要素を入れ替えること | Aliice pentagram

カテゴリー: R25世代の知的生産

» 前回:関連づけを行うこと | Aliice pentagram



前回は、知的作用の第三要素である「関連づけを行うこと」について考えてみました。今回は、第四要素である「要素を入れ替えること」について書いてみます。

第三のアプローチ

「関連づけを行うこと」は、「小さい塊」(Fragment)をまとめたり、大きくしていくことでした。素材的情報を、大きな構造の部品として扱う、ということです。

素材的情報の扱い方は他にもあります。それがこの「要素を入れ替えること」です。

「AはBである」という素材的情報と、「CはDである」という素材的情報があったとしましょう。そこで仮にEという大きな構造を想定し、その構造に「AはBである」と「CはDである」を位置づけるのが「関連づけを行うこと」です。対して、「要素を入れ替えること」は、以下のような操作を行います。

「AはDである」
「CはBである」

出てくるものは、ナンセンスなものかもしれませんし、とびっきりユニークなアイデアかもしれません。その成果は事前には判断できませんが、ともかく要素を入れ替えることで、新しい何かを生み出すのがこの知的作用です。

「疑問を持つこと」や「観察すること」は、分析的なアプローチと言え、「関連づけを行うこと」は、統合的アプローチと言えますが、そのどちらでもないアプローチがこの「要素を入れ替えること」です。

発想法を支える知的作用

この「要素を入れ替えること」は、ごく簡単に言えば〈発想法〉を意味します。あるいは、巷で言われる〈発想法〉が行っていることは、この「要素を入れ替えること」を機械的に実施したり、あるいは何かを触媒として強制的に惹起することだと言ってもよいでしょう。

ジェームス・W・ヤングの『アイデアのつくり方』では、このことを明確な一文で表現しています。

アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない

アイデアが既存の要素の新しい組み合わせである以上、アイデアを生み出すための方法──発想法は──、いかに既存の要素の新しい組み合わせを生み出すかに焦点を合わせることになるでしょう。それはつまり、「要素を入れ替えること」の知的作用をいかに発揮させるのかについて考える、ということです。

よって、既存の発想法を眺めていけば、この知的作用について詳しくわかるであろうことが予想されます。

知的作用の協力

これまで紹介してきた五つの知的作用の中で、一番目立つのがこの「要素を入れ替えること」でしょう。

論理の道立てでは生み出せないアイデアを生み出すのがこの知的作用ですし、そのため表舞台に立って紹介されることも多くなります。

しかし、要素を入れ替えるためには、まず要素を認識しなければいけません。そのため、分析的アプローチは欠かせないものです。むしろ、分析的アプローチに長けていればいるほど、入れ替えられる要素の数が増え、組み合わせ数は飛躍的に増えていきます。簡単に言えば、ものを識っていることは、発想に役立つのです。

また、要素を入れ替えて新しい着想を得たとしても、それだけで肉付きの良い完成品には至りません。結局はどこかでそれらをまとめ上げる必要が出てきます。そこでは統合的アプローチが活躍してくれるでしょう。

その意味で、「要素を入れ替えること」はたしかに発想の最前線に立っているのかもしれませんが、それを支える後方の分析や、あるいは事後処理やしんがりにあたる統合があってこそうまく機能する、という点は忘れないでおきたいものです。むしろ、「要素を入れ替える」だけに長けていても、実のある何かを生み出すこはできないかもしれません。

さいごに

この「要素を入れ替えること」には、多様な行為が含まれます。

一般的な発想法もそうですし、ジョークや言葉遊びもここに含まれます。比喩も思考実験も、よく言われる水平思考も同様です。

それぞれを探求していけば、それだけで一つのコンテンツとなりうるので、「知的作用」の項目としては軽く触れるに留めておくことにしましょう。機会があれば、また改めて触れてみることにします。

「知的作用」の基本的な五要素については以上です。次回からは知的生産の五芒星の四つ目にあたる「概念構築」に入ります。

▼参考文献:

この項目について一冊挙げるとすれば、やはり本文でも紹介したこの本となるでしょう。発想の原理を解き明かした本もありますが、実は知識がどのように機能するのか、という点で読んでも興味深い本です。

» アイデアのつくり方


▼今週の一冊:

あまりに面白いので、改めて記事一つ使って紹介したいところですが、とりあえずはこのコーナーで。

勉強とは何か、という問題を自己の変身という観点から考察する本なのですが、そんな説明ではまったく足りません。言語について本であり、教養についての本でもあります。

» 勉強の哲学 来たるべきバカのために (文春e-book)[Kindle版]


▼編集後記:




家庭内がちょっとドタバタしておりまして、あまり作業時間が取れない一週間でした。重要度の低いタスクをすべてバージし、必要最低限の作業だけを行うことでなんとか乗り切れましたが、逆に言うと日常的に結構「贅肉」のある時間の使い方をしているのかもしれません。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


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