出版企画募集に応募するために、本の企画案を考える4ステップ

カテゴリー: R25世代の知的生産

By: Phil RoederCC BY 2.0


こんなニュースを見ました。

セルフパブリッシングではない、新時代の著者発掘プロジェクトインプレスR&D、出版企画・公開大募集!|株式会社インプレスホールディングスのプレスリリース


怪しげな自費出版でもなく、苦労の多いセルフパブリッシングでもなく、商業出版社さんがきちんと門戸を開いた「デジタルファースト」の出版企画のようです。

電子書籍なので、いくつか特徴もあります。

こうした特徴から、これまで発掘されてこなかった企画や著者が世に出てくることは十分にありえます。なかなか楽しみですね。

ちなみに、テーマは「IT」とのこと。

ITジャンルを募集します。
プログラミング、ビジネスIT、教育IT、ITマーケティング、IT先端技術解説など、
その他、ITに関連していれば何でも可です。

当ブログの読者さんが比較的強いジャンルかもしれません。

つまり、今この記事を読んでいる方も手を挙げるチャンスがある、ということです。

「知的生産」は言葉通り、最終的には生産してナンボです。情報集めばかりしていても「知的生産」とは言えません。

その意味で、何か書いてみる(あるいは書こうとしてみる)のも良いチャレンジになるでしょう。

というわけで、今回は企画案の考え方について紹介してみます。

1.書けることを探す

最初にコンテンツの棚卸しを行いましょう。

トートロジーになりますが「書けないことは、書けません」。どれだけ売れそうな企画案でも、自分が書けなければ応募は不可能です。そこで、まず自分に何が書けるのだろうかを探るために、コンテンツの棚卸しを行うのです。

幸い今回のテーマは、「ITに関連していれば何でも可」と縛りが非常に緩くなっています。そこで、自分が書けそうなことでITと関連しそうなもの全てを思い浮かべてみましょう。

その際役立つのはマインドマップやマンダラートです。技法についてはここでは解説しませんが、「思い浮かべる」が進みにくい場合は、こうした技法を用いましょう。

もっとシンプルに、1枚の付箋に1トピックスを書き付けていく方法でも構いません。ともかく、頭の中にあるものを引きずり出してみることです。

2.テーマを探す

「書けること」があったとしても、それだけで本のコンテンツが出来上がることはありません。「テーマ」あるいは「切り口」といったものが必要です。

たとえば、「ビジネス現場におけるクラウド活用」の知見を持っていたとしましょう。面白そうなコンテンツですが、このままではまだ「ふんわり」しすぎています。もう一歩、踏み込んで固めなければそれがどのような本になるのかは見えてきません。

たとえば、「ビジネス現場におけるクラウド活用10の成功法則」であればどうでしょうか。あるいは「絶対にやってはいけない、ビジネス現場のクラウド運用」ならばどうでしょう。いっそのこと「ラノベでわかる ビジネス現場のクラウド活用」や「RPGに学ぶビジネス・クラウド活用」なんて奇抜なテーマだって、一つの「案」としては立派に成立しています。

こうした切り口はいくらでも考えられます(だからこそ書店に本が山のように並んでいるわけです)。ある意味で、可能性は無限大です。空想のまま、連想のままいくらでも考えていけるのです。

そこで考えたいのが「読者」です。

応募要項の中にも「審査」に関する記述の中に、以下のような文章が出てきます。

審査基準は、原稿があるか、または原稿が執筆可能かどうか(原稿ありを優遇)
市場ニーズがあるかどうか(数百部程度)
公序良俗に反していないか など

「数百部程度の市場ニーズがあるかどうか」は、言い換えれば「数百人程度の読者がいるかどうか」ということです。その読者をイメージし、その読者に届けるにはどのような切り口を用いればよいのかを考えてみましょう。

ビジネスの現場にいるビジネスパーソン向けなのか。その現場の知識に疎い管理職向けなのか。これからITを導入しようとしている学校の先生向けなのか。あるいはそれを見守る保護者向けなのか。

伝えるべき相手、語りかけたい相手。それがきちんと見定まっていれば、「著者はいるけど、読者はおらず」な状況は避けられます。

3.視点を変える

うまく「読者」が見定まっても、切り口についてのアイデアが瞬時に湧いてくるわけではありません。ぐるぐると悩んでしまうこともあるでしょう。そういう場合には、視点を変えてみることです。具体的には、いくつかの問いを自分にぶつけるのです。

このような問いは、他にもたくさんありますが、いくつかを抜粋してみました。

人間は、最初に「これだ!」と思ってしまうと、視点がそこにキープされてしまい、どうしてもそれ以外の方向から考えにくくなってしまいます。

こうした自問を用いれば、その視点を揺さぶることも可能です。企画案が持つ可能性を広げる場合は、こうした自問を活用してください。

4.プロトタイプをつくる

いよいよ企画案のテーマが決まったら、それを肉付けしていきましょう。応募するためには、

の4つが必要です。テーマをしっかり見定めていれば、だいたいの項目はすぐに埋められるでしょう。

もし、うまく埋められないならば、(仮)の「はじめに」を書いてみましょう。1000字でも2000字でもよいので、その本について自分が考えていること期待していることを書き下ろすのです。

もちろん、その「はじめに」は(仮)なので、実際の原稿で採用する必要はありません__そもそも、多くの「はじめに」は原稿が完成した後に書かれます__。それでも、「はじめに」を書いてみることで、見えてくるものは少なくありません。

また、余裕があれば、本のどの部分でもよいので、自分が書こうと思っていることについて一度実際に原稿を書いてみましょう。それを行うことで、その本がどんな本になるのかよりクリアになってきます。

さいごに

企画の立て方は、さまざまバリエーションがあり、今回紹介したのはその一つでしかありません。慣れたやり方があるのならば、もちろんそれを用いればよいでしょう。別の方法にチャレンジする手もあります。

どちらにせよ、「知的生産」に興味があるならば、少し時間を取って企画案を考えてみるのは悪くありません。仮に、上の選考に落ちたとしても、セルフパブリッシングで本が作れる時代なのですから。

▼参考文献:

拙著です。「KDP」とKindleでのセルフ・パブリッシングにテーマを絞ってありますが、企画案の立て方など、他の場合でも参考になるノウハウがいくつも盛り込んであります。

» KDPではじめるセルフ・パブリッシング (目にやさしい大活字)


▼今週の一冊:

たしか大橋さんが、以前にオススメされていたので購入しました。

まだ、読み始めたばかりなのですが、導入からいきなり面白いです。時間管理のノウハウを考える上で、エンジニア(システム管理者)がどういう状況に置かれているのか、どんな環境にいるのかをきっちり見極めるというのは、ようするに場合分け(切り分け)が行われているわけです。これはまさしくエンジニア的発想と言えるでしょう。

読み切ったら、また感想を書いてみます。



▼編集後記:




目下、大幅に立て込んでいる締切が一つあるので、それにかかりっきりです。ここまでアタフタしているのは執筆生活をスタートさせてから初めてかもしれません。まあ、私の記憶が歪んでいる可能性は大なわけですが。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。

» ブログを10年続けて、僕が考えたこと[Kindle版]




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