どれも役立つ本です。
『アイデア大全』
いかに「アイデア」を生み出すのか。その技法が古今東西から集められています。
まず注目したいのは、個々の技法ではなく、そうした技法が盛りだくさんに存在しているという事実です。つまり、アイデアを生み出す方法は一つではありません。いくつもあるのです。状況に合わせて、その方法を選択していくことができる。それが一番大きな意味での「発想法」でしょう。
なぜならば、アイデアを阻害するものが「思い込み」や「視野の偏り」だからです。それまでとまったく同じ方向で考えていたのでは、新しいアイデアなど生まれません。だからこそ、視点を動かすための発想法が役立つのです。
同じことはメタレベルでも言えます。一つの発想法にこだわっていると、結局その発想法が持つ偏りに囚われているのと同じなのです。そうではなく、さまざまな発想法を使って、さまざまに視点を動かしていくこと。それが肝要であり、だからこそ発想法には「選択肢」があるのが望ましいと言えます。
ちなみに、いわゆる「発想法」として認識されているのは、本書の第Ⅱ部「1から複数へ」で扱われている技法でしょう。すでに問題や素材がある程度見えており、そこから何かを考える、というアプローチです。本書が面白いのは、その「発想法」の前段階のアプローチを、第Ⅰ部「0から1へ」で紹介している点です。
たとえば、「生産性を上げるには?」という問題に対して、さまざまなアイデアを出していくのは第Ⅱ部のアプローチになるでしょうが、「そもそも生産性を上げる必要はあるのか?」「生産性を上げないで、利益を上げるには?」と考えるのが第Ⅰ部のアプローチになるでしょう。
この二つの視点があってこそ、本当の意味で発想法は「役に立ち」ます。
『問題解決大全』
『アイデア大全』の続編に位置づけられる本です。本書もまた、紹介されている個々の技法よりも重要なポイントがあります。それが「リニアな問題解決」と「サーキュラーな問題解決」という視点の提示です。この二つの捉え方を学べたとしたら、それだけでおつりがくるほど重要な要素です。
「リニアな問題解決」とは、名前の通り直線的な因果のチェインがつながっている「問題」を解決するためのアプローチです。「AをやったらBになり、BをやったらCになるからOK」や、「Dの状況を引き起こしているのはEであり、そのEはFによって引き起こされているので、そのFをなくすためにGをする」など、まっすぐな線の上にその要素を並べることが可能な対象は、比較的対処しやすいと言えます。少なくとも、どのように介入すればいいのかの分析がたやすいからです。
一方で、「サーキュラーな問題解決」は、そうはいきません。そのような直線に並べがたい状況がそこにはあるからです。たとえば「卵が先か、鶏が先か?」という視点がありますが、それと同じように円環的に物事が組み合っている状況は、なかなか介入ができません。というか、それ以前にそのような状況になっているのだと把握するのも難しいのです。
むしろ、サーキュラーな状態をリニアな状態だと認識し、「リニアな問題解決」を持ち出してしまう、ということが起きがちです。あるいは、「リニアな問題解決」しか知らないので──ハンマーの持ち手がすべてを釘として見るように──、すべての問題をリニアなものだと捉えてしまうのかもしれません。
なんにせよ、問題の捉え方が間違っていたら、問題解決など永遠にかなわないでしょう。
その意味で、「問題」を捉える視点を豊かにしていくことは、結果的に問題解決という実利に「役立つ」ことになります。
『独学大全』
前二冊とは版元も違い、構成も少し変わっていますが、それでも骨子は同じと言えます。個々に紹介されている技法よりも、本書が大きく提示する方向性が重要なのです。
一つは、これまでと通底して「方法はいろいろある」という観点で、本の読み方一つとっても、さまざまな読み方があります。熟達した本の読み手は、それらを使い分けながら、たくさんの本と対峙しています。たった一つの方法で乗り切っているわけではありません。言い換えれば、さまざまな方法を知ることは、さまざまな状況に対峙できるようになることを意味します。
もう一つは、「独学は続けるのが難しい」という観点です。というか、これは独学に限らないでしょう、自分ひとりだけで(自分のコミットメントだけで)進める物事は全般的に簡単ではありません(だから習慣化の本が今日も発売されているわけです)。そこで本書では、具体的な独学の方法と合わせて「続けるための方法」も提示されています。いわゆるセルフマネジメントです。
その意味で、本書は独学=研究=知的生産の技術書であると共に、「メタ・ノウハウ書」としての一面も持っています。本連載でもさまざまな「知的生産の技術」を紹介してきましたが、それらの技術を「どのように使うのか」という一つの上からの視点のノウハウも必要なのです。
少なくとも、技術・ノウハウの情報を読めば、すぐさまそれが使えるようになるわけではありません。使えるようになるためには、慣れや訓練がどうしても必要です。その道行きをサポートする「メタ・ノウハウ」も合わせて知っておくのは、一見回り道なように見えて、実は「役に立つ」のです。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。