「金融リテラシーの基本と実践」のための下ごしらえ

カテゴリー: お金の話

By: Mauro Parra-MirandaCC BY 2.0


先日、以下の記事でご紹介した『ベンジャミン・フランクリン 富を築く100万ドルのアイデア』について、盛り込みきれなかった項目が大量にあるので、まとめておきます。

あなたは「お金に関する間違った認識」を持っていないか? まずは認識を改め、“2つないし3つの銀行口座”というツールを用意することで「貯金しようと思わなくても自動的に残高が増えていく」ことが可能になる。


認識を改め、行動を変えるために

どんなことにもいえますが、何かが変化する時、そこは認識と行動の2つのレベルがあります。認識が変わり、それによって行動が変わる場合もあれば、行動を変えることによって認識が変わることもあるでしょう。

「認識」について、本書では「思いの窓」というメタファーで説明されています。

私たち一人一人は、自分の目の前に「思いの窓」というものを持っており、自分の周りで起こるすべての物や出来事は、この窓を通した後に私たちの目に映ります。この「思いの窓」は、普通の人には見えません。見えるようになるには、訓練を積む必要があります。

この「思いの窓」に書いてある内容は、自分の周りで起こっていることに対して、自分がどのような行動を取るかをきめるためのガイドや理論のことです。もちろん、この窓に書いてある内容は、一人一人違います。そして、この窓に自分の行動のガイドや理論を書いたのはあなた自身なのです。(p.27)

認識を改めるにはまず、現状を把握すること。以下では「敵の姿」と表現されていますが、ここから始まるといえます。

自分の可能性を束縛するものの正体を、はっきりと見えるようにするために、そうするのです。

例えば、以下は3000万円を年利3.0%、期間35年で借りた場合の10年分の償還表です。35年だと表示に支障が出るので。これもキャッシュフロー表の一部です。なお、月々の支払い額はこちらにて簡単に計算できます。是非ご利用ください。

(中略)

見ての通り、10年たっても利息の方が元本返済に回っている分よりも大きいことがわかります。

これが、あなたの敵の姿です。

これをどう攻略するかが、あなたのゲームです。

この意味では、家計簿をつけるという行為は、「金遣いの荒い自分」という“敵”の正体を暴くための有効な戦術となります。

この点について、『ベンジャミン・フランクリン 富を築く100万ドルのアイデア』では、予算を組むべしとしています。

予算を組むというのは、お金の目覚し時計のようなものです。私たちが自分自身でセットすることにより、自分の目標も達成することが可能になるのです。

朝、夢から現実の世界へ呼び起こす目覚し時計を、私たちがあまり快く思わないように、「予算を組む」ということは、大部分の人にとってあまりいい響きではないようです。テキサスのある女性は予算を組んでいくうちに、今まで通りにお金を使うとしたら「チョコレートのために特別に予算を組む必要がある」ということに気付いたのです。自分の浪費癖というのは、あまり知りたいものではありません。ただし、正確な情報というのは、あなたの経済的状況を好転させるためになくてはならないものなのです。(p.37)

こうして行動を変えざるを得なくなります。さらに、より自分の価値に沿ったお金の使い方をするうえで知っておくべきは、「人は感情で物を買う」という真理。

「私たちが買い物をするとき、ほとんどの場合、感情に左右されて物を購入する」ということに気がつけば、なぜ私たちが「知らないうちに羽が生えたようにお金が飛んでいってしまった」というような表現をする意味も、簡単に理解できることでしょう。それらのお金は、特売品や便利と快適さを与えてくれるもの、体裁を保つためや外食、そしてちょっとした支出、それにもちろん緊急の支出などに使われているのです。

これらのことにお金を使うのは、悪いことではありません。ただし、無計画にこれらの支出を繰り返していると、自分が本当に価値を感じるものを持つことが、なかなかできなくなります。自分の価値観にそってお金を使うということは、感情によりお金を使うということと正反対の性格を持っています。

あなたが自分の価値観を明確にすればするほど、あなたはそれらの価値観にそって決断を下すようになります。その結果、あなたは価値のあるものをより多く手に入れられるようになります。(p.48)

本書が日本で刊行された1996年という年は、まだオンラインで買い物をする人はほとんどいませんでしたが、12年後の今日では、買い物はワンクリックでできてしまいますから、ますます注意が必要になります。

自分の金銭的状況をコントロールするために

何事も受け身になると、すなわち何かが起こるまで待っていると貧乏くじを引かされることが多々あります。ゴールを明確にしたら、そこから逆算して今何をすべきかを常に意識すれば、そこに描かれるルートは常にゴールへの最短距離になるはずです。

