○月○日買った本、みたいな情報整理について



アナログノートではあまり考える必要がなかったことについて考えてみます。

という情報の管理についてです。

アナログノートでは?

まず、アナログノートでの運用を考えましょう。おそらく二つのパターンがあるかと思います。日記的処理、読書ノート的処理です。

日記的処理とは、「7月16日」のようなページの中にその「買った本のタイトル」を書き込むスタイルのことです。日付ベースのスタイルとも呼べるでしょう。

一方、読書ノート的処理とは、本のタイトル(たとえば『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』)のページを作り、そこに「7月16日購入」のような情報を書き込むスタイルのことです。こちらは日付ではなく、個別の要素を扱っているので、とりあえずはオブジェクトベースのスタイルと呼んでおきましょう。

どちらのスタイルもそれぞれに良さがあるものです。でもって、デジタルノートはその良さをさらに深められます。

リンクでつなげる

なんらかのリンク機能を持つデジタルノートであれば、日付ベースで管理していても、本をオブジェクト的に扱えるようになります。

たとえば、以下はEvernoteでの運用です。

まず日付のページを作り、その中に本のページへのリンク(Evernoteのページリンク)を貼り付ければ、両方のスタイルで管理することができます。おいしいところ取りですね。

もちろん他のデジタルノートでも同様のことは可能です。たとえば、Obsidianであればまず日付ページに本のタイトルを書き込み、それを二つのブラケットで囲めば、それがリンクになるのでそれをクリックしてその先のページに本の情報を書き込めば、二つのスタイルでの管理が実現します。

さらに、「Backlink」を表示させれば、その本のページがどのページから言及されているのかが確認できます。ある本について言及している日付を、本のページから串刺すことができるのです。

ScrapboxであればわざわざBacklinkを表示させる操作すら必要ありません。リンクを作った時点で、参照している・されているページが自動的に表示されます。

さらに、Roam Researchであれば、階層をタグ(ラベル)的に使うこともできます。どういうことでしょうか。

Roam Researchでは階層も情報の関係性を明示するために使われるので、たとえば以下のような記述の仕方ができます。

本のタイトルだけでなく、それに付随している項目全てがリンクになっているのです。こうすると何が嬉しいのかと言えば個別のオブジェクトからbacklinkを眺めたときに、そのページとどのような関連性があるのかがすぐにわかる点です。

さらに、ラベル代わりになっているリンクをクリックすれば、今度はその項目で情報を抽出することもできます。つまり、「買った本」とか「本」とか「読み終えた本」とか、自分で項目を作っていけばいくらでも抽出条件を増やすことができるのです。これはアナログノートには持ちえない機能でしょう。



どれが「最強」?

以上を確認すると、Roam Researchが一番操作あたりの情報密度が濃いことがわかります。リンクになっている項目の下位項目に位置づけるだけで(もっと言えばTabキーを押すだけで)、それがラベル付けに相当し、柔軟な情報ビューを提供してくれるようになります。

Obsidianはbacklinkまわりの情報はRoam Researchと同様に豊富ですが、階層構造が持つ情報の付与が少し弱い点がRoam Researchとは違っています。

一方Scrapboxは、関連するページの情報を閲覧するための操作を必要としないのが魅力です。複雑な階層構造での情報の付与はできませんが、2hop先まで関連ページが表示されることで、近しいページは自然と目に入っているようなっています。

Evernoteは、リンクは作れますが、それだけです。backlinkまわりの情報は表示されないので、自分でそれを整備する必要があります。何かしら串刺して閲覧したい場合は別途タグづけ(ラベルづけ)の作業が必要となります。

となると、Roam Researchが「最強」なのでしょうか。

もちろん答えはNoです。あるいは用途によります。

機能よりも自分の運用

Roam Researchがきわめて強力であることは間違いありませんが、その力を十全に発揮させるためには上に書いたような情報の入力が必要です。そして、「さまざまな条件で串刺せるのだから、さまざまに情報を入力していこう」という考えが生まれがちで、結果としてひどく面倒な体制ができあがります。

という項目ですら、すでに「うっとうしさ」が感じられますが、「本」の兄弟項目が増えたり、さらに詳細な分類(小説とかビジネス書とか)を作ったりしがちなのです。

たしかにそれでデータとしての「整備度」は上がりますが、だいたい一ヶ月も続けると面倒さが強まってきます。データのためにデータを入力しているような感じがするのです。なぜかといえば、たいていの「抽出条件」はほとんど使わないからです。「あったら便利か」と聞かれたら「たぶん、便利」と答える頻度でしか使わないからです。そういう用途のためにちまちまとデータを入力しているなら、嫌になっても当然でしょう。

もちろん、そこまでややこしいことをしなければいいわけですが、ややこしいことをしないなら、その他のツールでも問題ないことになります。つまり、機能における優位性がそこで消えてしまうわけです。

結局ここでは「自分がどのような情報体制を欲しているのか」が鍵になります。多様な抽出条件を強く欲しているならば、それを実現するツールを使うしかありません。でも、そこまででもないならば、多くのツールにたいした差異はありません。十分に問題なく使っていけます。でもってそれがツールとの健全な付き合い方でもあるでしょう。

さいごに

高機能だからよいわけでもありませんし、高機能が正解な(≒高機能なものを選んでおけば間違いない)わけでもありません。自分が求める機能と、それを運用していくコストがバランスしているかが大切なのです。

だから、日付ベースにオブジェクトベースの管理を組み合わせる方法だけでなく、そもそもすべてをオブジェクトベースで管理して日付ベースは必要最低限にするという方法すらもありえます。そのどちらを(あるいはぜんぜん別の方法を)採用しても、「間違い」ではありません。単に自分の用途に合っているかどうかがあるだけです。

だから、あまりぐだぐだと考えずにとりあえず実際に運用してみることです。一ヶ月も経てば、自分の用途が見えてくるでしょう。そこからの調節こそが、ツールを使いはじめる真の一歩だと言えそうです。

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▼編集後記:




当初Amazonの販売ページが「7月26日発売」となっていてそれを鵜呑みにしていたのですが、新刊の発売日は23日でした。でもってKindle版は22日からダウンロードできるみたいです。もう来週ですね……。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中

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