なのに何だってムダな時間の使い方をしてしまうのでしょう?
考えてみるとこれは不思議なことです。
私が思うに、時間の無駄遣いをしてしまう大きな原因が「時計を見て時間的な余裕を判断している」ことです。
時計を見て時間の余裕を計るのの、何がいけないのでしょう?
今、朝の4時だから・・・
朝4時だから、余裕がある、とは限りません。
- 今すぐ大急ぎで顔を洗って
- 早朝なのに食べ物をかっ込んで
- 荷造りして
- 走って家を飛び出して
- 空港へ向かってギリギリセーフ!
という状況かもしれないのです。
「現在時刻は4:00である」ということは、余裕を持って良いかどうかを判断するための、一部の情報であるに過ぎません。「4時だから、余裕を持っていい」というのは早計に過ぎるのです。
しかし私たちの頭は、直感的なイメージを作りだし、それに沿った因果関係をでっち上げるのが、信じがたいくらい得意で、しかも大好きときています。
○●だから、××である
という説明の形式がそもそも好きなうえに、それがもっともらしい感じがすると、なるべく無条件で信じようとするところがあるのです。
朝4時だから、時間に余裕がある
これは、上の形式そのものであり、しかもかなりしっくりきます。だからこれに逆らって行動するのは容易ではないのです。
ダニエル・カーネマンは著書『ファスト&スロー』の中で、私たちが「○●だから、××である」にどれほどだまされやすいかを、ユーモアたっぷりに説明しています。
たとえば、アメリカの田舎の郡では「腎臓ガンの出現率が低い」というレポートが見つかったとすると、私たちの脳はだいたいにおいて、次のような説明を受け入れがちになります。
「ガンをあまり見かけないのは、いなかのきれいな環境のおかげだとつい考えやすい。大気汚染はなく、水もきれいで、添加物の入っていない新鮮な食品が手に入る、というわけだ」
ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか? ダニエル・カーネマン 友野典男(解説)早川書房 2012-11-22
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しかしながら、同じレポートによる調査の結果によると「腎臓ガンの出現率が高い」のもやはり同じような田舎の郡なのです。すると説明はこうなります。
「ガンを多く見かけるのは、いなかの貧しい環境のせいだとつい考えやすい。質の高い医療を受けにくく、高脂肪の食事、酒の飲み過ぎ、タバコの吸い過ぎがよくない、というわけだ」
引用元は同上
つまり「アメリカの田舎のライフスタイル」を、腎臓ガン出現率が高いことや低いことの説明にもってきたら、必ず間違うことになるわけですが、こういう間違いを私たちの脳はつい受け入れてしまうのです。
ちなみにどうして「高い出現率」も「低い出現率」も「地方の郡」に多いかというと、その地域の人口が少ないからというだけです。これは統計的な錯覚にすぎないのです。
『ファスト&スロー』にはよく似たエピソードが、他にも出てきます。サダム・フセインが逮捕された日の、ファイナンス・ニュースです。
ブルームバーグ・ニュース・サービスが次のようなヘッドラインを配信した。
「米国債価格は上昇中。フセインの逮捕はテロ抑止につながらない見通し」。
三〇分後に国債価格は下落し、今度は次のようなヘッドラインが配信された。
「米国債価格は下落。フセイン逮捕の影響でリスク資産に魅力」。
フセインの逮捕は、まちがいなくその日最大の事件である。
そして私たちの思考は自動的に原因を探すようになっているので、その日の市場で起きたことは、すべてこの事件で説明される運命にあった。
二つのヘッドラインは、一見すると、市場の動きの説明になっているように見える。
だが二つの正反対の結果を一つの理由で説明できる文章には、何の意味もない。引用元は同上(太字は佐々木)
「今は午前中だから」思考を棄てる
もちろん本当の原因を探すというのは、難しくてめんどうくさいことです。もっともらしい「原因」の説明を、単にもっともらしいという理由で受け入れるほうが、ずっと簡単ですし、私たちの脳はそういうことが大好きなのです。
けれど、少なくとも時間に関しては、そういう「もっともらしいイメージ」を振り切らないと、まず有効活用することはできません。
- 今は朝早いから、まだ時間はたっぷりある。
- 明日の午前中には予定がないから、仕事がたくさんやれそうだ。
- 今夜は、いつもの飲み会がないから、プロジェクトを進められるだろう。
- これは今すぐやるより、担当者から連絡をもらってからやったほうが、事情がよりよくわかるので、時間の無駄にならないだろう。
以上のすべてはもっともらしいですし、あるいは真実なのかもしれません。
しかし、もしも真実でないならば、これらはただ「いまは何もしない理由」にしかなっていないのです。
その「いまは何もしない理由」をうけいれないということは、今すぐ有意義なことをしなければいけないということになります。ただでさえもっともらしい理由をかなぐり捨て、しかも今すぐ何か仕事をするというのは、精神的にはキツいことです。
でも今すぐそういう思考に切り替えるしか、ムダな時間の使い方は変えられないのです。
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今週の記事では触れていませんが、もう一つの時間をムダにする大きな要因が「悪癖」です。
ネットサーフィンでも、カフェインのとりすぎでもそうですが、休憩しても疲れはとれないし、なによりたいていは、予定よりも長い時間を注ぎ込んでしまいます。
今月末の「タスクシュートセミナー」では、「タスクシュートで悪癖に対処する方法」についてもお話ししたいと思います。