正しくは、
知的生産の技術=ライフハック
なのです。
これを掘り下げてみましょう。
言葉の流れ
まずは、言葉の流れに着目します。
1969年に出版された『知的生産の技術』によって、「知的生産」と「知的生産の技術」という言葉が認知されるようになりました。この本では、知的生産という行為がやがて一般的になることが示唆されていますが、著者が学者であったため、どちらかというとアカデミックな技法として受け取られていたかもしれません。
その後に続いたのが「仕事術」です。「仕事術」が含有する成分はたくさんあるわけですが、その中に情報を扱う技術が混ざっていることは確かでしょう。つまり、「知的生産の技術」で紹介されていたものが、そのまま受け継がれたわけです。
そして近年のライフハックです。ライフハックが対象とするものは__なにせライフです__、そうとう広範囲にわたっていますが、もちろんその中に情報を扱うための技術も含まれています。
言葉は変化し、より広がりを持つようになってきてはいますが、「知的生産の技術」のコアになるものは、現代まで話題に上がり続けています。
社会の変化
そうした言葉の変化は、ちょうど社会の情報化の流れと重なる部分があるでしょう。
梅棹忠夫やドラッカーが示したように、社会における産業の比重が、工業から知識産業・情報産業へとシフトする流れがあります。そうした社会では、知識労働者が増えていくでしょう。その知識労働者が必要とするのが、情報を扱う技術、つまり知的生産の技術です。言い換えれば、情報産業時代の「仕事術」には「知的生産」の技術が含まれるのです。
アカデミックな世界で使われていた情報を扱う技術が、ビジネスの世界に広がった。これが第一の変化です。
さらにインターネットの普及し、SNSやブログが当たり前のように使われるようになりました。高度情報化社会に一歩踏み出したわけです。高度に情報化された社会の市民は、なにかしらの形で情報を扱う必要があるでしょう。生きる、という行為のあちらこちらに情報が関わってくるのです。
ビジネスまで広がっていた情報を扱う技術は、高度情報化によって、さらに社会にまで浸透するようになった。これが第二の変化です。
さいごに
この連載で何度も書いていますが、「知的生産」という言葉にある「知的」とは、ハイ・インテリジェンスを意味してはいません。人間の頭が働いていれば、それだけで知的と呼べるのです。だから、知的生産はほとんど誰にでもできます。さらにいえば、現代では誰しもに関係ある行為でもあります。
すでに「ライフハック」という言葉は、なにを意味するのかほとんど見えなくなってしまっていますが、その中に含まれている「知的生産の技術」はこれからの社会ではより強く必要とされることでしょう。
もし、「知的生産の技術」という言葉が、何かしらの先入観を伴ってしまい、近寄りがたい雰囲気を生んでいるのだとしたら、そろそろこの言葉をバージョンアップさせるタイミングなのかもしれません。
▼今週の一冊:
著者から献本いただきました。ありがとうございます。
なんというか、とてもニッチな本です。
Amazonで買い物するとゲットできるあの「箱」を使った整理についての一冊。具体的な整理術というよりは、いかにして整理環境を整えるのか、というお話です。デジアナリストの著者らしく、デジタルなお話も登場します。
著者は「ポメラ×クラウド」というニッチなKDP本も出版されていて、本書も非常にニッチな仕上がりになっております。こういう(紙の本ではまず出版されないような)コンテンツがどんどん出てくるのがセルフパブリッシングの面白いところですね。
Follow @rashita2
『アリスの物語』たくさん感想を頂いております。ありがとうございます。いろいろ難しいな~と思うこともありますが、楽しんで頂けた人がいるのならば、非常に嬉しいです。あと、近々セルフパブリッシングでの本が発売されますので、そちらもよろしくお願いいたします。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。