第二回では「見返しやすい」ノート作りのコツをまとめてみました。今回はノートの役割とは何か、何のためにノートに書くのか、という内容面について考えてみたいと思います。
多くの方のノートの使い方を拝見していると、本当にさまざまな「ノートの使い方」を発見することができます。
「議事録」「講義・セミナーの内容」「読書メモ(レバレッジ・メモ)」「プロジェクトに関するPDAC」「ToDoリスト」「アイデア帳」「マインドマップ」「4行日記」・・・
挙げだしていけばキリがないくらいです。それぞれの要素の詳細についてはまた別の機会に見ていくことにして、今回はこれらを大きく3つに分類してみたいと思います。
記憶するため
学生時代のノートがこれにあたります。情報を転記し記憶に刻み込む。情報を整理して理解しやすい形でまとめる。何かを勉強する場合のノートの取り方です。
これは、そのノートに情報が書かれていることに意味はありません。あくまで頭の中(つまり自分の記憶)にその情報をインストールするために一時的にノートにその情報を置いておくのが目的です。一度覚えてしまえば、基本的にそのノートの役割はおしまいです。
ただし、一度書いただけ、見ただけではなかなか覚えることはできないでしょうから、しっかり見返す必要があります。そのためにはなるべく丁寧にノートを書いたほうがよいでしょう。あまりにも字が汚かったり、乱雑であれば読み返すのにも苦労しますし、単純に見返すのがいやになるかもしれません。
自分用の参考書を作るようなイメージでノートをとっていく、というのがこのスタイルに向いているでしょう。手書きノートよりはデジタルでテキストファイルを作ったほうが効率的な場面も多いと思います。
「レバレッジ・メモ」などがこのタイプのノートに分類できます。
忘れるため
これは、上とまったく逆です。書いたことを自分の頭からすっきり忘れ去るためにノートに取ります。思い出したくなったときに、そのノートを見返せば情報が再現される、という形を作るのが目的です。
当然のことながら、そのノートに情報が書かれている事に意味があります。ノートを脳の外部記憶装置に見立てて使うわけです。「ToDoリスト」「アイデア帳」などがこれらの使い方の例になります。
こういうノートの使い方は、まず「いろいろ分けない」というのがポイントでしょう。ノートそのものにアクセスする必要があるので目的のノートがどれであったのかがわからないと不便です。「自分の考えたこと」「覚えておきたいと思ったこと(でも忘れるだろうなな事)」を書いておくノートを一冊決めてしまうことです。普段持ち歩く手帳にそれを割り当ててもよいですし、モレスキンのような持ち運ぶのに適しているノートを外部記憶装置に指定しても良いと思います。
これらのノートの記入に「字の綺麗さ」はあまり大きな意味を持ちません。もちろん、読み返して何が書いてあるのか理解できないほど汚い字で書くのは問題ありますが、自分が読み返せればそれで良いと割り切ってしまって大丈夫です。
また「詳細」を書き込む必要もありません。箇条書きで内容を書き留めておくだけで十分なものも多いでしょう。要はそのノートを見返せばそのときの「アイデア」や「内容」が想起できる程度の詳細さで書けばよい、ということです。これはPCの圧縮ファイルとその解凍に関係性が似ているかもしれません。
考えを整理するため
「覚えること」「忘れること」以外の使い方として、自分の考えを整理するため、という使い方もあります。「マインドマップ」や「日記」などがその例です。
これは情報がどこにあるか、どんな形で保存されているかという意味合いよりは、「書くことそのもの」に意味があります。書き出していく中で自分の考えを整理していくのが目的になります。
たとえば、極端な話を考えて見ましょう。あなたの脳をスキャンしてあなた自身の考えをマインドマップで出力してくれるようなサービスがあったとしたら。あるいはあなたの行動のログを自動的に記録して日記の形でまとめてくれるサービスがあったとしたら。
これらのサービスを利用した場合、自分で書き出したのと同じような「効果」が得られるでしょうか。多分とても「便利」だとは思いますが、それぞれのメソッドが持つ本質からは遠く離れてしまっていると思います。
デジタルでもアナログでもどちらでも良いですが、自分で一手間かけて書き出すことが重要です。ちなみに字の綺麗さもたいした問題ではありません。もちろん綺麗に書けるならば綺麗に書いたほうが良いことは確かです。
まとめ
今回はノートを「何のために使うのか」について考えてみました。まとめると、
- 記憶するため
- 忘れるため
- 考えを整理するため
この3つです。
「記憶するため」は自分の脳にインプットするためのノートの使い方。「忘れるため」は脳の外部記憶装置。そして「考えを整理するため」は脳からのアウトプット、という風に考えることができそうです。
ノートの使い方はこの3つで完璧に分類できるものでものではありません。記憶50%+考えの整理50%というノートの使い方も当然考えられます。そういう意味では分類というよりはパラメータに近いものかもしれません。
もちろん、こんなややこしいことを考えなくても普通にノートを使うことはできます。それがノートの良さでもあります。
ただ、いろいろなノート術を知ると自分の使い方に関して混乱してしまう可能性もあります。そういう場合には、一度原点に立ち返って「何のためにノートをとっているのか」を考えてみるのが有効だと思います。
▼参考文献:
何度も紹介していますが、ビジネスシーンでのノートの基本はこれで抑えられます。
これまた何度も紹介していますが、自分のアイデアを書き留めておくためのノートの使い方「発見の手帳」は示唆が多いと思います。
▼関連エントリー:
・ノートの種類と選び方のコツ/ノート術企画第一回
・見返しやすいノート作りのポイント/ノート術企画第二回
▼今週の一冊:
人間の認知や行動について知ろうとすると、出てくるのが「ゲーム理論」。最近はこの理論をさまざまな分野に広げる試みが始まっているようです。単に人が取る戦略だけではなく、たとえば分子の動き、ネットワークの構築、社会の動き、果ては量子のあり方までを「競争」としてとらえることで、ゲーム理論を応用していくというのはなかなか心躍る話です。統一場理論のように「自然の法典」があきらかになるのか、それともならないのか。
「ゲーム理論」についての入門書ではありませんが、ざっくりとした理解があればすいすい読み進められます。「ゲーム理論」がどこからきて、どこへ向かおうとしているのか、そういう事に興味ある方はぜひ。
さてさて手帳シーズンまっさかりですね。皆さんは来年の手帳はもうお決まりでしょうか。私は先日我が家に到着した「ほぼ日手帳カズン」を見ながらにやにやしております。新しい手帳は見ているだけでうきうきしていますね。まっさらな「一年間」が自分の手の中に納まっているようなそんな感覚をおぼえます。そういえば去年の年末からこの連載を始めているのでぼちぼち1年になりますね、なんだか早かった・・・。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。