前回は、「ともかくメモする生活」について紹介しました。そうした生活を続けていくと、当然のように大量のメモが発生します。では、そのメモはどのように管理すればよいのでしょうか。
ここではシンプルな原則が活きます。
「いろいろ面倒なことはあるでしょうが、できるだけメモは一カ所に集めましょう」
つまり、「できメモ」です。
難しい原則
「情報は一カ所に集める」
知的生産に少しでも興味があったり、ノート術に詳しい人であれば、耳にたこができるくらい馴染みの原則でしょう。この原則の重要性及び効能については改めて論じるまでもありません。たいへん強力で、合理的な原則です。
しかし、一方で実現するのが難しい原則でもあります。メモ的行為は日常のあちらこちらで発生しますし、しかも突発的です。だからこそ、「ともメモ」生活では、さまざまなツールを使ってでもそれをキャッチせよと書きました。こうなると、分散化の流れは必定です。
「よし、あのツールを使えるようになるまで、このことを記憶しておくぞ」ということができるなら、保管ツールの一元化は容易ですが、それができないからこその「ともメモ」でした。よって、保存するツールは分散する傾向を持つ、と考えておくのが有効でしょう。すべてのことを捉えようとすればするほど、ツールは増えていくのです。
ツールの分離
先ほど、微妙に表現を変えた言葉遣いをしました。「保存ツール」と「保管ツール」です。これを分けて考えるのが出発点となるでしょう。
「保存ツール」とは、メモを作成するためのツールです。メモの性質上それ自身が保管的役割を持ちますが、必ずそのように使わなければならないというものではありません。
対する「保管ツール」は、作成されたメモを長期的に置いておくためのツールです。具体的にイメージしやすいのはEvernoteやOneNoteなどのノートツールでしょうか。どこかにメモを書き留めて、それを後でEvernoteに送っておく。何か写真を撮って、それを後でOneNoteに貼り付ける。このようなイメージが、「保存ツール」と「保管ツール」の分離です。
シンプルなコンセプトとしては、「保存ツール」は複数持ち、そこで作成されたメモを長期的に置いておくための「保管ツール」を一つだけ設定する。これで「情報は一カ所に集める」の原則を守ることができます。
メモの記録的性質
ここでメモツールの記録的性質について考えておきましょう。イメージしやすいようにアナログツールを例に用います。
まず、ロディアのような切り取り型のメモ帳。これは「断片性記録」と言えます。一つのメモを作ったら切り取って、新しいページへ。それぞれのメモは連続性を持たず、断片的に浮動しています。
続いて、大学ノートのような綴じ型のメモ帳。これは「連続性記録」と言えます。それぞれのメモはページという単位で(あるいは何かしらの区切りで)独立はしていますが、一つ前・一つ後ろのメモと連続性を持ちます。
さらに、「保管ツール」についても考察しましょう。
ロディア型で切り取ったメモを、たとえば大きなビンの中に入れておきます。この場合、それぞれのメモは固定的な場所を持ちません。気体を構成する分子のように自由に動き回ることができます。よってこれを「気体型」と呼びましょう。
では、そのメモを、綴じノートに貼り付ければどうなるでしょうか。順番がしっかりと固定され、もはや動くことは叶いません。よってこれを「固体的」と呼びましょう。
当然のように、その中間も想定できます。ルーズリーフ・バインダーのようなものがそれに当たるでしょう。一応の順番は設定できるが、それは仮固定のようなもので、いくらでも変更ができるもの。これを「液体型」と呼びましょう。
労苦最小パターン
上記を踏まえて、メモの保存と保管について考えを進めます。
保存ツールと保管ツールを分けた場合、そこには必ず「後から情報を移動させる」という一手間が発生します。これを完全に無くすことはできません。
よって、その手間を最小化したいわけですが、その場合は、第一に、できるだけのメモを「保管ツール」で作成し、どうしても無理なものに関しては別のツールを使う、という形にすることです。そうすれば、移動の回数を最小化できます。
※この点から、どんなツールを「保管ツール」に指定するのが重要であることがおわかりになるでしょう。手間の数が大きく変わります。
第二に、保存ツールを「断片性」にし、保管ツールを「気体型」にすることです。簡単に言えば、ロディアで切り取って、大きなビンに放り込んでおくことです。これが一番労苦が少なくなります。
もし、保存ツールが連続性であれば、それは「切り取られていない」ので、切り取るための特別な労苦を必要とします。
また、保管ツールが「固体型」であれば、「一番新しい場所を見つけ、そこに貼り付ける」作業が必要となりますし、「液体型」では、「適切な場所に移動させる。あるいは全体を再構成する」という作業が必要になります。どちらも「気体型」に比べれば労苦は多くなります。
※労苦順に並べると、「気体型」<「固体型」<「液体型」となります。
つまり、断片性で切り取り、それを気体型に放り込むだけ、というのがもっとも労苦少なく実行できる、ということです。
さいごに
上記の考え方により、どうしても避けては通れない労苦を最小化できます。
「いろいろ面倒なことはあるでしょうが、できるだけメモは一カ所に集めましょう」
という、「できメモ」の指針を守るためには大切な考え方です。
しかしこのことは、書き留めたメモを後から利用することも合わせて考える必要があります。もしかしたらそこでは、上記の話とは少し違った結論が出てくるかもしれません。
それは次回検討してみましょう。
▼今週の一冊:
共著者がノーベル経済学賞を受賞されたので、ついでにご紹介。
「行動経済学」の話なのですが、「人間ってこんなに不合理なんだ」と騒ぎ立てるわけではなく、人々がより良き生活を送るためにどのような施策を用いればよいのかが検討、提言されているタイトル通り「実践」的な本です。ライフハックに興味がある人なら、きっと楽しめる内容です。
Follow @rashita2
『The Last Blogger』を出版できたので、「月くら」計画も残すところあと一冊となりました。その本は2017年12月に発売予定です。いまからじわじわと準備を進めています。かなり大がかりな本になりそうですので、ご期待ください。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由