ここで、これまでお話をしてきた内容を整理します。
- 第1回 「スマホ新人」は何を考えているのか?
インターネットの発達によって知識は豊富なものの、実体験が追いついていない「インターネット耳年増」に関してお話をしました。
- 第2回 「潰れない会社の見分け方を教えてください」の真意
バブル崩壊による若者の仕事に対する意識が変化を取り上げました。仕事よりも生活の安定を重視し、仕事に将来の夢を持てなくなってきている若者が増えていることをお話しました。
- 第3回 タテに伸ばしたい上司とヨコに広がる若者
メールやソーシャルメディアの普及に関して、最近ではヨコ社会には慣れているもののタテ社会の経験が減る傾向にあり、世代間のコミュニケーションギャップが以前より大きくなっていることをお話しました。
今回からは、それぞれの問題に対して上司がどのようにしていくべきなのか、そこに焦点を当てていきます。
夢を語ってもらうために
第2回でもお話した内容ですが、近年ではがむしゃらに仕事に打ち込むことよりも、仕事と生活を上手に分けていくことを望む若者が増えてきたように思います。
生活を重視すること自体は決して悪いことではないのですが、それに伴って仕事に対する興味も下がってしまっているように感じられます。私はその原因はバブル崩壊だけでなく、成果主義や雇用形態の多様化などでキャリアステップが複雑になり、どのようにして成長していくのかがわかりづらくなってしまったことも、若者が仕事を通した将来に不安を感じ、仕事に対する興味を失ってしまった原因の一つと考えています。
今回は若者の仕事に対する漠然とした不安を取り除くために、具体的な成長の道を見せて、キャリアステップを意識してもらえるようになるためのカギを3つ、ご紹介します。
- キャリアステップを見せる
- 「憧れる先輩がいません」に先手を打つ
- 若手が成長できる職場を志向する
1.キャリアステップを見せる
若手 「いつまで先輩のサポート業務をやればいいんですか」
上司 「四の五の言わずにやれ」「若手のうちは、こういうことから始めるんだ」
一昔前は良くある職場の会話でしたが、こういった考え方は今の若手には通じないこともあります。右肩上がりの給料がなくなり、成果主義という言葉を聞いた真面目な若者ほど成長への焦燥感に駆られることがしばしばあります。彼らは成果主義を拡大解釈し、入社早々にスキルを身に付けて先輩達と同じ土俵で仕事をしないといけないと焦っているのです。
こういった場合に有効なのが、キャリアステップを明確にして自覚させることです。
今の仕事がどういった力を身に付けるものなのか、その先には何があるのかをイメージさせるのです。
ちなみに私が会社員時代に従事していた人材育成部門ではキャリアステップを図式化し、小冊子に仕立てて配布をしていました。ここには目標となる実際のロールモデル人材がどのようなステップを歩んできたのかと、インタビュー記事が載っていました。
そこまで大掛かりでなくとも、日常の会話において、任せた仕事の重要性を伝えるだけでも変わってきます。
例えば会議の資料をコピーしてもらう場合でも、その会議の意味・重要性、その資料の必要性などを軽く付け加えるだけで若手のやる気は変わってきます。
若手が意味のない仕事だと誤解しないように、その仕事の重要性をしっかり伝えることが若手を育てていく第一歩になります。
2.「憧れる先輩がいません」に先手を打つ
仕事の目的やキャリアステップを話すだけでは納得できない若手も多々いると思います。そういったときに有効な手段の一つが、わかりやすい目標として先輩がどんな思いで働いているのかを伝えることです。
最近の成果主義の行き過ぎた職場では個人主義に傾いてしまい、一緒に仕事をする人に対して無関心になってしまうことすらあります。そんななかでは、若手は先輩の仕事に対する思いや志を聞く機会に巡りあえず、忙しそう、大きな仕事に関わっているといった表面的な印象でしか先輩のことを知らない場合もあるのです。こういった状態では「憧れる先輩」を見つけることが難しくなり、自分の仕事のやりがいも見失ってしまいがちです。
そこで、一緒に仕事をしている人を若手に知ってもらうために、中堅社員の仕事に対する思い入れや志を伝える場所を作ります。頑張っている先輩にスポットライトを当てて、その姿を若手に知ってもらうのです。
- 部会で大きな成果上げている中堅社員を表彰し、その成果にいたるプロセス、その時々の気持ちを発表させる。
- いい仕事をしている社員のインタビュー記事を載せた部内報などを作る。
いい仕事をしている社員にしっかりとスポットライトを当てることで、若手は自然にその姿をまぶしく見つめ、「いつかは自分も」という思いで仕事に取り組むようになっていきます。
先ほど例に挙げた小冊子などはまさにこの方法です。また、いい仕事をしている社員を表彰する方法は私も以前に行なったことがあり、それが若手のやる気につながることを見てきました。
上司や経営層がうまく仕掛けることで、若手の憧れの対象を創ることができます。いい仕事をしている社員に注意を払い、しっかりとスポットライトを当ててることも上司の仕事です。憧れの存在は若手の仕事に対するやる気を出させると同時に、目標にされた社員にも自信がみなぎり、組織全体のパフォーマンスを引っ張り上げてくれます。
3.若手が成長できる職場を志向する
上司が若手に覇気がない、積極性がないと嘆いているだけでは状況は変わっていきません。若手に覇気がないのは、若手が力を発揮しやすい環境が整っていないということも大きな原因なのです。喜怒哀楽が共有できる職場では、立場の違う人同士の絆が育まれ、互いの承認もされやすく、若手は意欲を高め自分の能力を上回る頑張りを発揮し、成長するものです。
上司のちょっとした働きかけで、個人主義に陥り、コミュニケーションの少なくなってしまった職場を、若手が力を発揮し、将来の夢を持つことができる職場に変えていくことができると私は考えています。
▼次回予告:
次回は、「インターネット耳年増」になってしまいがちな若者が上手に知識を活用していくようになるための技と、タテ社会に慣れていない若者がより早く職場に馴染み、力を発揮しやすくするための上司の技を紹介していきます。
長く続く就職氷河期、インターネットやスマートフォンの普及、ソーシャルメディアの登場で若者の価値観は大きく変化した。今までとはあまりに違う新人に戸惑う上司たち。
スマホ新人は何を考えているのか。現場で接した若者の声をもとに、彼ら彼女らが何を考えているのかに迫る。上司が若手を理解するために重要な鍵がどこにあるのか、そして若手を育てるための方法とは?
著者の体験談を織り交ぜながら、新人育成に悩む上司のために若手を理解し、育てるための九つの鍵と十二の技を具体的に説明していきます。
PDF: 476ページ
▼前川孝雄:
立場の異なる人間同士の「絆」づくりで人と組織に「希望」をもたらすことを主眼に、法人向け人材育成、学校向けキャリア教育・就職支援、個人向けスクールやゼミなどを展開する株式会社FeelWorksを経営。