Evernote の特徴の一つは、クライアントアプリケーションもマルチプラットフォームで開発されている点です。Windows 版、Mac OS X 版といったクライアントは Java のようなランタイムを利用して同じアプリを動かそうとするのではなく、それぞれが独立して開発されています。
すべてをブラウザでおこなうサービスも多い中、大きな苦労を追いながら負いながら Evernote がクライアントの開発に力を注ぐのはなぜでしょう?
それは、クリッピングや、ウェブカメラによるノートの作成、スキャナーとの連携など、Evernote が提供する機能の多くはクラウドの向こうではなく、ユーザーに近い場所に置かなくてはいけないということを開発者が理解しているからです。
一方、そうした開発スタイルは Windows 版と Mac OS X 版との間に差を生み出すという副作用もありました。実際、Evernote の開発者の多くが Mac OS X (そして Chrome)を利用しているということもあって、Windows 版の開発が少し立ち後れていたのは否めませんでした。
そうした状況を払拭すべく、すべてが新しく開発された Evernote Windows 版 4.0 がリリースされています。
ふだんは Mac OS X つかいの私ですが、さすがにこのリリースはちょっと気になります。いくつか気になる点をピックアップしておきましょう。
洗練されたインターフェース
一目見てわかるのは、上下に場所を食っていたメニューバーと、アイコン部分が圧縮され、並列されるようになった点です。
実は私は Evernote の日本語翻訳にもかかわっていますのでこのバージョン4の存在は早くから気づいていましたが(役得!)、メニューの内容や機能の並びなど、Mac OS X 版と近づけてあることがわかります。
Mac OS X 版なら iSight ノートが存在するところにウェブカメラノートが配置されたり、用語など、類似点はかなりの数に上ります。これは Windows ユーザーには若干の変化となりますが、Mac と Windows の両方をシームレスに使えるわけで進歩と言えるでしょう。
クリッピング機能の強化
クリッピングをおこなう拡張機能でももっとも機能が充実しているのは Chrome ですが、IE / Firefox でクリッピングをおこなう人もおおぜいいます。また、Windows 環境では Outlook などのアプリから直接クリッピングするケースも多いことを念頭に、Evernote 4 ではクリッピング機能も改善が加えられています。
クリッピングのホットキーを利用すると、ポップアップが浮かび上がり、現在使用しているアプリケーションを離れることなくタグやノートブックの指定をおこなうことができます。こうしたポップアップが必要ない場合は Shift キーを押しながらホットキーを操作すればバイパスすることも可能です。
Windows 7 への対応
本家ブログではさりげなく紹介されていますが、Windows 7 のタスクバーに存在するジャンプリストに対応しているのも、ふだんの生産性を向上してくれます。
ジャンプリストは画面下部のタスクバーに登録してアプリケーションの機能を呼び出しますが、Evernote 4 では Evernote を起動することなくノートの追加、検索、同期などをおこなうことができます。
また、パソコンに GPS などの位置情報を取得する機能がついていたり、既定の場所が登録してある場合はノートを編集する際に「クリックして位置を編集」の欄を利用して手軽にノートに位置情報を付加してゆくことができます。
このように、アプリの全体の雰囲気は定評のある Mac OS X 版の方に近づけつつ、細かい Windows 7 などの新機能をとりいれてワークフローのなかで利用しやすくするチューニングが加えられているという印象があります。
Evernote Windows 版 ver.4 にいますぐアップグレードするべきか?
リリース直後には「日本語のインライン変換がおかしい」「一部の機能を利用するとクラッシュする」という報告が多数あった Evernote for Windows ver.4 ですが、4.01 のアップデートで初期のバグの多くが修正されて安定してきているようです。
その一方で、今回の新しい Evernote クライアントはメニューなどの日本語訳も多くが新規にされたもので、まだまだ粗が目立ちます。それでも利用に問題があるほどではありませんので、ver.4 の大幅なスピードアップと快適さを考えるとアップグレードして問題はないでしょう。
これでようやく水準をそろえ、これまで足枷となっていたさまざまなバックエンドの問題を解決した Evernote for Windows、これからも新機能のペースが高まりそうですね。
今週の本
私はもう、速読術なるものを信じてはいません。そもそも、自分がよむ本に速読で片が付くようなものはなかなかなくなっているのです。
しかし新しい分野の知識を一気に吸い上げたいという場合などに、手軽に読める新書や単行本を選んで一気読みしたくなる場合もあります。そうしたときのエッセンスが凝縮されたのが鹿田 尚樹さんの『10分間リーディング』です。
タイトルに惑わされてはいけません。この本は「本は10分で読め」と言っているのではなく、適切な準備をすれば「10分でも要点をつかめる本はたくさんある」ことを念頭に、どのように「準備し」「読み」そして「読書を生産につなげるか」というプロセスを詳細に書いています。
特に要注目なのが「モレスキン手帳で自分教科書を作る」という節。読書された情報をもういちどモレスキンという書物のようなノートに捉え直す手法が面白いです。
本書も10分で読もうと思えば読めます。しかしところどころで立ち止まって、自分が読書から求めることを考えながら吟味することでさらに旨みは増すことでしょう。
先日発表された MacBook Air を買うまい、買うまいと考えていたのに、うっかり店頭で実機を触ってしまったが最後、すぐに注文してしまいました。
11インチの小さな液晶でも高解像度で非常に見やすく、SSD メモリのおかげで起動や動作もきびきびとしていて、ブログや原稿の執筆に向いた機種といえそうです。
これを買ったからには、ばりばりと頑張るつもりでいますが、ブログをサボっているときにはぜひ遠慮なく突っ込んでくださいませ。
▼堀 E. 正岳:
Evernoteエバンジェリスト。「Evernoteハンドブック」の執筆や「Evernote日本語掲示板」のモデレータを通して、愛してやまないEvernoteの育て方を伝道中。Lifehacking.jp主宰。