさん発売されているEvernote本を見比べてみれば、それは容易に見て取れるでしょう。
だから「こんな企画どうですか?」と提案することが、そのまま自己アピールにもつながるということです。逆に言えば、提案できる企画が少なければ自己アピールできる機会も少ない、ということにもなります。
仕事が湧いたり、降ってくるような立場ならともかく、ひよっこ物書きの立場ならば、アピールできる素材を多く持っておいた方がよいことは確かでしょう。
企画案の着眼点
企画案を複数持っておくことが重要だとして、じゃあどうやってそれを作るのかが次なる課題です。
といっても、それほど難しい作業ではありません。本当にちゃんとした「企画書」を作るのではなく、単に「企画案」をストックしておくだけのことです。書籍であれば、本のタイトルや概要さえあれば十分でしょう。要するにアイデア部分のみのお話です。
これは『クラウド時代の企画発想法』なんて本が一冊書けてしまいそうなテーマになりますので、ざっくりと3つの出発点を紹介しておきます。
- 自分の課題・関心事・疑問
- 他人の問題ごと
- 既存の企画
これらに対するアンテナ感度を高めておけば、企画の素材はいくらでも(誇張的表現ではなく)見つけることができます。
一例として、
「自分が読みたいと思うテーマの本が検索しても見つからなければ、それが自分の新しい企画」
なんて考え方があります。シンプルですがなかなか有効な企画の立て方ではないでしょうか。
企画案のストック場所
さて、いくつかの(あるいはいくつもの)企画案が出来たとして、それをどこに保存しておきましょう。
私の場合はだいたい3つの場所に置いてあります。
- Evernote
- モレスキンラージ
- Blog
何かの保存場所というと、私の中では「Evernote」なので思い付いた企画はどんどんEvernoteに保存してあります。
でも、それだけではありません。
時々、自分をセントラルに置いたマインドマップを描いて、自分の手持ちの企画案を洗い出すこともあります。こうして描き出された企画はその時の自分にとって関心度の高いものになるでしょう。
これを時々やっておくと、対面で「何か企画ないですか?」と尋ねられた時にいくつかの企画がぱっと浮かんできます。いまのところEvernoteはエレベーターテスト(※)をクリアできそうにもありませんので、たまにやっておくのもよいかもしれません。
※30秒か40秒で自分のメッセージを伝えられるかどうかのテスト。『プレゼンテーションzen』より。
私は描いたマップをモレスキンラージの最初のページにマスキングテープで貼り付けてあります。新しいものを描いたら貼り替える、という感じの運用です。
最後の一つがBlog。
Blogは、直接的な企画案ではなく「いま関心があることは何か」「最近おもしろかったことは何か」を他の人に伝えるのに最適なメディアの一つです。他の人がブログを見て、「こういう企画どうですか?」と話を振られることもあります。宣伝気味になりますが、この辺は三冊目の拙著なんかを参照してください。
たまに過去のブログを自分で読み返して、新しい企画を思い付くというようなメリットもあります。
さいごに
意識的に企画案を探そうとしていると、本当にいろいろ思い付くようになります。
例えば、今回この記事を書くに当たって「企画書のストックは最低10本は持っておきなさい」がどの本だったのか探し回りました。引用元がわからないのはちょっと気持ち悪いものです。でも、結局は見つかりませんでした。それが「無駄骨」だったかというとそういうわけでもありません。
何冊もの本をパラパラと読み返していくうちに、今自分が直面している課題に対するヒントを見つけて、「おっ、これ企画になるんじゃないか」と新しい企画ストックが一つ増えました。こういう風に、日々ちょっとずつストックが増えてきます。
もちろん、その企画案がすべて「企画」になることは無いにせよ、持っておくとちょっとした安心感を感じられることは確かです。
▼参考文献:
フリーライターの心得がたっぷりと詰め込まれています。
プレゼンについての本ですが、企画案を考える時にも参考になる内容です。
ブログってソーシャル履歴書、になるんですよね。あるいは名刺代わりにも。使い方はいろいろありますが、自分の情報を思う存分だせる媒体であることにはかわりません。
▼今週の一冊:
2009年の本。「ショッピングの科学」の本。前職の関係で、この手の話は大好きです。
人の行動心理から考えて、売り場作りはどのようにすればよいのか、商品の配置、通路の広さ、気を配るポイントは何か、といったことが紹介されています。
マーケティング・コンサルタントのエンバイロセル社での実地的な経験から導き出された情報なので、あくまで消費者の行動そのものが出発点になっているのがポイントです。かなり具体的な内容で、事例の紹介も豊富です。
といっても、この業界では「ごく当たり前のこと」なのかもしれません。でも、現実のお店を見ると実行されていない場合が多いんですよね。「知るは易く行うは難し」の典型的なかたちです。結局の所、こういった知見を生かして、現実に何を変えるのかを考えないとほとんど意味はありません。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
PDF: 226ページ