ちょっと長い文章を書くのに、最初から Word で取り組んでいませんか?
私のようなブロガーでなくても、企画書や報告書やプレゼンの下書きを作ったりするときのように、「ちょっと長め」の文章を作らなくてはいけないタイミングは日常の仕事に数多くあります。
書くことが頭のなかで整理できるメールに比べて、こうした文章は「実際に書いている時間」よりも「手直ししている時間」の方が長くなりがちです。
ところで Mac においても文章を編集するワープロソフトのデファクトスタンダードは Microsoft Word といってよいと思いますが、Word は文章の体裁を編集するのには適していても、実際に文章を書いたり、何度も推敲をするのには向かない私はふだん感じています。
その理由はなんといっても安定性です。以前のバージョンよりもはるかに安定してきたとはいえ、今でも Word がクラッシュして痛い目をみることが時折あります。そして Office 2008 は Leopard の Spaces と相性が悪いので、細かい修正作業をしているとどうしても効率が悪くなってしまいます。
そこで文章を書く際には、構成や推敲を支援してくれるアプリで一気にアイディアを粗っぽく書き出し、提出する段階で Word に移行して体裁を整えるという2ステップを踏んだ方が全体としてスムーズに、ストレスなく作業ができます。まるで職人が作品の製作段階にあわせて彫刻刀を選ぶのと同じ理屈です。
今回はそんな、エディタ以上ワープロ未満の、実に Mac らしい使い心地の文章作成支援アプリをとりあげてご紹介したいと思います。
Scrivener
ちょっとでも長い文章を書いていると、参考資料を横目でにらみながら矛盾がないように文章を構成してゆく作業が必要になります。
しかし参考資料がフォルダに散らばっていたりすると、いちいちエディタからフォルダへと切り替えながら作業をしなければいけなくなります。
Literature & Latte の開発した Scrivener の魅力は、こうした参考資料から文章のシノプシス、そしてメモにいたる情報をすべて一元管理できる「文章作成のためのワークベンチ」になるという多機能さです。
例えば文章を書くときには、いきなり長文を書き始めるよりも、アウトラインや、情報カードを使ったアイディアの洗い出しから初めて、順序を整えてから書き始めるのが楽ですが、この両方の機能が Scrivener には始めから組み込まれています。
アウトラインを先に作り、それに従って細かい区切りごとに執筆してから最後に全てをつなぎあわせて Word ファイルとしてエキスポートできますので、どんなに長い文章を書いていても構成を見失うことがありません。
また、一見役に立たなさそうですが私がいつも重宝しているのが目標文字数メーター機能です。これは文字数を設定しておくと、その文字数に対してどのくらい文章量が達成されているのかを右下のメーターでみることができます。
この機能を使って文章の長さを調整するだけでなく、メーターを目安にして「このへんでまとめないと」「このへんで議論を展開しよう」という判断をすることも楽になります。
これ以外にもフルスクリーンの編集機能や、原稿の履歴をまるで写真のように「初稿」「第二稿」といった具合にスナップショットをとる機能もついています。
Scrivener はまさに文章を生み出す「仕事場」なのです。
Ulysses
機能において類似する他のアプリをはるかに凌駕している Scrivener ですが、得意としているのは長い報告書や論文のような、構成を練ることが大事になる文章です。
一方で、構成自体は割合楽に決められるものの、膨大な用語の統一などを追いかけなければいけないマニュアルのような文章の場合は、検索機能が柔軟で高機能であることが求められます。その点で力を発揮するのが Blue Technologies Group の Ulysses です。
Ulysses も Scrivener と同様に長文、あるいは小説を書く人を念頭に作られていますので、一つのドキュメントを複数のまとまりから構成するという設計思想はここでも同じです。
たとえば文書全体が数十の節から構成されているときに、「ライフハック」という言葉が登場しているすべての節を表示するには左上の検索バーを使いますが、Ulysses ではこうした検索を「フィルター」としていくつも保存することができます。
フィルターだけでも非常に高速で使いやすいのですが、複数のフィルターを一つの「グループ」にまとめることも可能ですので、「ライフハック」だけで検索するフィルター、「Lifehack」で検索するフィルター、そしてその両方を検索するグループを作成することができます。
