前回に引き続きKJ法についてです。
KJ法というと「カードを使う」イメージが強いかもしれませんが、それ自身は本質的な特徴ではありません。
KJ法のプロセスにおいて本質的とも言えるのが、発想をボトムアップで組み立てて行く、という点です。
『発想法』の中ではKJ法を行う前に、ブレスト(ブレインストーミング)を実施せよ、とアドバイスされています。まず、ブレストありき。その結果から情報を構造化していくというアプローチが重要な意味を持っています。
二種類のアプローチ
発想法は大きく二つの方法論に分類できます。一つはトップダウン、もう一つがボトムアップです。
トップダウン的アプローチ
トップダウン的アプローチは主題を分解していく方法です。
まず主題(テーマ)を設定します。その主題からいくつかの中テーマを導き出し、その中テーマからさらに小さいテーマへ、と細分化を進めていきます。
本の執筆に置き換えれば、テーマを決めて、そこから章立てを考え、さらにそれぞれの章の見出しを作っていく、という作業になります。それらの作業を一通り終えれば、そこには構造化された情報が生み出されている、というわけです。
こうした方法は、直感的には理解しやすいでしょう。
ボトムアップ的アプローチ
KJ法のようなボトムアップ的アプローチは、上とはまったく逆の方法論です。
まず、個々のパーツを先に洗い出します。そしてそれらのパーツから中テーマを見出し、中テーマから大テーマ__つまり主題__を考えることになります。
先ほどと同様に本の執筆に置き換えれば、何か書ける材料をひたすら書き出していき、そのパーツで似たものを集めて「章」にし、その章の集まりから、全体の主題を見つける、という方法です。つまり、スタートの段階では全体像はまったく見えていない状況になります。
こうした方法は、直感的に不安を感じるかもしれません。
質的に違う二つ
どちらも情報を構造化する手法という点は共通しています。
一見すると同じことを逆向きにやっているだけなので、大した違いがないように感じられるかもしれません。
しかし、組織の意思決定と情報伝達がトップダウンとボトムアップでは大きく違っているように、情報の構造化においても、この二つの手法から得られるものは異なっています。
トップダウン方式がフォローできないこと
トップダウン方式のメリットは、スタートの時点で全体像がはっきりしていることです。大きな主題が見えているので、心理的には安心感を持てます。
ただし、問題点がないわけではありません。ぱっと考えられる問題点は二つあります。一つは「ストレンジャー」を逃してしまうこと。もう一つは枠組みを修正できないこと。この二つの問題は時として、出来上がるものに大きな影響を与えます。
最初に主題から章立てへと進めていくと、持っているパーツの中で使えないものが出てきます。既存の枠組みに収まらないパーツなので「ストレンジャー」と呼んでおきましょう。よそ者、はぐれもの、といった意味です。はぐれているスライムの経験値が高いように、元々の主題の分割の中には入れられないものが、実は大きな意味を持っているということがあります。トップダウン式のアプローチだとそれを拾い上げることができません。
このストレンジャーの存在が二つめの問題にも影響してきます。大きな意味を持つストレンジャーの登場によって、もともと想定していた主題や章立てが実は空疎なものだった、ということに気がつかされるということがあります。
最初に思い付く構造というのは、だいたいが思い付きや直感によるものです。それは多くの部分で適正なものかもしれませんが、100%万全であるという保証はありません。一つ一つパーツを洗い出してみることで、まったく新しい構造が見えてくることがあります。
たとえば、手帳について書こうと思いたっていろいろ書き出してみると、手帳そのものではなくて「手帳を何のために使うのか」の方が重要だ、ということに気がつく、といったことです。こうした発見の後では、章立てだけではなく主題そのものが変化することもあり得ます。
トップダウン方式一本でやっていくと、こういうパラダイムのシフトを受け入れることができません。ボトムアップの方法論を使うメリットはここにあります。
さいごに
このように、単にカードを使ったからといってそれでKJ法になるわけではありません。大きな枠組みを分割していく方法ではKJ法のエッセンスは失われてしまっています。まずブレストするなどして枠組みにとらわれずにパーツを書き出し、そこから構造を組み立てて行く、このようなプロセスを意識する必要があります。
ただし、これが直線的に進むとは限りません。小さなテーマ作りから構造を生み、その構造から新しいパーツが生まれてくるといったプロセスも当然考えられます。言い換えれば、ボトムアップとトップダウンのハイブリッド的な進め方も十分あり得ます。
つまり、どちらが優れているかではなく、それぞれの特徴を踏まえて状況に応じて使い分けたり、あるいは二つを複合して行うという臨機応変なやり方を自分なりに見出すというのが最適解になりそうです。
▼参考文献:
前回に引き続きこの一冊。野外科学のアプローチは、現実の問題解決にも十分に応用できます。
▼関連エントリー:
▼今週の一冊:
いろいろ思うところあって何度目かの読み返しをしている本です。本を書くというのはどういうことなのか。何かを続けるというのはどういうことなのか。読んでいるといろいろなことが頭の中を巡ります。
ランニングに興味がない方でも十分に楽しめる一冊だと思います。
Follow @rashita2
本を書いたり、何かを考えたりしているときに一番楽しいのが「パラダイムシフト」の瞬間です。今まで自分が考えていたものごとが一瞬のうちに塗り替えられ、再構築されていく感覚。ゆーりか!といって走り回る気持ちも十分理解できます。たぶん世の中にはゆーりか中毒になっている人も少なからずいるんでしょう。きっと。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
PDF: 226ページ