近頃はドラッカーがプチブームになっています。書店で特設コーナーを見かけることも珍しくなくなってきました。こういう状況になると「タイトルにドラッカー付ければ売れるだろ」的な本が散見されるのですが、一瞬この本もそんな「とりあえず」的な本かと思いました。
「最強の勉強法」とはいささか大げさな名前ですが、この本が「ドラッカー流」であることは保証します。看板に偽りなし、です。
本書は「勉強法」となっていますが、これは試験に合格するためのような勉強法ではありません。むしろそれは、一人の社会人がどのように知識を学び、そして外に向けて出していくかという、「知的生産の技術」であると言えるでしょう。
数々の著作を残してきたドラッカーの「知的生産の技術」に興味がある人は多いと思います。そのエッセンスを新書一冊にまとめたという非常にお買い得な一冊になっています。
学び、続ける
ドラッカーがその出現を予見した「知識社会」は徐々に現実のものになろうとしています。土地や設備を持たなくても、PCとネットを使うことで収入を得ている人が存在するのがその兆しと言えるでしょう。ある意味ではノマドと呼ばれる人もそういった知識社会に適応している人々と言えるかもしれません。
そういった社会では何が重要でしょうか。知識の獲得が第一であることは間違いありません。しかし、知識を一度仕入れればそれで万全でしょうか。
しかし、それだけでは不十分だ。手にした知識の陳腐化を抑制し、常に最新の状態にメンテナンスしておかなければならない。また、それにも増して重要になるのが、時代の変化により新たな知識が現われ、個々人が持つ知識の内容に変更が迫られるという点だ。
「知識社会」の中で生き抜いていくためには、勉強するだけではなく、勉強し続けていく姿勢__「継続学習」__が必要になってきます。
ドラッカー自身もこの「継続学習」を実践していました。彼が取った方法は「3ヶ月テーマと3カ年テーマ」という二つのテーマを設定するというものです。
まず、毎年新しいテーマを設定して3ヶ月間集中的に勉強する。これが3ヶ月テーマの勉強だ。同時に3ヶ年をスパンとするプロジェクトを掲げ、3ヶ月テーマの勉強と平行して勉強する。これが3カ年テーマの勉強である。
今必要としている知識に関しては、3ヶ月程度のスパンで集中的に勉強する。それと同時に自分自身の関心につながるような大きなテーマについてもじっくりと勉強していく。こういった勉強法を行うことで、知識をメンテナンスしつつも、知識そのものに深みを与えていくことができるでしょう。
覚えるだけでは、意味がない
勉強を進めるためのステップとしては次の4つがあげられています。
- 勉強テーマを決める
- 勉強計画を立てる
- インプットする
- アウトプットする
知識労働者として意識すべきは4の「アウトプットする」ということでしょう。資格試験はテストという形でアウトプットの枠組みが先に設定されています。しかし、知識労働者としての学びは、誰かが試験してくれるものではありません。自らが具体的成果を作り出す必要があります。
よって、勉強テーマに関する情報を徹底的にインプットしたら、今度は情熱をアウトプットに傾けなければならない。ドラッカー流勉強法では、このアウトプットなくして、成果はないものと断じて理解したい。
学んだ知識をプレゼン資料にまとめてみてもよいでしょう。ブログに書いてもよいかもしれません。今なら電子書籍というアウトプットの形もあります。どのような形にせよ、一度それをまとめてみることによって、自らの理解の程度を知ることができます。また他人に説明する中で自分の理解が進むこともあるでしょう。
こういったアウトプットを作り出すことで、そのテーマの勉強は一段落します。それは次のテーマの設定の始まりでもあります。この繰り返しが、「知識労働者」として生き残るために必要な「勉強」と言えるのでしょう。
まとめ
本書のトピックをまとめれば以下のような感じです。
- 「3ヶ月と3カ年」勉強法
- 勉強テーマの決め方
- フィードバック分析
- 時間と目標のマネジメント
- 書きながら考える文章
「勉強テーマの決め方」や「時間と目標のマネジメント」はいかにもドラッカー的です。もし著書を全て読み、「ドラッカー視点」を手に入れている方には本書はほとんど当たり前のことが書かれているだけかもしれません。しかし、ドラッカーの著作に触れてその「知的生産の技術」に興味を持った人にとっては有用な一冊だと思います。また、ドラッカーの人となりにも触れられているので、別の意味で「ドラッカー入門」と位置づけることもできるかもしれません
▼合わせて読みたい:
今回紹介した本を読んでドラッカーに興味を持たれたならば、次の一冊をお薦めします。あっさりと読める本ではありませんが、これからの社会で個人がどうあるべきかについて強い示唆を与えてくれる本です。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。