この機能はもともと小説の登場人物や地名などを原稿全体に追いかけて、「あれ? この脇役は3章以降忘れられているぞ?」といった追跡を可能にするためのものだったのですが、この機能を索引のように使い、膨大な用語の使用状況や言及の有無を瞬時に一望することができます。
一つだけ、注意しないといけないのは Scrivener が太字やイタリックなどの機能もあるワープロ的なエディタなのに対して、Ulysses はそうした機能のないテキストエディタであるという点です。
SubEthaEdit
文章を書くのは一人だけの作業とは限りません。LAN 内、あるいはネット越しに複数の人で一つのテキストファイルに対して編集を加えたいという場合だってあり得ます。
たとえばペア・プログラミングをしているときがこれにあたりますが、それ以外にもミーティングでみんなで同じテキストに対してアイディアを書き出してゆくブレインストーミング大会や、複数人で文章のチェックをしているときなどです。
こうした作業を可能にしてくれるツールは多々ありますが、高速で、外部のサイトなどに依存せずに使えるエディタとしておすすめなのが SubEthaEdit です。
SubEthaEdit はそれ自体がプログラマーを意識してつくられた高機能なテキストエディタでありながら、Bonjour ネットワーク機能を通してリアルタイムでテキストの同時編集を実現してくれます。こればかりは実際に見てみないとどれだけ便利か実感がわかないかもしれません。
一度使ってみると、口でいうよりも手が先に動いてお互いにリアルタイムで文章を編集できますので、一種の競争心がうまれてアイディアを次々に文章に向かって投じる不思議な感覚が味わえます。
アイディアを出し合って企画書の草稿を練っているときや、議事録を作成しているとき、レクチャーをしているときなど、可能性は尽きません。
WriteRoom
Scrivener の高機能さも、他人の助けもいらない。ただ、作業に集中できる時間と場所だけを与えてほしい。そんな人もいることでしょう。
原稿用紙10枚の文章を作ろうと思ったときに、実際にかかる時間は原稿用紙1枚をうめるのにかかる時間の10倍ではありません。むしろ、7, 8 枚までは最初の集中した 50% の時間で一気に生み出されるものです。
こうしたときに、ブラウザや、他のアプリケーションのウィンドウによって気が散らないように、画面全体を文章を書くためだけに利用できるキャンバスにしてしまうのが WriteRoom です。
WriteRoom を起動すると、デスクトップの背景も、メニューバーも、すべてが消えてしまい、ただ文章と自分だけが向き合っている状態が生まれます。たったそれだけの単純なアプリケーションですが、文章に集中したいと思ったときに使うことで驚くほど効果をあげることができます。
WriteRoom のプラグインをインストールしておけば、Safari ブラウザで開いているテキストボックスや、Mail.app のメールの本文などを一時的に WriteRoom 下で書くことも可能です。
まとめ
以上、高機能なエディタから、ただ文章に集中させてくれるだけのアプリまで私がふだん重宝しているアプリを紹介しました。
実際、私が自分の本を書いていたときには、WriteRoom と Scrivener の間を何度も往復して、構成を Scrivener で確かめつつ、WriteRoom のもたらす集中できる作業空間に没頭していました。
ある程度構造化された長い文章に取り組んでいるときは、自分がいま取り組んでいるステップにあわせてアプリを選択し、作業を楽に進めるのがおすすめです。
さて、仕事で使える Mac の便利アプリのシリーズは、ナレッジ・アプリ、文章作成支援と続いてきましたので、次回は作図・イラストのアプリを紹介したいと思います。ここにも魅力的な「彫刻刀」がいっぱいあるのです。
ではでは、次回まで!
▼最近気になっている一冊:
佐々木正悟さんに紹介していただいた本で、いま非常に気になっています。慢性的なストレスの感覚を、一つのことに対する注意力や集中力を高めることで取り除くマインドフルネスという認知療法について解説されています。ストレスを癒す心地よい言葉や優しいものに触れるのもいいですが、時にはストレスを生み出す根幹にさかのぼって、この敵と向かい合いたい。そう思うのです。
思い立って Mac OS X 上のアプリケーションを開発するための言語である Objective-C と Cocoa フレームワークについて勉強を始めました。若い頃はあっというまに新しい言語に親しんでいたのに、今はなかなか古い考え方を捨てられずに苦労しています。はてさて、人様に使ってもらえるようなアプリケーションを開発できるまでにいつまでかかるのでしょうか?
▼堀 E. 正岳:
「これからMacを始めたい人」を徹底ガイド。Lifehacking.jp主宰。