ダニエル・ピンクさんの新刊、『人を動かす、新たな3原則』を読みました。
その中で、「人を動かすためのスキル」の1つとして、<ピッチ>が提示されています。
本書によれば、ピッチとは
主張をその本質にまで純化するスキル
のこと。
短時間で相手に自分のアイデアを伝える「エレベーター・ピッチ」が有名ですが、本書では現代風の新しいピッチが6つ紹介されています。また、ピッチ力を鍛えるトレーニング法も最後の方に出てきます。
まずは、新しいピッチについて眺めてみましょう。
6つのニューピッチ
紹介されている、6つのピッチは以下の通り。
- 1.一言ピッチ
- 2.質問型ピッチ
- 3.押韻型ピッチ
- 4.メールの件名ピッチ
- 5.ツイッター・ピッチ
- 6.ピクサー・ピッチ
1.一言ピッチ
一言ピッチは、その名の通りワンフレーズのピッチです。エレベーターピッチも短いトークですが、それをより凝縮させたものです。現代人は忙しく、大量の情報に囲まれているので、一言で注意を引きつけてイメージを喚起する必要があります。
※たとえば、「ハイブリッド」と聞くと、誰をイメージするでしょうか。
2.質問型ピッチ
質問型ピッチは、とても有名です。断定ではなく疑問形で投げかけると、聞き手をこちら側に引き込むことができます。
聞き手に少しだけ労力を投じさせることで、質問形式のピッチは、同意する(あるいはしない)”自分自身”の理由を、聞き手が思いつくように促す。
状況に応じて、質問型ピッチを使えるようになるとバリエーションが広がります。
3.押韻型ピッチ
押韻型ピッチはいささか難しい部類に入るでしょう。本書で紹介されているのが英語の押韻なので、日本語ピッチの直接的な参考にはなりません。しかし、韻を踏めば、印象を残しやすいことは確かです。仮にそれができなくても、文章の形式を整えるのは、「読みやすさ」アップだけではなく、説得力の向上にもつながります。
4.メールの件名ピッチ
受信箱に入って、放置されているメールはいくつくらいあるでしょうか。きっとそのメールの件名にはピッチが足りないのでしょう。
効果的なメールの件名の要素として、本書では「有用性」「好奇心」「具体性」の3つのポイントが挙げられています。はて、これはどこかで見たことがありますね。
「具体性」の例として、
- 「ゴルフスイングの改造のために」→「ゴルフスイングを改造できる四つのヒント」
が紹介されています。そうです。ブログのタイトルです。
そういえば、メールの受信箱のリストも、RSSリーダーの未読リストも同じようなものです。
訴えかける件名(タイトル)を付けられれば、読んでもらえる可能性が高まります。
5.ツイッターピッチと 6.ピクサー・ピッチについては、本書に譲りましょう。高評価を得やすいつぶやき、理解されやすいストーリーラインの作り方として参考になるはずです。
三つの質問
さて、以上のようなテクニックを知れば、即座にピッチ力が向上するのでしょうか。明日からピッチマスターとしてやっていけるのでしょうか。むろん、そんな簡単な話であるはずがありません。テクニックは、あくまでテクニックです。
まず、ピッチするものが何なのかをきちんと把握しなければいけません。目的が不明確では、ピッチは形をなしません。当然テクニックも役立たずです。
目的を把握するために、本書では3つの質問が紹介されています。
- “知って”もらいたいことは?
- “感じて”もらいたいことは?
- “行動して”もらいたいことは?
これにきっちり答えられるなら、ピッチの核はすぐに捉えられるでしょう。
ちなみに、この3つの質問は実用書を書くときに意識しても役立ちそうです。
ピッチ・ノート
最後に、ピッチ力のトレーニングについて。本書ではピッチ用のノート作りが提唱されています。
小さなメモ帳かスマートフォンに、巷で見聞きした素晴らしいピッチを書き留める。広告の鋭いキャッチフレーズ、母親が子どもに伝えた要望、新しい業務を求める同僚の声など。
つまり、自分の心や他人の心が動かした「効果」を書き留めておくわけです。
こうしたピッチノートを持ち歩くと、アイデアメモと同じような2つの効果が生まれるでしょう。
一つは、「周囲の情報に、これまでよりも注意を向けるようになる」こと。「気になったもの」をメモするようになると、周りの情報に敏感になります。
もう一つが、「効果的なもの・そうでもないもの」を見分ける力が高まること。有り体にいえば、審美眼が鍛えられるということです。
引用では、「巷」の情報だけが言及されていますが、ツイッター、メールの件名、ブログのタイトルなど、最初に紹介したいくつかのピッチに注目することもできるでしょう。
さいごに
「よく見る人は、よく知る」
これを実現するために、ピッチノートを持ち歩くのは良い習慣です。
すでにアイデアノートを持ち歩いている人は、上記のようなピッチにまでその対象の範囲を広げてみてもよいでしょう。
▼関連エントリー:
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。