知的生産の技術書078~079『いかにして問題をとくか』『創造の方法学』


今回は078と079を。大きな意味での「思考法」に関する二冊です。

『いかにして問題をとくか』

問題解決についての古典とも呼べる一冊です。対象は数学的な「問題」に対する解決のアプローチですが、その考え方は、より広く「問題」を扱う上で役立つでしょう。

本書で提示される「問題解決への4つのステップ」はきわめてシンプルなものです。

とりたてて難しそうなものはありません。しかしそれも当然で、「問題を解決するためのアプローチ」が難しければ、それ自体が新しい問題として立ち上がってしまうのですから、ここはシンプルである必要があります。

しかし、シンプルであるからといって「簡単」とは限りません。すべてのステップにおいて難しさは潜んでいます。その中でも一番困難なのは「問題を理解すること」でしょう。

「いやいや、問題は示されているから、そんなのすぐわかるじゃん」と思ったとしたら、それは早計です。問題的・課題的事象が目の前にあるとしても、それを自分が「理解」できているとは限りません。

そうした点を確認していかない限り、解決の道のりはおぼつかないでしょう。また、要素同士がどのような関係になっているのかを図示することも有用です。

上記のような知的作業を頭の中だけでやるのはたいへんですから、やはり書いて考えることも必要でしょう。そうしたときにメモやノートは役立ちます。

また、こうした問題解決でよく忘れられるのが最後の「ふり返ってみること」です。言い換えれば、問題を解決しっぱなしにしない、ということです。

そのような振り返りによって、自分の体験が経験へと変化します。もし「問題解決力」というものがあるのだとしたら、それが向上するのはこのステップにおいてです。直感的に問題を解いただけで終わりにしていたのならば、「問題解決」という事象への理解は深まらないでしょう。

「自分が行ったことについて考える」、というメタ的な視点こそが向上に役立つのです。

『創造の方法学』

本書は、アメリカで研究を送ってきた著者が、自身の経験を振り返りながら研究をいかに進めるのかを論考する一冊です。

目次は以下。

基本としては科学的なあるいは学問的な研究の進め方であり、学者を志す人向けの内容ではありますが、それでも創造、つまり何かを新しく作り出す上での指針として得られるものはたくさんあります。

たとえば、著者がアメリカの大学で痛切に感じた教訓が以下です。

つまりアメリカの大学で研究者として一人前になるためには、アメリカの学界において、これまでに生産された学術的な研究において、これまでに生産された学術的な業績に何か新しい知識をつけ加えなければならない。ひとかけらの仮説でもよい。ひとかけらの科学的証拠でもよい。なにか新しい知識を既存の体系につけ加えなければならないのである。

だからこそ、三つのR(three R’s)と呼ばれる「読み・書き・算数(arithmetic」の基礎的な能力が大切になるわけです。そのような力があってはじめて、「これまでに生産された学術的な業績」にはどのようなものがあり、そこには何が欠落しているのか、という「問題」が確認できるようになります。そうした問題認識を欠いたまま突き進んでも、「新しい知識」を生み出すことは難しいでしょう。

学者ではない一般市民の知的生産においても同じことが言えます。なにもたいしたことである必要はありません。ただ「誰も言っていないこと」「誰も研究していないこと」を探求すればいいのです。適当にググったものを文面を変えて「情報発信しました!」というのでは知的生産とは言えません。むしろ、「あぁ〜、なんでだれもこれについて書いてくれないんだ」というものを仕方なしに自分で研究した方が、はるかに知的生産と言えるでしょう。

なんにせよ、新しいものを作り出すという「創造」においてこそ、すでに生み出されたものを読み解く力が必要になります。古いものを知って満足するためではなく、それを起点として新しい一歩を踏み出すために基礎的な知的能力が求められるのです。

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▼倉下忠憲:
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