舘神龍彦さんの『ふせんの技100』を読みました。
冒頭の「ふせん学入門 その1」にこんなことが書かれています。
誰でも気楽に使える文具でありながら、高度な知的生産ツールとしても用いられる、その理由はなにか。
そうなのです。ふせんは、知的生産のためのツールなのです。私も多量の付箋を多種揃えています。
ではなぜ、ふせんは知的生産ツールなのでしょうか。面白い指摘があります。
ふせんはメモ用紙やシール、情報カードなど、ほかの複数の文具の特徴を併せ持っている。
つまり、ハイブリッドツールというわけです。
今回はこの点を掘り下げてみましょう。
蓄積ツールの構造
情報を蓄積していくツールには、ノート的なものとカード的なものがあります。その二つにはさまざまな違いがありますが、一番大きい違いは蓄積の構造でしょう。
メモと情報カードの関係はどうか。情報カードは糊で綴じられている場合もあるが、基本的には一枚で利用するものだ。両方とも冊子状の構造が実現する時系列的な蓄積の構造からは自由な点が共通している(後略)
綴じノートは、情報を時系列に蓄積するのに適したツールです。たとえば、実験ノートや議事録などはそうした蓄積が向いているでしょう。
しかし、情報の種類によってはそうではないものがあります。それを指摘したのが『知的生産の技術』でした。その本の中で、著者の梅棹氏は「ノートからカードへ」を提唱しています。ノートは、情報の位置を固定してしまう。それは、一つの文脈の中に情報を閉じ込めてしまうのと同義である。それがカードとなれば、情報は自由に動き回れる。新しい情報同士のリンクも生まれやすくなる__それがカード化の効用です。
ここでのポイントは、情報を「自由に動かせる」という点にあります。そして、その特徴をさらに強化したのがふせんなのです。
ふせんが持つフラジャイル
ふせんの特徴は、「貼って、はがせる」ことにあります。言い換えれば、情報を固着させ、それを剥離できるということです。さらに言い換えれば、それは情報編集性を持つ、ということです。つまり、ふせんはデジタル的な機能を持ちます。
ノートに比べれば、カードもそうした情報編集性(文脈形成性)を持ちます。しかし、カードにはいくつか問題があります。第一にそれがかさばることです。『知的生産の技術』で提唱されている京大式カードは、なかなかサイズが大きく、また紙の厚みもあります。それは、情報を長期的に保存していくために必要な要素なのですが、その要素が逆に「情報を自由自在に動き回らせる」ことを阻害します。
第二に、カードは「規格を揃えてナンボ」というところがあります。サイズ違いのものを同じボックスに入れて使うことは推奨されません。その規格化こそが情報の使い勝手を上げるのですが、情報編集性という点ではやや劣ることになります。
対してふせんは、小さく、まったくかさばりません。情報を長期的に蓄積していくのには向いていませんが、瞬間的な取り回しやすさは飛び抜けています。さらに、ふせんは、ふせんだけで扱うこともできれば、手帳に貼ることもできます。そうして手帳に貼ったものを、ノートに移動させることもできます。つまり、ふせんによる情報の移動は、「規格」に縛られないのです。
それを可能とするのが、(言うまでもありませんが)接着性が弱いふせんの糊です。接着性が強すぎれば、貼った後の移動はできません。一度きりの編集です。しかし弱すぎれば固着しないわけで、それはそれで使えません。ほどよい弱さがよいのです。
それは、Webにおけるリンクのようなものです。記述をページ内部に埋め込むのではなく、リンクで柔らかくつながる。そして消せる。両者に共通するのは、フラジャイル(フラジール)、ということです。それが、既存の文脈や規格を乗り越えた、新しい情報のつながりを生み出すのです。
紙片という固定化・断片化を促すツールと、弱い接着性の糊というフラジャイルなつながりを生み出すツール。そのハイブリッドがふせんというツールなわけです。
さいごに
さらに、ふせんというツールの面白さをあげておくと、基本的に紙なので自分でカスタマイズしやすい、という特徴もあります。実際例をご覧ください。
こちらは、使っているふせんはすべて同一のサイズですが、記入した言葉に合わせてハサミで切り取っています。
こちらは、複数のふせん(とハサミ)を使って、まるでデジタルふせんツールのような表現を可能にしています。
以上のようなことは、企画の検討や構成の練り込みにおいて抜群の働きを見せてくれます。まさにそのようなときにこそ、「情報を文脈や規格に縛られずに自由自在に動き回らせる」ことが必要なのです。
というわけで、ぜひアイデア出しをする際は、ふせんを(大量に)用意しておきましょう。必ず役に立つはずです。
▼参考文献:
この本には二種類の断片化ツールが登場します。一つが京大式カードで、もう一つがこざねです。どちらも、情報を扱うための技術としてたいへん参考になります。
▼今週の一冊:
文章から思考法を学ぶ。非常に刺激的な内容です。
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えっと、10月ですね。10月ですよね……。おかしいな、気分的にはまだ9月の中頃なんですが……。とは言え、10月の月がわりセールに選ばれておりますので、『Evernote豆技50選』もよろしくお願いいたします。
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▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由