タテに伸ばしたい上司とヨコに広がる若者/バブル上司とスマホ新人・第3回

By: U.S. ArmyCC BY 2.0


今回の話題はコミュニケーションツールの変化による若者の意識の変化です。この10年間でケータイやインターネットは一気に普及をしてきました。その中でケータイやスマホによるメール、ブログやソーシャルメディアは一般的なコミュニケーションツールとして広く使われるようになっていきました。そして、これらのツールの普及によって世の中も大きく変化しています。

「トモダチ依存症」

インターネットが発達し、一般化したことで誰しもがすぐ物理的な空間を飛び越えてメッセージを発信することができるようになり、そのなかでブログが生まれ、mixiやFacebookなどのソーシャルメディアが誕生しました。

デジタルネイティブな今の若者は自分の日常を日記に記して発信し、お互いにコメントをしあうことに慣れ親しんでいます。

家にいるときはPCで、外出中でもスマホを使ってソーシャルメディアで常に友達とやりとりをしていることが常態化してきているのです。

なぜ彼らはそこまでして友達のコミュニティを大切にするのでしょうか。


私はその一つの理由に、同質の価値観を持つ友達同士のコミュニケーションはお互いを理解しあうことが簡単で居心地がいいからということがあるように思います。

彼ら彼女らは大人から見るとお互いの褒め合いばかりしているように見えます。実際、彼らは実名でネット上で繋がる場合、お互いを尊重しあっています。人間は存在承認を求め続ける本能を持っていますから、そういった場が居心地がいいのは当然です。

その居心地のよさにますますブログやソーシャルメディアに依存をしていくのです。リアルでの異質の価値観を持つ人との交流とのバランスを失うと、ネット上の「トモダチ依存症」ともいうべき状態に陥ります。

ブログやソーシャルメディアに関わるすべての若者が「トモダチ依存症」というわけではありませんが、世の中の変化の影響を受けて、そういった傾向をもつ若者が増えていると思います。

大人免疫力の低下

こういったインターネットの影響で同世代のヨコのコミュニケーション量が増えているのに対して、タテ、すなわち大人とのコミュニケーション量は相対的に低下していると考えられます。

少子化で兄弟姉妹が少なくなり、核家族化かつ共働き家庭が増えていることもその要因に挙げられるでしょう。

社会人になって働くとなると気の合う「トモダチ依存症」のコミュニケーションだけでは成り立ちません。

上司や先輩は育った時代の違う仕事のプロであり、褒められることは少なく、叱られることは多々あります。気の合うヨコのつながりに慣れている若者にとっては、これを苦痛に感じてしまうことがしばしばあるようです。

「私は褒めてくれれば伸びるタイプなのに、上司が教えるのが下手なので、まったく褒めてくれません」

若手社員の典型的な本音のひとつです。お互いを褒めあうことに慣れてきた若者には、上司がちょっとした事を認めてくれないことが理解できないと感じることもあるのです。

それゆえ、軽く注意をしている程度でもとてつもない叱られ方をしたと感じ、ダメージを受けます。彼ら彼女らは良く言えば純粋であり、ちょっとした慰労でモチベーションがぐんと高まったりすることがままあります。

その反面、上司世代には、打たれ弱く、ストレス耐性がないように映ります。

一方通行のコミュニケーション

今も昔も、若者が社会人として最初にぶつかる壁は多様な人と意思疎通することの難しさだと思います。特に上司を初めとした大人たちに意思を理解してもらうには、何度となく言葉を交わし、言葉の向こうにある考え方の背景まで汲み取ってもらうことが必要です。

同じ価値観を持つヨコのつながりに慣れていると、自分とは異なった価値観を持ち、十言っても一も伝わらないタテのつながりに混乱し戸惑います。

その一つの例にメールでのコミュニケーションがあります。メールは現代の若者の個人間コミュニケーションのスタンダードになりました。メールと電話の違いは、相手の状況を気にせずに自分の伝えたい要件のみを気軽に送信できることです。

この一方通行のコミュニケーションでも、学生時代の気心の知れた友人ならば相手は自分の言いたいことを汲み取ってくれました。この繰り返しの中で「送信しっぱなし」でもコミュニケーションが成り立つと思ってしまうことがあります。

当然ながら仕事の場ではメールだけですべてを伝えて完結させることはできません。仕事における報告・連絡・相談は送信しっぱなしの一方通行では成り立たないことを伝えることが、今まで以上に大切になってきています。

余計なダメージを与えないために

インターネットが発達したことで、非常に多くの人と出会い、コミュニケーションができる場が増えていきました。TwitterのフォロワーやFacebookの友達の数は莫大でも、それは同質の価値観を持つ人たちの繋がりが空間を超えて拡がっただけの場合も多いものです。

それらのコミュニティへの依存度が高くなるほど、自分と違う世代の異なる価値観を持つ人とコミュニケーションの場を減らす可能性があり、場合によって「トモダチ依存症」や大人免疫力の低下を引き起こします。

現代の若者がタテの社会に慣れていないことはここまでお話をしてきたとおりですが、上司もそれを汲み取っていく必要があります。しかし、仕事をしていく上では叱らなければならない場合も出てきます。そういった場合に気をつける点が3点あります。

  1. 周りにできるだけ人がいない場所を選ぶ
  2. 人格ではなくミスそのものを叱る話し方で叱る
  3. 叱った内容が改善されたかその後の行動を見守りフィードバックする

これからの上司には若者を育てるために上手に「叱る力」も今まで以上に必要になってくるでしょう。上司は若者の変化に嘆くだけではなく、若者を育てるためにこちらから行動をしていくことも重要です。

▼次回予告:
これまではバブル崩壊以降の若者の変化を話題としましたが、今後はその変化に対してどのように上司は若者を育てていくべきかを取り上げていきます。
次回は、仕事に対して興味を失いつつある若者が職場で力を発揮しやすくするための上司の技をご紹介します。

▼シゴタノ!ブックス:就職氷河期世代とバブル上司 スマホ新人を部下に持ったら読む本

長く続く就職氷河期、インターネットやスマートフォンの普及、ソーシャルメディアの登場で若者の価値観は大きく変化した。今までとはあまりに違う新人に戸惑う上司たち。

スマホ新人は何を考えているのか。現場で接した若者の声をもとに、彼ら彼女らが何を考えているのかに迫る。上司が若手を理解するために重要な鍵がどこにあるのか、そして若手を育てるための方法とは?

著者の体験談を織り交ぜながら、新人育成に悩む上司のために若手を理解し、育てるための九つの鍵と十二の技を具体的に説明していきます。



▼前川孝雄:
立場の異なる人間同士の「絆」づくりで人と組織に「希望」をもたらすことを主眼に、法人向け人材育成、学校向けキャリア教育・就職支援、個人向けスクールやゼミなどを展開する株式会社FeelWorksを経営。

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