こうした振り返りは、写真アルバムを見返すような、一種のライフログ的楽しさもありますが、それだけではありません。いろいろな「効能」があります。
本の中身を思い出す
人間の脳の機能から言って、一度本を読んでも、その内容が一字一句残らずインストールされることはありません。だいたいは、概要を覚えているだけですし、その概要すらも、本を読み終えてから時間が経つと、記憶の糸がたぐれなくなってきます。
そもそも、そうした本を読んだという事実すら忘れてしまうことがよくあります。挙げ句の果てに、そうした忘却全体を普段は意識しません。識するのは、上記のように振り返っているときです。
自分の履歴を振り返っていると、「ああ、自分はこんな本を読んできたな」ということが意識されると共に、その内容があまりうまく思い出せないことも意識されます。
それが意識されて、しかも「もったいなく」感じられるなら(≒それくらい面白かった本ならば)、もう一度手にとってパラパラ読み返してみるとよいでしょう。
買った/読んだ本すべてを再読するのは(時間的に)不可能に近いですが、振り返った中で、「これは!」とピンと来るものだけに絞れば、ある程度は現実的になります。
タスクを思い出す
また、買った本/読んだ本のリストを見返すと、いくつかのタスクも思い出されます。
- 読書メモを作ろうと思っていた
- 書評記事を書こうと思っていた
- 読了しようと思っていた
こうしたものも、すべてに対処する必要はありません。振り返った時点でなお、「読書メモを作ろう」とか「ぜひこの本は紹介しておきたい」と思えるものがあるならば、それを新規タスクとして登録すればよいでしょう。
読了したい本があるならば、机の上の目立つ場所に置いておいたり、電子書籍なら一度だけページを開き、ライブラリのトップにくるようにしたり、あるいは特別なコレクションを作ってそこに移動しておく手もあります。
ともかく何かのアクションを起こして、次回以降の読書生活に影響を与えることができます。
つまり、一年間の読書の振り返りは、「読書レビュー」でもあります。
関心を思い出す
もう一つ、自分の読書履歴を振り返っていると、そのときどきの「関心事」が浮かび上がってきます。
それは明瞭な言葉で表現できる場合(ex.経済学)もありますし、そうではない場合(ex.制度について)もあります。どちらにせよ、それが感覚的にわかれば、そこを掘り下げていくこともできます。
上の図のように、一冊の本は、他の複数の本と関係性を持つのですが、それらのつながりを一度に押さえきるのは困難です。言い換えれば、一冊の本に関係する本は多数あり、そのつながりを辿っていくうちに、十分に掘り下げられないまま放置されるつながりが残ります。
あらためて一年間の読書リストを眺めることで、「そういえば、この分野の本をもう少し読んでみよう思っていたのだ」とか「この著者の別の本も読んでみよう」といった、関心が湧いてくることがあります。もちろん、それをそのまま実行する必要はありませんが、少なくとも次の本選びの選択肢に加えてみるのは悪いことではないでしょう。
さいごに
次々とを新しい本を手に取ることだけが読書ではありません。
一度立ち止まり、振り返ってみることで発見できる価値もありますし、放置されたタスクを見つけることも、掘り下げるべき新しい領域を発見することもあります。
とは言え、すべての読書を同一プラットフォームの電子書籍で行っていない限り、こうした記録は自動的には手に入らないものです。それこそ「ブクログ」のようなサービスを使うか、自分でこまめに記録をつけていくしかありません。
そうした記録は、普段の読書にはほとんど役立ちませんが、こうしたレビューには大きく活躍してくれます。もし、今まで残していない方は、ぜひ来年から残してみてください。来年の年末に、楽しめるように。
▼今週の一冊:
いや〜、無茶苦茶面白いです。デジタル一辺倒になりつつある現代で、時代遅れで、不便で、手間ばかりかかるアナログがなぜ再注目されているのか。それを、単なる懐古主義の話に終わらせずに、経済圏が成立しうるという一つのビジョンと合わせて語られています。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。