情報のミニストレッチ | Aliice pentagram

カテゴリー: R25世代の知的生産

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これまで、情報を「自分の身に取り込むもの」「自分を構成する材料となるもの」と位置づけて、そのインプットを「情報摂取」と表現してきました。これは、我々が毎日行う食事__「栄養摂取」のアナロジーでもあります。

となると、「栄養摂取」に対する「身体運動」を、「情報摂取」の側にも位置づけたくなります。簡単に言えば、頭を使う、ということですが、情報を摂取しているときにでも何かしら頭は使っているので__食事をしているときにもエネルギーを使うのと同じです__意図的にそうした活動を行っていることを明示する意味で、「思考運動」という言葉をここでは使ってみましょう。

その「思考運動」を行うことは、過剰な「情報摂取」へのカウンターとなりえます。

運動が減る

思考運動を行うためには、思考運動を行う時間を作らなければなりません。当たり前の話です。

その際、他のどんな時間が減るかと言えば、情報摂取に使われる時間です。必ずそうなる、というわけではありませんが、もし当事者が情報の過剰摂取を行っているならば、削減対象として情報摂取の時間が検討される可能性は少なからずあります。

また、思考運動を行うことは、情報摂取のペースを弱めることにつながります。なぜそうなるのかは以降で紹介しますが、再びアナロジーの助けを借りて簡単に書いておくと、「ゆっくりと、しっかり噛んで、食事をすれば、摂取カロリーが減る」をイメージもらえばよいでしょう。

ともかく、過剰な情報摂取に対抗するには、思考運動を行う時間や機会を作るのが最適です。しかし、はじめから大がかりにやろうとすると挫折するのが人間の常。そこで今回は、ちょっとしたワーク__ミニストレッチを紹介しておきましょう。

感想を書く

たとえば、何かのWeb記事を読んだとします(本でも映画でも構いません)。で、読み終えた後に、その感想を書きます。最適なのはTwitterでしょう。なにせ140字しか書けないので、「大がかり」なことには着手できません。気軽に取りかかれます。

とは言え、借りてきたような文言(テンプレ)や空虚な言葉を使って「簡単に」書くのでは意味がありません。その記事を読んで感じたこと、思ったこと、ひっかかったこと、気になったことをできるだけシンプルな言葉で書き表します。やってみるとわかりますが、これは短いながらも結構ハードな思考ワークです。短く書くのは、簡単であり難しくもあるのです。

もちろん、何でもかんでも感想を書けば良い、というものではありません。何の感慨も__もっと言えば知的刺激も__得られなかったのに、感想をひねり出すのはこのワークの本義ではありません。あくまで、自分の心に何か感じたものがあるならば、それを言葉にしてみよう、ということです。

また、さんざん考えたあげく、結局うまくまとまらなくてツイートできなかった、というのでも実はOKなのです。大切なのは、「さんざん考えた」方であって、ツイートという成果物はあくまでそのおまけです。だから、ツイートできるできないに関わらず、足を止めて考えてみることを優先してください。

また、ツイートに慣れてきたら、それをブログ記事でやってみても良いでしょうし、他の人に見せたくないならノートや手帳に書いてみても良いでしょう。ツールそのものに優劣はありません。その中で、どれだけ頭を動かすのかがポイントになります。

ただし、「短く書く」「他の人に共有する」というのは、モチベーションを刺激してくれる側面があるので、Twitter(や他のSNS)は効果的なツールではあるでしょう。「時間ができたら、後で考えてみよう」というもくろみはたいてい実現しませんので、それならば他の記事を3つか4つ読めなくなっても、そのときに考えてみるほうがはるかに有用です。

フリーライティング

感想を書くことは、ようするに「摂取の後にちょっとでも運動しましょう」ということです。昼食後に散歩する、というのと雰囲気は似ているかもしれません。

それとはまったく別に、フリーなアウトプット時間を設けるのも効果的です。頭を動かすための時間を作るわけです。

とは言え、これも大がかりにやろうとするとまず失敗します。ぜんぜん運動していない人が「明日15km走る!」と目標設定しても、結局実行されないのと同じです。

だからフリーライティングから始めてみるのがよいでしょう。5分でも10分でも構いません。朝の時間、昼食後のカフェ、なんとか座れた電車の中。場所だってどこでもいいです。ともかく、手帳かノートを広げて、思いつくことをそこに書き出すのです。普段ならインプットに使っているかもしれない時間を、アウトプットに当てるのです。

「何を書けばいいのか?」

何を書いても構いません__というのが、実は一番難しいかもしれないので、その日見聞きした情報についてがよいでしょうか。気になっているのを書き出すことも効果的です。

些細なこと、大げさなこと、妄想、欲望、なんでもOKです。「気づき」なんてなくても結構です。ただただ、頭の中にあるものを紙の上に(あるいはエディタの前に)並べ、それを自分で眺めてみてください。それが__おそらくは__咀嚼ということの一つの形態です。

さいごに

どのようなことを、どのように始めるにせよ、まずは「ミニ」なところから始めてみるのがよいでしょう。

たった一つの記事に、「自分の言葉で」感想を書くことすら、結構頭を使います。それは、ある種の「筋肉」(これもアナロジーです)を鍛えてくれます。情報の咀嚼率を上げ、発想の可能性を生み出す力です。そのような力は、徐々に鍛えていくしかありません。

そしてそれが、過剰な情報摂取への対抗としても機能してくれます。

▼今週の一冊:

すごい。このひと言につきます。見事なまでに圧倒的なパースで、システィーナ礼拝堂天井画を眺めているような気分になります(眺めたことはありませんが)。でもって、抜群に読みやすい(面白い)のですから、これはもう太鼓判を押すしかないでしょう。

» サピエンス全史(上) 文明の構造と人類の幸福 サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福[Kindle版]


» サピエンス全史(下) 文明の構造と人類の幸福 サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福[Kindle版]


» サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福[Kindle版]


▼編集後記:




全力疾走してきた「かーそる」が無事発売になったことで、若干ぼけーっと気が抜けたような状態になっています。ある種の充電期間です。でも、ぼちぼち月くらの方も進めておりますので、今月中には発売できる__かもしれません。

» かーそる 2016年11月号[Kindle版]



▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


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