発想の原則にせまる『AI時代の「超」発想法』

カテゴリー: R25世代の知的生産



もし、野口悠紀雄さんの『「超」発想法』をお読みでないのなら、今年からはこちらの一冊を読まれるとよいでしょう。


本書は、2000年に出版された『「超」発想法』をベースに、加筆・修正された一冊です。『「超」発想法』と同様に、具体的な発想手法にフォーカスするのではなく、発想の原理原則を解き明かそうとしています。

また、『「超」発想法』が書かれた時代で懸念事項とされていたこともアップデートされています。

構成

目次は以下の通り。

序章 アイディアの価値が高まっている
第1章 発想はどのように行なわれるか
第2章 どうすればアイディアを生み出せるか
第3章 発想のために考え続ける
第4章 発想のための対話と討論
第5章 AI時代の「超」発想法
第6章 発想の敵たち
第7章 間違った発想法
第8章 「超」発想法の基本5法則

さまざまな話が出てきますが、全体を通して確認されているのは、「小手先の技術に頼っていてはダメだ」という点でしょう。

何か素晴らしい「発想法」というものがあり、それさえ用いれば、何の準備もしていない人間のもとに驚異的なアイデアが舞い降りてくる、ということは基本的にはありません。梅棹忠夫は、知的生産を「頭をはたらかせて、なにかあたらしいことがら──情報──を、ひとにわかるかたちで提出すること」だと定義しましたが、まさにその「頭をはたらかせる」ことなしにアイデアは訪れないわけです。

この点を理解しておけば、巷にひろがるさまざまな「発想法」との付き合い方も変わってくるでしょう。それらはあくまで補助のようなものであり、メインはやはり自分の頭です。それをいかに動かすのか。そう考えれば、発想法ともうまく付き合っていけます。

本書でも、既存の発想法を「マニュアル的発想法」と呼び、異論が唱えられていますが、あくまでそれは「この方法さえやればどんどんアイデアが出てくる」という幻想を打ち砕くためのものであって、付き合い方さえ間違えなければうまく活用できる可能性があることも同時に示唆されています。

第二に、これらの方法が「どんな場合にも全く役に立たない」というわけではありません。例えば、直観力に頼るというポアンカレ的な方法では、ある可能性を見落としてしまう危険がありえます。そこで、例えばマトリックスを書いて分類を行ない、隙間を埋めることは有用です。

つまり、既存の発想法の手法自体が誤りというよりも、「その通りにやりさえすればいい」というマニュアル的姿勢こそが問題だというわけです。ケースバイケースで使い分けていけば、既存の発想も活躍が見込めるでしょう。そのことは、読書猿さんの『アイデア大全』や『問題解決大全』が示してくれています。



発想の基本5原則

本書の第8章 では、全体のまとめとして「超」発想法の基本5法則が紹介されています。以下の五項目です。

第1法則 模倣なくして創造なし
第2法則 アイディアの組み換えは、頭の中で行われる 
第3法則 データを頭に詰め込む作業(勉強)がまず必要
第4法則 環境が発想を左右する
第5法則 強いモチベーションが必要

第1法則〜第3法則は、発想の基本とも言える要素です。たとえば、発想法の古典とも言える『アイデアのつくり方』ではこれらの要素が考察されています。まず、外せない要素と言っていいでしょう。



一方で、案外重要なのが第4法則の「環境が発想を左右する」です。極端なことを言えば、ガチガチの前例主義でそこから少しでも外れたことは認めないという組織にいるのと、ちょっとの失敗は全然OKでガンガン新しいことをやっていこうという組織にいるのとでは、頭の働き方は必然的に変わってくるでしょう。

それは単にルールが違うからという点もありますが、それ以上の周りの人とのやりとりが変わってくるからです。「いや、それはダメだろう」と何度も何度も言われたら、人はそれを学習してしまいます。逆に「いいね、それもっと広げてみよう」と言われ続けたら、それを言われる前に自分からアイデアを広げるようになります。

そう考えると、どんな環境に身を置いているのかはかなり重要なポイントです。そして、それが重要なのは、現代ではその環境を自分で選べるだけでなく、必要とあれば作ってしまえる点です。インターネットを使えば、さまざまな人とつながりを持ち、場を形成することができます。

自分の所属する企業がガチガチの場所であっても、それとは別の、自由でのびのびした場所を、自分の環境にすることができるのです。これは頭をうまく使いたいと願う人には、今後大きな課題となっていくでしょう。

さいごに

さて、最初に触れた「懸念事項」とはなんでしょうか。それは音声メモです。

2000年頃までは本当に音声入力でのメモはダメダメでまったく使いものにならなかったのですが、ここ1、2年で急速にその精度があがり、十分実用に耐えうるレベルになっています。その点は、同じ著者の『「超」AI整理法』で集中的に論じられていますので、気になる方はそちらをご覧ください。



とにかく、メモ魔にとっては、スマートフォンに話しかけるだけでメモが取れる環境は素晴らしいという言葉以外には思いつきません。あとはそれを素材にして、考えることを続け、次々とアイデアを生み出していくだけです。

▼編集後記:




ようやく少しずつ元気さと取り戻してきました。ここからジワジワといきたいと思います。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中

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