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私は横書きのエディターで書いて、縦書きで印刷して、紙の上で赤ペンを持ってやることにしています。エディターの中で書き直しながらの推敲は本当によくないので止めましょう。どんどん消えていきますので、どこを変えたかがわからない。どれくらい良くなったかがわからないです。
テキストエディタで書いたものを紙にプリントアウトし、手直しはその紙の上で行う。アナログを経由させるという一見古風な方法ですが、実体験からいってもこのやり方は効果的です。
また、『数学文章作法 推敲編』には次のようなアドバイスが書かれています。
文章を読み返すときには、必ず筆記用具を持ちましょう。それは、気になったところに印を付けたり、気がついたことをメモとして書き留めたりするためです。
おそらくここで言われていることも、似たようなことでしょう。簡単に言えば、「書く作業と書いたものを手直しする作業を切り分ける」というのが一つのポイントになりそうです。
書くことと手直しすること
たとえば、原稿用紙と万年筆を使って文章を書くとします。その際、とりうる「基本的な」行為と言えば、ひたすらマス目を埋めていくことです。つまり、次から次へと文章を書き足していくのです。
少なくとも、書きながら書き直すことはしないでしょう。なぜなら、イチイチ修正ペンに持ち替えて、ちまちまとマス目を消していかなければならないからです。それが面倒なのだから、昔の作家は行き詰まった原稿をくしゃくしゃにしてゴミ箱にほうり込んだのでした。
つまり、原稿用紙と万年筆というツールセットでは、その簡単に修正ができないという機能不足により、「書く作業」と「手直しする作業」が切り分けられていたのです。
では、デジタル原稿ではどうでしょうか。
もちろん、修正はおどろくほど簡単に行えます。その効果は劇的すぎて、「文章を書く」という行為そのものが変化しました。しかし、その利便性により、作業の境界線もまた見えにくくなってしまったのです。
私は今この文章を、テキストエディタで書いています。そう、テキストライタではないのです。このツールには編集的行為があらかじめ意図されています。よって、書きながら手直しすることが可能なのです。
すると、思考のモードが入り交じることになります。
複数の思考が必要
再び『数学文章作法 推敲編』から引用してみます。
自分の書いた文章を読み返すとき、著者の帽子を捨て、読者の帽子をかぶることが大切です。言い換えると、自分の前の前にある文章は赤の他人が書いたものだと考えるのです。そして、何も知らないまっさらな気持ちになり、一人の読者として文章を読み返しましょう。
(強調原文ママ)
一つの文章を完成させるためには、複数のプロセスが必要であり、それぞれに最適な「思考のモード」というものがあります。
- 自分が考えていることを適切な表現に落とし込むための思考
- それが他者に向けて開かれているかをたしかめる思考
- 表現に十分なインパクトがあるのかをチェックする思考
こうした複数の思考を用い、自分の書いた文章を「他人に読んでもらえる文章」へとブラッシュアップしていくわけです。
ただし、人間の脳は、異なった思考を同時並行で起動させることは苦手なようです。思考Aと思考Bを同時に考えようとすると、アクセルとブレーキを両方踏んでいるような感覚になります。よって、一つの思考を働かせているときは、別の思考はシャットダウンしておくのが効果的です。
モードとツール
ここで問題になってくるのが思考のモードとツールの関係性です。
テキストエディタであれば、書くことも書き直すこともできてしまいます。これでは、思考のモードのどちらを立ち上げたらよいのかが自明ではありません。原稿用紙・万年筆セットに比べると、迷いが発生する可能性があります。
では書いたものをプリントアウトし、そこに赤ペンで修正を加えるようにすればどうでしょうか。
赤ペンを持っているときにできることは、修正だけです。つまりツールセットに自明な役割があります。この場合、「これは書き直す作業であって、手直しする作業ではない」という認知は生まれやすいのではないでしょうか。すると、思考モードの混線の可能性が減ります。
さいごに
これは「手直しは必ずプリントアウトで」という話ではありません。
たとえば、テキストファイルをPDFにして、それをiPadで確認しながらスタイラスで修正箇所をチェックしていく、という方法でも良いでしょう。重要なのは、ツールを__もっと言えばビュースタイルを変更することです。そうすることで、思考のモードの切り替えが起きやすくなり、モードの混線の可能性が減ります。
おそらくこの混線問題は、執筆ツールがデジタル化したことで顕著化した現象だとは思いますが、実際のところはどうかはわかりません。とりあえず、少し長めの文章を書いているときに、どうにも頭がもやもやして前に進まないというのであれば、プリントアウトなりPDFファイル化なりを使って、モードの切り替えを意識してみてはいかがでしょうか。
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