しかし、気持ちを落ち着かせて(なんなら深呼吸の一つでもして)、文章を一度読み直しましょう。「推敲」(すいこう)と呼ばれている作業です。
推敲という言葉は、「文章を何度も練り直すこと」の意味があります。「僧は推す月下の門」という詩の一句の「推す」という部分について、「推す」がよいのか「敲く」が良いのかを何度も何度も考えたというエピソードから来ています。
※ちなみに、「敲く」(たたく)が採択されたようです。
気軽に更新しているブログの文章で、「推すがよいか敲くがよいか」を考えるのは億劫かもしれません。しかし、他の人が読むことが前提になっている文章ならば、最低限度の推敲__言ってみれば「プチ推敲」ぐらいはやっておきたいものです。
今回はこの「プチ推敲」について書いてみます。
プチ推敲の3つの作業
「プチ推敲」は、文章を書き上げてからの作業です。それを頭から終わりまで読み返しながら、文章をチェックしていきます。チェックする項目は大まかに3つ。
- 単純な表記間違い
- 文章の意味がとれるか
- 文章は読みやすいか
「単純な表記間違い」はいわゆる誤字・脱字のチェックです。ワープロ時代以降は誤変換のチェックもこれに含まれます。こういった表記間違いはすぐに見つけられそうな気がしますが、「自分はこう書いた」と思い込んでいるとあるとなかなか発見できないものです。
できるだけ「間違っているところはないかな」という気分で見返すのがよいでしょう。
文章の意味がとれるか
「文章の意味がとれるか」には、二つの要素があります。
一つは、「論理構造が適切なものかどうか」。主語と述語があっていない、あるいは主語が欠落していることで意味がつかみにくい形になっていないかをチェックします。主語がない文章があってもよいのですが、意味が分かりにくいのはちょっと問題です。
なるべく短文で書け、というアドバイスもこうした破綻を起こしにくくするためのものと言ってよいでしょう。
もう一つのチェックポイントが、「多義的に解釈できないかどうか」です。『理科系の作文技術』では次の文章が例示されています。
「黒い目のきれいな女の子」
この文章は8通りに解釈できるようです。いろいろな場所に「、」を打ってみるとよくわかります。逆に言えば、自分の意図する意味になるような場所に「、」を打つことが解決策になります。
世の中には、重箱の隅をつつくように他の人のミスをめざとく発見する人がいますが、そういう人の心理状況になって自分の文章を読み返していくと、これらのチェックがよりうまく行えるかもしれません。
まずは、「長い文」を意識的にチェックしてみること。そして「形容詞が続く文」もちょっと警戒してみることです。
文章は読みやすいか
「文章の読みやすさ」は、定量的に観測できるものではありません。基本的に自分で読み返してみて、「読みやすいかどうか」を判断するしかないでしょう。それでも、「読みにくい文章」には共通的な要素が見受けられます。それをチェックするだけでも、かなり読みやすさは向上するはずです。
読みにくい文章の一つは、同じ語尾が連続しているものです。「~~です。~~です。~~です。~~です。」、と同じ語尾が連続していると、読んでいてしんどくなってきます。
「文章の読みやすさ」は、定量的に観測不能な要素です。基本的に自分で読み返してみて、「読みやすいかどうか」を判断するのが基本です。それでも、「読みにくい文章」には共通的な要素が存在するはずです。それをチェックするだけでも、かなり読みやすさは向上するはずです。
かなり強引に書き換えてみましたが、やはりちょっとしんどいものがありますね。こういうのは避けたいところです。
語尾の書き換え方法もいくつかあります。たとえば、主語を変える・動詞を動名詞に・受け身を使う、といった方法です。同じ語尾が連続しているのを発見したら、中のいくつかの文章を書き換えてみると読みやすくなるでしょう。
もう一つ、「読みやすさ」に関してとてもシンプルなチェックがあります。それは「という」という言葉です。
直前の文ですでに使ってしまっていますが、「という」は非常に使い勝手がよい言葉です。意識していないと、文章のあちらこちらに「という」が存在することになります。もし「という」が無くても問題無いのならば、あっさりと削ってしまうことです。
※この文章のプチ推敲でも、数多くの「という」をデリートしました。
同じように、よく使ってしまうフレーズを意識しておいて、文章に何度もそれが登場していないかをチェックするのも効果的だと思います。
さいごに
推敲とプチ推敲を分ける境界線は、それに費やす時間です。基本的な目的__文章をよりよい形に仕上げる__は共通しています。
ブログの更新にそれほど時間をかけられない方でも、一度は書き上げた後に読み返すことをおすすめします。その際、
- 誤字・脱字・誤変換がないか
- 長文は意味が取れるか
- 形容詞の連続は意味が取れるか
- 語尾が連続していないか
- 同じ表現が何度も出てきていないか
あたりを意識して読み返すだけで、文章がよりよい形になるはずです。
もちろん、人間の意識や注意はそれほどあてになるものでもないので、一度見返したからといって完璧な文章になるわけではありません。しかし、一度だけでもやっておくのと一度もやらないのとでは、大きな違いがあるはずです。
これは単にそのエントリーだけの話ではなく、長期的な視野で見た場合の「文章を書く力」にもきっと影響してきます。
▼参考文献:
文章の形作りから、読みやすさへの配慮まで、必要な情報がまとまっています。タイトルからもわかるとおり、小説などの文章作法とはまったく関係ない技術論です。
▼関連エントリー:
▼今週の一冊:
シゴタノ!ブックスで『ほぼ日HACKS!』を上梓しましたが、こちらは「公式ガイドブック」。
いろいろな方の「ほぼ日手帳」の使い方と、ほぼ日手帳2012の紹介が内容です。今年はWeeksの使用例なども紹介されています。
来年でほぼ日手帳9年目に突入ですが、このシーズンの「カバーどれにしようかな」は毎年の楽しい悩みの一つです。使っていて楽しいだけではなく、使う前から楽しい道具というのはApple製品に近いものを感じます。
ほぼ日手帳に興味があるかたは、ぜひ。
Follow @rashita2
今週の一冊でも書きましたが、来年のほぼ日手帳のカバーを何にしようか結構悩んでいます。今のところカズン使いなんですが、オリジナル専用の「ドナルド・ザ・セーラー」が良いんですよね。色といい、デザインといい。こうなると、カズンとオリジナルの二丁使いか・・・という悩みも生まれてきております。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。