「今何をすべきかを常に意識する」ためのヒントとなるのが次の一節。

こんなことを想像してみて下さい。

もし私があなたに「今日の午後5時きっかりにこの町にある空港まで来てくれたら40万ドルをあげる」と言ったらあなたはどうしますか? 条件は他には何もありません。ただ5時に空港に来てくれればいいだけです。

もちろん来ますよね。

それでは空港に行く途中で交通が渋滞しており、このままでは5時に空港に着けそうにありません。どうしますか? 「ダメだ」といってあきらめてしまいますか。

そんなことはないはずです。あなたは5時までに空港に間に合うように、あらゆる手段を講じるはずです。

私たちは何かを心の底から望むとき、それを手に入れるために自分のできることをコントロールしていくのです。(p.63)

コントロール、すなわち「すべき」を強化し「すべからず」を抑制するためには自分が何を心の底から望んでいるかをはっきりとさせる必要があるでしょう。つまり、限りあるリソースを使って何を成し遂げたいのかを明確にすることです。

そのための手段となるのが家計簿です。そこには「すべき」と「すべからず」の素材が詰まっています。しかし、気をつけるべきは家計簿はあくまでも手段であるという一点。

家計簿などで過去のお金の流れを記録している人はいますが、将来の自分のお金の流れをプランしている人はあまりいないようです。

記録は変えることのできない過去の数字でしかありません。過去の記録は将来に役立てて初めて価値があります。家計簿に“破産”という文字を書くようになってからでは遅いのです。

将来のためのプランのほうが過去の記録よりもずっと重要なのです。何をしてきたかを記録に残しておけば役に立ちます。しかし、自分がこれからどこにいくのかを知っていることのほうがよほど重要です。あなたが自分のめざしているところを知らなければ、あなたが理想とするところに辿り着くことはあり得ません。(p.174)


お金の原則の多くはそのまま○○にも適用できる

例えば、以下の一節はお金の投資に関する主張ですが、

投資に関してあなたが犯す可能性のある最大の間違いの1つは、失敗を恐れて投資をしないことです。失敗の可能性がまったくない投資などありません。またあなたが投資をしていれば、ある程度の失敗を経験することは避けられないことです。そのような経験は必要なのです。

花壇に花を咲かせようとすれば、播いた種の成長と同時に雑草も生えてきます。雑草が生えることを拒んでいては、花が咲くのを見ることもできません。雑草が生えるような土壌だからこそ美しい花を咲かす植物も育つのです。(p.175)

お金ではなく時間に関してのものであったとしても、ほとんど違和感はないでしょう。例えば、以下。

貯金というのは、自分の経済的状況を向上させるためにあなたができることの中で、最も大切なことです。あなたのお金を貯める能力が、あなたの将来を作り上げていくのです。この能力が備わっているかどうかが、あなたの可能性を広げ、チャンスを自分のものにすることができるかどうかの別れ道になっていきます。

逆に収入の一部を貯めていかないということは、自ら将来の安定、安心、そしてチャンスや選択を打ち消していっていることになるのです。(p.184)

これを時間に置き換えて考えてみましょう(太字の部分を手前味噌風味で置き換えてみました)。

スピードハックスというのは、自分の経済的状況を向上させるためにあなたができることの中で、最も大切なことです。あなたの限られた時間を有効活用する能力が、あなたの将来を作り上げていくのです。この能力が備わっているかどうかが、あなたの可能性を広げ、チャンスを自分のものにすることができるかどうかの別れ道になっていきます。

逆に限りある時間の一部をインプットに回さないということは、自ら将来の安定、安心、そしてチャンスや選択を打ち消していっていることになるのです。(p.184)

毎日朝から晩まで仕事漬けな毎日を送っていると、少なくとも仕事に関する知識やスキルは蓄積できそうですが、それ以外の活動にはいっさい時間を割けないわけですから、必ずどこかで行き詰まりを見るでしょう。

そうならないためにも一日の一定割合の時間は本を読んだり人の話を聞いたり、といった“インプット積立”、すなわち自分への投資に回すことです。

貯金しようと思わなくても自動的に残高が増えていく仕組み

話をお金に戻して、収入の一部を確実に貯金に回していくためには、人の意志だけでは足りません。そこで仕組みが必要になってくるのですが、これが本書のキモである「2つないし3つの銀行口座」を活用したお金の管理術。『ベンジャミン・フランクリン 富を築く100万ドルのアイデア』を参考に以下に簡単にご紹介します。

