この「思考力」を鍛えたいと思っておられる方も多いでしょう。しかし、よくよく考えてみると「思考力とは一体なんなのか」というのは具体的にイメージしにくいものです。
例えば、「体力」という言葉があります。この「体力」を直接鍛えることはできません。普通「体力をつける」といった場合には、筋力トレーニングをしたり、食事の栄養バランスに気をつけたり、生活のリズムに気を配ったりとさまざまな要素が入り込んできます。
これと同じように「思考力」の鍛え方も、特定の一つの事をやればよいのではなく複合的なポイントを押さえていく必要があるのではないでしょうか。
今回はこれを踏まえて、ごくシンプルな「考える力」を付けるための方法について考えてみたいと思います。
まず、疑問ありき
何かについて考えるために最低限必要なものは「疑問」です。このとっかかり無しに「考える」事をはじめることはできません。発想の豊かな人は、日常のいろいろな場所・場面で疑問を豊かに持てる人だと思います。
吉良俊彦氏の『1日2400時間吉良式発想法』という本の中に、以下のような文章があります。
ものを見たとき、聞いたとき、嗅いだとき、味わったとき、触ったとき、ふと何かしらの疑問が湧くことがあると思う。その感覚が、物事を考える最初のステップなのである。推量だから、明確な答えはなくてもいい。疑問に思い、考えること自体が重要なのである。
この自分の内側からわき上がってくる疑問には大きな価値があります。どこかの誰かが設定したわけではないオリジナルの疑問を持つことができれば、それがそのままオリジナルの発想へと繋がっていくことでしょう。答えは疑問に導かれてやってくるものです。
まず、日頃からメモを取る習慣を身につけて、わき上がってくる疑問を取り逃さないことです。簡単な方法としては日常的に持ち歩く手帳に書いておく、切り離しが可能なメモ帳に書き付ける、Evernoteに保存しておく、などの方法があると思います。
手帳に書き付けておけば、日常的にその疑問を見返すことができます。切り離し可能なメモ帳であれば、小さい箱を用意してそこにまとめて入れておく「疑問BOX」を作ることができるでしょう。Evernoteでも疑問だけをまとめたノートブックを作っておくという方法が可能です。
答えを出す
もちろん、疑問を書き付けておくだけで思考力が鍛えられるわけではありません。時折その疑問を見返して自分なりの答えを出すことです。
これについては、日垣隆氏の『知的ストレッチ入門』を引いておきます。
自分の中にぼんやりと疑問が浮かんだとき、できるだけ形にして回答を与える訓練をすると、知的ストレッチには効果的です。
この文章に続いて、「その分野の新書を5冊前後ざっと読む」や「シンポジウムや講演会に行ってみる」という方法が紹介されています。これらの方法であればそれほど無理なくやってみることができるでしょう。学術的な分野の疑問でなければ「自分で思考実験してみる」や「身近な人に話を聞いて回る」という事でも答えを得る事ができるかもしれません。
とりあえず、「疑問」から「答え」を出すという過程を一通りこなしてみることです。大きな「間違い」は問題ですが、間違いを気にするあまりに「答え」を出す過程を避けてしまっている方がより大きな「問題」になってくると思います。
人に説明する
自分では答えに満足していても、人に説明するとなると曖昧だった部分が出てくることはよくあります。また説明している時に質問された事で新しい発見が生まれることもあります。
先ほどの『知的ストレッチ入門』より引用します。
できれば、そのこといついてまったく興味のない人に向かって話しましょう。その人が「へえぇ」と言ってくれるぐらいに、おもしろく話ができるようになったら、そのテーマの輪郭が固まったことになるでしょう。
この事を逆に捉えれば、おもしろく話ができていない間はまだ自分の理解が足りていない、ということになるでしょう。考えているポイントがずれていたり、情報が不足していたり、など理由はいろいろ考えることができそうですが「再考の余地あり」と判断することができます。
この「人に説明する」過程は、ソーシャルメディアを使うこともできます。例えば、
- 着想やひらめきの段階はTwitterに流す
- 一通りまとまったらブログに記事として書いてみる
という方法が考えられるでしょう。
ソーシャルに向けてアウトプットすることで、有意義な反論や意見をもらうこともできるでしょうし、あたらしい疑問がそこから導かれる可能性もあります。
継続的に繰り返す
「思考力を鍛える」というのも筋力トレーニングと同じで繰り返して行く中でしか意味ある結果は得られないものだと思います。
日々の新しい疑問について答えを出していく過程も重要ですし、また一度出した答えについて考え直してみる作業も必要でしょう。疑問そのものをバージョンアップさせることもできます。例えば、ある人の文章を読んだときに「おもしろい」と感じたら、
「なぜその人の文章はおもしろいのだろうか」
という疑問が出発点になるかもしれません。この疑問も
- 「その人の文章は他の人もおもしろいと思っているのだろうか」
- 「その人の文章と他の人の文章の差はなんだろうか」
- 「自分がその人の文章に惹きつけられる要因は外部的なものか内部的なものか」
- 「自分が同じような文章を書くようになるためには何が必要か」
などと、さまざまな方向に派生させていくことができます。
まとめ
今回は思考力のトレーニングについて考えてみました。まとめると
- 日常的に疑問を書き留めておく
- 疑問について答えを出してみる
- 出した答えを人に説明する
- これらを継続的に繰り返す
となります。
考えることをはじめるためには、まず「疑問」を持つことが大切です。そして、それについて情報を頭に入れ、理解し、自分のなりの考えを提示し、他人に理解できる形で説明する。これらを継続的に繰り返す中で初めて「思考力」というものが鍛えられると思います。
とりあえずは、日々の疑問を書き留めることから始めてみてはいかがでしょうか。
▼参考文献:
「発想法」のノウハウ本というよりは、「考え方」についての講義を受けているかのような印象を与える本です。単に発想法だけにとどまらず、コミュニケーション好きの重要性や必要性などにも触れられています。
ガッキー流知的生産の方法論と心構えが一通り紹介されている本です。現代における知的生産の方法論として一読の価値はある内容だと思います。
▼今週の一冊:
発想法としてまず思い浮かぶものの一つに「KJ法」があります。その創始者でありまた、名前の由来にもなっている「川喜多二郎」氏の著書です。新書は新刊ですが、1993年の「創造と伝統」の中におさめられていた文章を新書化したものです。
発想法の具体的な方法論ではなく、そもそも「創造性とはなんだろうか」について考察した内容です。創造と保守の関係性、人間にとっての創造的行為の意味などが描かれています。知的生産の本というよりは、ビジネス書あるいは自己啓発書に近い内容になっています。
» 創造性とは何か
初めてのトークセッションを終えて、久方ぶりに落ち着いている日々です。人前で話すのはなかなか緊張しました。次は「東京ライフハック研究会」ということで東京でのトークです。ご興味ある方は是非。あと現在準備進行中ですが10月04日より有料メルマガをまぐまぐさんで始めます。「Weekly R-style Magazine」。詳しくはまたご紹介させていただきます。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。