「知的生産の技術」の要素還元

カテゴリー: R25世代の知的生産

By: MikeCC BY 2.0


「知的生産」とは、

頭をはたらかせて、なにかあたらしいことがら──情報──を、ひとにわかるかたちで提出すること

なわけですが(『知的生産の技術』より)、それを支える技術にはどのようなものがあるでしょうか。

今回はそれを要素に分解してみます。

知的生産の技術に含まれるもの

まず、「知的生産」と聞いて、まっさきに思いつくのが本を書いたり、論文を書いたりすることでしょう。もちろん、それらにもいくつかの技術があります。適切な文法を用いて文章を紡ぐ技術、うまく説明する技術、整った構成を生み出す技術、といったものです。

しかし、その前段階として、「どのような本を書くのか」といったコンセプトに関わる作業も必要となります。そこでもまた、いくつかの技術が活躍します。発想法を代表とするような、思考を扱う技術です。

では、この二つの技術があれば十分かというと、もちろんそんなわけにはいきません。思考を働かせるためには、他者が提供する情報という燃料が必要です。わかりやすく言えば、インプットです。

インプットに関する技術でいえば、たとえばどんな本をどのように読むのか、ニュース記事はどう読み解けばいいのか、インタビューするときのコツは、といった技術があり、また、読書メモをどのように取るのか、記事のスクラップはどう扱えばいいのか、といった技術もあります。

このように、インプットからアウトプットまでの各工程において、それぞれの技術があるわけです。そして、「知的生産の技術」とは、その統合を指します。

five elements

上記にあげた各技術を、もう少し整理してみましょう。以下のように5つの要素に還元できそうです。

「情報摂取」……いかに情報を取り入れるのか。

「記録管理」……どのように情報を管理するのか。

「知的作用」……頭の働かせ方。

「概念構築」……最終成果物に向けて一つの概念へとまとめる力。

「表現制御」……どのように表現するのか。

ここで注意点が二つあります。

まず、これらの要素は、各技術に単一に対応するわけではなく、複数以上の対応がありうる、ということです。たとえば、「読書メモの取り方」は、情報摂取でもあり、記録管理でもあります。自分の感想を書き込むなら、知的作用ですらあるでしょう。このように、一対一で対応しているわけではない点には注意してください。

さらに言えば、それぞれの要素は独立しているわけではなく、相互作用を持ちます。たとえば、「情報摂取」は「知的作用」に影響を受けます(本をどのように読むのかは、その人の思考力による)。あるいは、「記録管理」は「概念構築」に影響を受けます(Evernoteのノートブックをどう作るのか)。

その意味で、上記の分け方は、完璧なツリー状に還元できているわけではありません。しかし、全体を見通す程度の粒度にはなっています。

追加の要素

では、上記5つの要素があれば、「知的生産」はスムーズに行えるのかというと、少しだけ頷くことを保留しなければいけません。なぜなら、そこには「姿勢」が求められるからです。

梅棹氏の『知的生産の技術』では、そうした姿勢については明確には言及されていません。本の読み方のところで少し触れられている程度(※)です。
※他の人が言っていないことを言おうという姿勢

あくまで本の内容を「技術」の話に留めようとしたからなのか、それともあまりに自明すぎて書くまでもないと判断されたのかはわかりませんが、何か物事を進める上では、「姿勢」といったものは不可欠な存在です。技術だけでは、前には進めないのです。

そして、この「姿勢」こそが、上記のような技術を通してどのようなものが生み出されるのかを決定づけます。優れた技術を持っていても、「ぼちぼちのアウトプットで良い」と考えている人は、もちろんぼちぼちのアウトプットを生み出すでしょうし、「他の人を騙して、自分の利益にしよう」と考えている人は、まさにその目的のために各種の技術を使うはずです。

その点については、よくよく考えておく必要があります。

さいごに

というわけで、「知的生産の技術」を5つの要素に還元してみました。

そしてここに「+1」として、「姿勢」(Attitude)が加わります。

これらの要素の頭文字を並び替えてみると、

Aliice

となります。アリス、あるいはアリィスと呼ぶことにしましょう。

▼参考文献:

ちゃくちゃくと、自分なりのこの本の「リライト」(と言っていいのかどうかはわかりませんが)、が進んでいます。まあ、頭の中だけですが。

» 知的生産の技術 (岩波新書)[Kindle版]


» 知的生産の技術 (岩波新書)


▼今週の一冊:

世の中には「食わず嫌い」に似た、「読まず嫌い」というのがあって、本書も私はタイトルだけで避けておりました。「読んでない本について語る? そんな態度は誠実じゃない」みたいな、ややイノセントな感情を抱いていたのです。

が、本書はそういう「お手軽ショートカットテクニック」というものではまったくなく、「そもそも、私たちが本を読んだとは(あるいは本を読んでいないとは)どういう状況を意味するのか」という、かなり根源的な問いを探求しています。読んだのと、読んでいないのとなんてほとんど差はない、と著者はラディカルに言い切るのですが、たしかにそうだなと頷けるところがあるのが、本書の面白いところです。

» 読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)


▼編集後記:




電子マガジンの作成は着々と進んでいるのですが、月くらの方が代わりに置き去りになっております……。引き続き、『Evernote豆技50選』がKindleセール中なのでよろしくお願いします。

» Evernote豆技50選 (Espresso Books)[Kindle版]

▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由


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