まず、支出を以下の2つの種類に分けます。

定期支出とは、水道光熱費や電話代、食費など、毎月必ず発生する支出のことで、従って平均を取ればだいたいどのくらいのお金が必要かをかなりの精度で予測できるものです。

一方、不定期支出は、文字通り不定期に発生する支出全般を指します。要するに定期支出以外のすべてです。これについては、ライフステージに応じてどの時期にどのような出費が発生するかを調べることで、ある程度は予測できるはずです。

こうして、あらゆる支出を予測の圏内に入れることができたら、今度は収入に目を向けます。ポイントは一箇所にまとめること。あちこちから入金がある、という場合でもとにかく1つの口座に集めるようにします。この口座を「マスター口座」と呼びます。これが1つめ。

続いて、出費についても同様に口座を分けます。分ける基準は先に挙げた「定期支出」と「不定期支出」。これで3つの銀行口座が用意できました(※)。

※支出の項目が少ない場合は、定期支出口座と不定期支出口座は1つの口座でもOKです。この場合は「マスター口座」と「支出口座」の2つの口座を使うことになります。

次に、この3つの口座をどのように使い分けるか、です。それは、以下の手順に従います。

こうすることで、「マスター口座」に残ったお金はまるまる余剰金となります。なぜなら、必要な支出額はすべて各担当口座に振り分けずみだからです。

蛇口から出た水をそのまま使うのではなく、一度バスタブに溜めておいて必要な分だけくみ出して使う、というイメージです。バスタブが「マスター口座」に当たります。水の出しっぱなしによる垂れ流し、すなわち無駄遣いが防げるわけです。

ポイントは、バスタブである「マスター口座」からお金を引き出すのは、毎月2回だけ、すなわち「定期支出口座」と「不定期支出口座」それぞれに必要な額を移すタイミングに限るという点です。こうすることで、「マスター口座」の資金が守られ、ここが貯金となるわけです。

それゆえ本書では、「マスター口座」はなるべく引き出しがしにくい銀行にすべし、と忠告しています。月に1回しか訪れないので、あえて不便な店舗にするとよい、とも。

この口座からお金を引き出しにくくするほど、あなたの無駄遣いは減っていきます。

僕自身はこの仕組みを以下のように実践しています。

「定期支出口座」は、毎月の引き落としのほかに、月々の現金はこの口座から引き出すことになるため、自宅や職場の近くに店舗やATMのある銀行にしておく方がいいかもしれません。

「不定期支出口座」は、ひたすら引き落としされるだけの口座ですから、オンライン上で残高が照会できさえすればどんな銀行でもいいでしょう。念のため、定期預金を作って貸し越しに備えておくと万全です。

関連して、クレジットカードも毎月の支払いに使うカードと娯楽・遊興費に使うカードを分けて、それぞれの引落銀行を分けた方がスッキリするでしょう。こうすることで「定期支出口座」のお金の流れが贅沢をしない場合の損益分岐点ということになります

なお、銀行振込による支払いが発生した際は、家賃など毎月のものであれば「定期支出口座」から、不定期なものであれば「不定期支出口座」から、それぞれ振り込むのが原則ですが、振込手数料のことを考えると、住信SBIネット銀行を使うのがベターでしょう。他にも選択肢がありそうですが、僕の把握しているところではこのくらいで。。

※【2018年9月23日追記】記事初出時、「マスター口座」は新生銀行と記載していましたが、現在は住信SBIネット銀行に変えているため、記事もこれに合わせて修正しています。

まとまった資金が貯まったら

以上の手順で「マスター口座」に余剰資金が滞留するようになったら、ここからが「金融リテラシーの基本と実践」の始まりです。

例えば、『お金は銀行に預けるな』で紹介されている様々な投資法を実践するための原資として、この余剰資金を安心して使うことができます。なにしろ、必要な出費は予め“控除”されているのですから。

僕自身が、この方式を実践していて感じているメリットは、この安心感に尽きます。

というあいまいな“思いつき投機”ではなく、

という明確な判断にもとづいた“思慮深い投資”ができるようになります(当然リスクは自己責任ですが)。

また、毎月「マスター口座」から「定期支出口座」と「不定期支出口座」へまとまったお金を移すわけですが、そのたびに自分が一ヶ月にどれぐらいのお金を使っているのかを思い知らされます。これは無駄遣いを改める上では非常に効果的だと実感しています。


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