上司のいない人こそ身につけるべき『一流の部下力』

カテゴリー: 人間関係の科学

By: Daniel MorrisonCC BY 2.0


最近、パーソナルトレーナーに週1回の「稽古」をつけてもらうことになったのですが、その初回でトレーナーのKさんの言葉がいたく印象に残りました。

特に日本人に多いのが、お金を出せばあとは何もやらなくても全部やってもらえると思っている人。


つまり、支払うお金を「やってもらう」ための代金ととらえている人が多いというわけです。もちろん、医療や散髪といった専門技能を駆使したサービスのように「やってもらう」ほかない場合もあります。

でも、こと自分自身のスキルアップのための投資(資格試験の勉強やトレーニングなど)に限って言えば、支払うお金は「(人に)やってもらう」代価ではなく、「(自分が)滞りなく効果的にやりきることをサポートしてもらう」代価であると考えます。

そういう意味では、この種のサービスは決して快適だったり心地よかったりしてはいけない、と思っています。もちろん、長く続けるために「お、いいですね~! その調子♪ その調子♪」といった承認や励ましは要るでしょう。でも本質的には、自分にとって耳の痛い、身につまされる、あるいは否定すらされうるものでなければ成果は出せないと思うのです。

「そんなやり方じゃダメですよ!」とか「それで本当にうまくいくと思ってるんですか?」といった言葉──もう少しトゲのない言い方をされていたとしても──をすすんで受け入れ、自分を変えていく。そんな痛みがあるから、その先に成長があるわけです。

読書においても同じことが言えます。読んでいて気持ちのいい本は本質的には役に立たない本であり、むしろ読んでいて「イタタタタ…」と反省を迫られる本こそ、成長のために真っ先に読むべき本である、と。

そんな中で、今回ご紹介する『一流の部下力』は、“痛烈”にスパルタ。文体は穏やかですが、中身はツンと、否、ガツンときます。「できない自分」を直視させられます。

以下、一番ぐっときたエピソード。

たった1通のメールが、その後の人間関係を決めてしまう

EQ(感情知能)という理論を日本に持ち込んだというEIリサーチ社長の渡辺徹氏とメールをやり取りしていた時の話。

当然、渡辺さんもお忙しい方なので、打ち合わせの回数をできるだけ減らしたほうがよいと判断し、「渡辺様もお忙しいでしょうから、月2回いただいているミーティングの候補日を1日だけにして、効率よくしてはいかがかなと思っております」と、メールを送らせていただきました。

そうすると、先方から次のような返信がきたのです。

「上村さんとは何度でも会いたいくらいですが、逆にお忙しい上村さんに少しでもお体を休めていただきたいので、ご提案通り1回にしましょう」

皆さんいかがでしょうか。もしご自分がこのようなメールをいただいたら、どんな気分になるでしょうか。

逆に「はい、打ち合わせ回数を1回にするという件、了承しました」とだけ返ってきたメールと、どれほど印象が変わるでしょうか?(p.110)

効率を考えれば用件だけの「了承しました」というメールが正解でしょう。でも、その先のことを考えると、相手に残すべき印象は、「正しさ」よりも「頼みやすさ」ではないでしょうか。

たった1通のメールが、その後の人間関係を決めてしまいうるわけです。

考えてみるまでもなく、「まぁ、当然ですよね」と思われるかもしれませんが、それをあらかじめ見越したかのように次のようなエピソードが。

先日もあるできるマネージャーの方が、「上司の力を引き出すのがうまい部下っていますね」と話していました。

非常に興味のあるテーマだったので、「それはどういう部下ですか?」と尋ねたところ、その方は「やはり基本的な、当たり前のことが当たり前にできる。これに尽きますね。例えばきちんとした挨拶ができるとか、返事ができるとか、お礼やお詫びが言えるとか、時間を守るとか、そういうことですよ。つまり単純に言って一緒に仕事をしていて『気持ちがいいヤツ』ですよ」と話してくれました。(p.84)

その上で、次のような「当たり前」が列挙されています。

すべてがきちんとできているという人はなかなかいないのではないでしょうか。先の引用箇所の直前にも「『知識としては当たり前のことを、実際にできているかどうか』が大きな差を生み出す」と書かれています。

これから職を得て上司に仕える「部下」はもちろん、そういう部下たちを迎える「上司」にも是非読んで欲しい一冊です。

最後に

さて、ここまでお読みいただいて「でも、自分は上司のいないフリーランス(自営業)だからなぁ…」と思われた方もいるかもしれません。

僕自身も自営ですから、本書を読む前はそう思っていました。でも、読み終えた今、本書の言うところの「上司」とは、仕事で接する自分以外のすべての人のことであり、彼らにいかに「仕事を頼みたい」「一緒に仕事をしたい」と思ってもらえるかが、仕事の成果そのものと同じくらい重要であるということに気づかされました。

このことを最も端的に表しているのが、以下の質問。

「自分はこの人のために何ができるだろうか?」(p.225)

この質問を常に自分につきつけている人は、いつでも必要とされる人であり、いざというときに応援してもらえる人といえるでしょう。

» 会社でチャンスをつかむ人は皆やっている!一流の部下力[Kindle版]


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