デジタルノートとしてのEvernote



ここまでの連載で、デジタルノートについてさまざまに検討してきました。その締めとして、今回からいくつか具体的なツールを挙げ、その可能性も含めて紹介しようと思います。

最初は、Evernoteです。

最高のメモアプリ – Evernote で大切なノートを整理


老舗のデジタルノート

Evernoteは、名前からして「ノート」です。Everに使えるnote。それがEvernoteです。

日本でもずいぶん古くから使われており、これをお読みの方も使用されているか、あるいはアカウントはお持ちかもしれません。個人ユースの“クラウドツール”概念を一般に普及させた、といっても過言ではないほどの存在感がかつてはありましたが、最近ではノートのツールの選択肢も増えたことで、さまざまなツールがライバルとなって登場しています。

デジタルで情報を扱えること、あるいはクラウド対応であることは、もはや列挙すべき特徴ではなくなっているので、より他のツールとの違いに重点を置いてEvernoteの機能を紹介してみましょう。

柔軟性のある「入力」

Evernoteの最大の特徴は、保存できる情報の性質を問わないことです。テキストでも画像でも音声でも「記録」できます。さらに、ノート(Evernoteにおける情報の最小単位)の中にファイルを埋め込むこともできます。つまり、パソコンに保存してあるものならば、そのままEvernoteでも保存できるわけです(ファイルサイズの上限はあります)。

よって、いちいち細いことを気にする必要はありません。発生したデータをそのまま──変換作業などをすることなく──保存しておけます。ラクチンです。

もう一つは、古くから使われているWebクリッパー機能の優秀さでしょう。Webブラウザの拡張機能として提供されているWebクリッパーを使えば、自分が今観ているWebページを「ほとんどそのままの形」で保存できます。Web時代の「新聞切り抜き/スクラップブック」です。

その他、サードパーティーによる多数の補助アプリケーションもたくさん存在しており、ありとあらゆる場所・ツールからEvenroteに向けて情報を送り込むことが可能です。そうした入力方法を列挙するだけで二つくらい記事が必要なほどの量があります。

上記のような特徴から、Evernoteは「総合的な箱」として機能してくれることがわかります。保存できる情報の性質が広いこと、多数のインターフェース(≒情報の入り口)を備えていることによって、柔軟性を持って情報を集めまくることができるのです。

雑に入れ過ぎるきらい

一方でその特徴は、弱点にもなりえます。「いちいち細いこと」を気にせずに、情報を大量に保存すると、箱の中身が地獄絵図のようになってしまうのです。

たとえば、自分が何かしらの興味を持って情報を集めていたとしましょう。デザインでも経済学でもなんでも構いません。そうやって、情報を集めまくっていると、たとえば「デザイン」という言葉で検索をかけたときに、やたらめった情報が「見つかってしまう」のです。

最近はGoogleでも、検索結果の上位がロクでもないページで占められている、という事態が生じていますが、検索結果は数が多ければよいというものではありません。探している対象の情報が、うまく絞り込めることの方がはるかに大切です。

となると、検索の仕方を工夫する必要があり、ということはタグづけなども含めて情報を保存するときにいくらかのケアをしておく必要が出てきます。つまり、「いちいち細いこと」を考えておく必要があるのです。

Evernoteは、柔軟性があり広く情報を集められるのですが、その広さのギリギリ目一杯まで使おうとすると、その中身はゴミ屋敷となってしまいます。その点にだけは注意して情報を集めていく必要があるでしょう。

ゴミ屋敷化現象 – 倉下忠憲の発想工房も参照のこと。

Evernoteのリンク

もう一つ、Evernoteにはデジタルノートならではの「リンク」機能があります。まず、ハイパーリンクとしてWebページなどのリンクが使えることがあって、これはたいていのデジタルツールが完備しています。その機能に加えて、Evernoteのページに対してリンクを作る機能もあります。

たとえば、以下のページにある緑色の文字列が「ページリンク」です。

そのリンクをクリックすると、リンク先のページにジャンプできます。

こうすることで、ノートとノートの間に情報的橋渡しができます。

ただし、現状のEvernoteのノートリンクはそれほど高機能ではありません。「リンクは作れる」くらいのレベルです。

たとえば、上記の二つのページはリンクによって相互につながっていますが、それは私が自分で両方のページにお互いのリンクを貼っているからです。もしその作業をしないで、片方からもう片方のページにリンクを貼っただけだとA→Bは移動できてもB→Aは移動できません。つまり、他のデジタルノートツールでは「backlink」という名前で実装されている機能が現状のEvernoteにはないわけです。

これは、単純に考えれば、自分で貼らなければならないリンクの数が他のツールに比べて2倍になっていることを意味するわけで、あまり嬉しくありません。

また、他のツールはさまざまな手段で、「今入力しているノートから移動せずに、他のノートへのリンクを作る」「まだ存在していないノートへのリンクを先に作っておき、その後該当ノートを作る」という機能を持ちますが、Evernoteにはそれがありません。先にノートを作り、そのノートを表示させて、リンクを取得して、もとのノートに戻って貼り付ける、という手順を踏む必要があります。

一応、他のノートをエディタ内にドラッグすることでリンクを作ることは可能ですが、少なくともノートリストにそのノートが表示されていなければ使えない機能であり、結局は該当ノートを「探す」という手順は必要なわけです。これが日常的にノートリンクを使っていると地味に面倒に感じます。

もちろん、そうした手間さえ惜しまないのであれば、Evernoteでもノートリンク機能は使っていけます。柔軟性のある入力を使いつつ、それらをリンクで橋渡ししたいなら、Evernoteは強力な選択肢となるでしょう。

さいごに

Evernoteは老舗のツールではありますが、Evernote 10以降に大規模なシステムの移行が実施され、かなりの部分が「一から作り直し」になっていると予想します。よって、機能的にまだまだ熟成していない点は否めないでしょう。

しかしながら、デジタルツールはいつでも発展途上であり、時間とともに変化していくものです。ツールがどんな方向を目指しているのかを睨みつつ、その発展を確認していきたいところです。

というわけで今回はEvernoteを紹介しました。次回はWorkflowy/Dynalistを紹介します。

デジタルノートテイキング連載一覧

▼編集後記:



ちなみに、紙面の関係上『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』ではデジタルノート論についてはほとんど触れませんでした。またこういう話もまとめてみたいものです。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中

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