» 世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方
還元的な分析を用い、世界を細切れにして捉える思考法には限界があります。
そこに含まれているはずのダイナミズムを捉え損なってしまうからです。
ときとして、そのダイナミズムこそが本質であることすらあるのです。
本書で紹介されているシステム思考は、そのダイナミズムを(できるだけ)崩さないように、全体像を包括したままモデル化するための思考法です。
表面的な現象に踊らされることなく、それを生み出す構造にびしっと目を向けたいのならば、システム思考は大きな助けとなってくれるでしょう。
概要
目次は以下の通り。
- はじめに システムを見るレンズ
- 第1部 システムの構造と挙動
- 第1章 基礎
- 第2章 〈システムの動物園〉にちょっと行ってみる
- 第2部 システムと私たち
- 第3章 なぜシステムはとてもよく機能するのか
- 第4章 なぜシステムは私たちをびっくりさせるのか
- 第5章 システムの落とし穴……とチャンス
- 第3部 システムと私たちの根底にある価値観に変化を創り出す
- 第6章 レバレッジポイント
- 第7章 システムの世界に生きる
第一部では、「そもそもシステムとは何か」が解説されます。
システムは「要素」「相互のつながり」「機能」(または目的)の3つで構成されるものですが、ここに「機能」が挙がっているのが印象的です。
たしかに、「機能」のないシステムなどありません。
そして、その機能こそが、配置される要素やそのつながり方を決定するのです。
ただし、その機能(または目的)は、直接目に見えるものではありません。
そのシステムの振る舞いによって推し量るしかないのです。
たとえば、どこかの企業が「私たちはお客様のための企業です」と高らかにその理念を謳いあげていても、実際には顧客を騙し、搾取しているのなら、その企業(というシステム)の目的はお金を集めることとなるでしょう。
これは大切な点です。あらかじめ機能として掲げられているものと、そのシステムの実際の機能が同じであるとは限りません。それを確かめるためには、そのシステムがどのように動いているのかを観察するしかないのです。
そう考えると、短時間での判断は危ういことも見えてきます。システムについての評価は、ある程度の時間の幅が必要です。
続く第二部では、実際にどのようなタイプのシステムがあり、それがどういった挙動を示すのかが解説されます。
システムが安定性をもたらしてくれたり、ときには逆に「暴走」してしまうのも、その挙動のメカニズムが理解できれば納得できるでしょう。
目につきやすいところ、目をつけるべきところ
最後の第三部では、世界をシステムとして捉える視点を踏まえた上で、ではどうすればそこに変化が与えられるのかが考察されています。
本書では12個のシステムに対する「介入点」が紹介されていますが、その一番下にくるのが「数字」(パラメーター)です。
つまり、一番レバレッジが効かないのが「数字」なのです。
しかし、私たちが真っ先に(そして強く)注目してしまうのもパラメーターです。
そこに、厄介な問題が潜んでいます。注目しやすいものが、注目すべきものであるとは限らないのです。
だから、いろいろなところに目を向けなければいけません。要素ではなく、構造を認識しなければいけません。
中央にストックがあり、左側にそこに流れこむインフローがあり、右側にはそこから出ていくアウトフローがあります。
私たちはアウトフローに注目しがちです。「一ヶ月で30Lも出てくる水道なんです!」と。
ときには新しい蛇口に替えることで、「さらに10Lも出せるようになります!!」といった話に展開することすらあります。
が、インフローを無視したままアウトフローを大きくしたらどうなるでしょうか。
ストックがあるうちは水は盛大に流れていきます。
しかし、ストックが底を尽きると……
さいごに
全体像やそこに潜む構造に目を向けないと、「何をやっても効果が無い」となったり「やればやるほど悪くなる」といった現象が起こりえます。
蛇口から水が出なくなっているときに、「もしかして、ひねり方が悪いのかもしれない。誰かに教えてもらおう」と考えるのは滑稽なことでしょう。
しかし、パラメーターや短期的な現象ばかりに目を向けると、それと同じようなことをやってしまいがちなのです。
本書は「考え方」の枠組みを広げてくれる、とても良い本です。
蛇口を見つめすぎているかもしれないと思う方は、ぜひともご一読を。
» 世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
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