さて、2021年は日本においてデジタルノート元年となるでしょう。
もちろん、すでにデジタルノートツールはさまざまに普及しています。いちいち名前を挙げるまでもなく、このシゴタノ!でもずいぶんたくさんのツールを紹介してきました。
しかし、そうしたツールはアナログツールをメタファーにしているように感じられます。
言い換えれば、「アナログツールをデジタルで再現してみた」感覚があるのです。あるいはそのツールを使うユーザーが、アナログツールの「デジタル版」として運用しているのかもしれません。
どちらの場合であっても、そこで行われている行為は「デジタルノートの運用」とは言い難いものです。アナログノートでもできるけどデジタルノートだと便利だよね、というレベルに留まっているのです。
つまり、「デジタル的」な考え方になっていません。これは極めてもったいないことです。
それは単に情報利用の効率面だけでなく、デジタルツールが切り開くであろう新しい情報活用の開拓においてももったいなさがあります。どれだけ早い馬を求めてもそれだけでは自動車は生まれないように、デジタルノートの新しい運用はまったく新しい考え方が必要となります。
強く言えば、デジタルノートの哲学が必要なのです。
昨今では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が認識されつつありますが、個人のノート運用についても同じことが言えるでしょう。
さまざまなものが大きな変化を迎える中、ノートテイキングの技法もデジタル化に向けて進んでいきたいところです。
使い方が大切
本連載は、ツールの紹介とノウハウの紹介が中心となります。とは言え、大切なのは後者です。
さまざまなデジタルノートツールが機能を拡充させつつありますが、それらの知識を丸暗記したところでデジタルノートが使えるようになるわけではありません。むしろ多機能すぎて混乱が深まることすらあるでしょう。ツールがいかにあるか(いかなる方向を目指しているのか)を知ることも大切ですが、むしろそうしたツールをどのように使っていくかの方が、運用においては重要になります。
つまり、ツールそのものよりもその使い方が、使い方よりもそれを支える考え方の方が重要なわけです。具体的でわかりやすいものだけを取り扱うと、この点を見逃すことになります。デジタルツールがうまく使われていない状況も、おそらくその辺に問題があるのでしょう。
そこで本連載では「使い方」や「考え方」にもフォーカスしていきます。
目指すところ
本連載の目指すところをキャッチーに表現すれば、
- 古式ゆかしい知的生産の技術と最先端のデジタルツールの融合
となります。
そんなことが可能なのかという疑問も当然出てくるでしょうが、「デジタルツールをアナログ的に使うこと」が可能ならば、「アナログツールをデジタル的に使うこと」もまた可能なはずです。言い換えれば、「的」であることはその根源を越境して他に敷延できることを意味するのです。
そしてまさに梅棹忠夫が『知的生産の技術』で提示したカード法は「デジタル的なアナログツールの使い方」の好例だと言えるでしょう。
現代の私たちは、単にデジタルツールとして「情報カード」を運用するのではなく、そのカード法を支える考え方を用いて、デジタルツールを使っていくことができます。デジタルツールをデジタル的に使っていくのです。
先達を「すごい人だ」と礼賛して終わるのではなく、その人たちが目指したことを現代という舞台で再演していくこと。それが本連載が目指すところです。
十年を経て分かったこと
冒頭で「すでにデジタルノートツールはさまざまに普及している」と書きました。実際私も、Evernoteというデジタルノートツールを十年以上も使い続けています。
そして、使い始めたときにはわからなかったこと(主に困難に関すること)が多く分かるようになりました。これからデジタルノートを使い始める人たちは、同じ困難を同じ形で経験しないで済むような情報を提供したいという願いもあります。
その意味で、単に理念や理屈を唱えるだけでなく、長い経験を経て分かってきたことも合わせて議論を進めていきます。なにせ、デジタルツールで長年ノートを取り続けてきた人間として言いたいこともわんさかあるのです。それも含めて、連載を書いてきます。
というわけで、全体がどのくらいの長さになるかはわかりません。少なくとも短期連載で済むことはないでしょう。半年、もしかしたら一年くらいはこの連載が続くかもしれません。なんにせよ、これからのデジタルノート運用に役立つ知見を集めていきたいと考えています。
実際の連載は次回からスタートしますが、もし何かご意見・ご感想あれば「#デジタルノートテイキング」のハッシュタグを利用してください。
では、では。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。