利益を最大化するためにプロフェッショナルの知識と時間を買う/バイサイドアドバイザー・第3回

By: Generation BassCC BY 2.0



連載第3回となります。


バイサイドとセルサイドの違い

今回は、改めてバイサイドとセルサイドの違いを簡単に説明します。

この言葉はアナリストによく使われるもので、証券会社のアナリストはセルサイド、運用会社のアナリストはバイサイドと言います。要するに、そのアナリストを誰が雇用しているのかということで、お客様が雇用主ならばバイサイド、金融機関ならばセルサイドです。

ウォーレン・バフェット、マーク・ファーバー、ジョージ・ソロス、ジム・ロジャーズといった、世界に名だたる投資家の名前は読者の皆さんもよくご存知でしょう。実は彼らも、れっきとしたバイサイドアドバイザーです。

彼ら自身がファンドのオーナーであり、そのファンドに投資しているお客様とは、ある種雇用関係のような関係になっています。

なぜかといえば、パフォーマンスが悪いと「お前は駄目だ、クビだ」といった具合に投資された資金ごとお客様が逃げていくからです。

そのため、彼らは当然ながらマクロを重要視し、世界の経済の情勢を常に注視し、資金のリバランスを欠かさずに行ない、見事なパフォーマンスをあげてお客様を満足させています。

バフェットはITバブルの急落を、ロジャーズやファーバーは金の上昇と日本株式の崩落を、ソロスはポンドの急落を予言・的中したことで有名です。

このような、通貨であったり株式であったり商品であったりと、種類に限らず様々なものに共通しているのは「辺境地は未来の大都市」、「人の行く裏に道あり花の山」といった格言が示す真実です。彼らはそれを地で行き、成功しているのです。

そして、彼らにもうひとつ共通しているのは、日欧米の大手金融機関の看板が一切存在しないことです。

アドバイスの質、それがすべて

彼らは、自身の名前そのものが看板になっています。彼らのファンドの場合は、投資家から直接お金を預かって自分たちの思うように投資を行ないます。大手金融機関の看板を持たない彼らのファンドに、何百億・何千億というお金が集まるのです。

日本人は「◯◯だから安心」と、屋号に対して信頼を置きがちです。屋号が保証してくれるものも確かに存在します。しかしそれだけを判断基準としてはいけません。有名な証券会社のセルサイドアドバイザーが、自分の名前で仕事をしているバイサイドアドバイザーよりも、信頼できるとは限りません。

あくまでも、問われるべきはアドバイスの質、ただそれのみなのです。

不動産業界で活躍するバイサイドアドバイザー

アメリカでは不動産業界においても、バイサイドアドバイザーが活躍しています。

例えば、あなたが8千万円の家を買いたいと思った場合、その1~3%くらいの手数料でバイサイドアドバイザーを雇うことができます。

1%なら80万円、決して安くはない金額ですが、それを支払うことでアドバイザーはあなたが求める要素を満たした家をくまなく探します。

あなたの代わりに内見を行ない、プロの視点で屋根裏や配管まで事細かにチェックして、その報告を書類にまとめ、「あなたの空いている時間に、この3軒だけを見て下さい」と提案してくれるのです。

これがセルサイドアドバイザーであった場合、どうしても自分が勤める会社が所有する物件や、仲介手数料が発生する物件を提案してくる可能性があります。

もちろんセルサイドアドバイザーも、まずはあなたの望む条件を完璧に満たした物件を探してくれます。問題は、そうやって用意したリストの中に、あなたが満足する物件がなかった場合です。

セルサイドアドバイザーは、自分のアドバイスフィーが、自社物件を販売した際の手数料に含まれており、それが給料の原資になっていることを知っています。

ですから、そのような場合にセルサイドアドバイザーが講じる次善の策は、多くの場合、「自社に利益が発生しないあなたの望みを満たした物件」ではなく「自社に利益の発生するあなたの望みを微妙に満たさない物件」であることがほとんどです。

つまり「駐車場はお望みの2つではなく1つしかありませんが、その他はほぼ全ての条件を満たした状態で6千5百万円の掘り出し物ですよ」といった具合に自社物件を薦めてくるというわけです。

しかし、お得な条件につられて、実際に内見をして満足した上でその物件を購入したところで所詮は素人判断です。長く住んでみないと気づかない問題点は多々あるものです。

一見もったいないと感じてしまいがちな、購入する前の時点でプロフェッショナルの知識と時間に対価を支払うという行動にも、確たるメリットが存在することを見過ごしてはいけません。

プロフェッショナルの知識と時間を買う

プロフェッショナルの知識と時間に対価を支払うことに関する、非常にわかりやすいバイサイドアドバイザーの例として、スポーツ選手の代理人があげられます。

ダルビッシュ有選手など、数多くの日本人メジャーリーガーが契約している団野村氏や、長友佑都選手など、Jリーガーだけでなく、海外で活躍する日本人サッカー選手たちも顧客に抱えるロベルト佃氏などは、日本でも有名な代理人です。

ダルビッシュ選手や長友選手が、なぜ彼らのような代理人と契約するのかといえば、選手たちは契約や移籍のプロではないからです。

今日では、国内でプレーしながら代理人と契約しているプロスポーツ選手も珍しくありませんが、殊に海外に移籍するとなれば、契約の内容から商慣習、言葉まで、何から何まで選手にはわからないことばかりです。

もちろん選手がそれを身につけることは不可能ではありませんが、そんな時間があるなら、選手はトレーニングや練習に時間を注ぎ込むべきでしょう。

選手はそのスポーツのプロであり、代理人は渉外関係のプロであり、それぞれの領分で全力を尽くし利益の最大化のために努める──どう考えても、それが最も効率的なやり方なのは明らかです。

また、ダルビッシュ選手や長友選手だけではなく、彼らの所属するチームや、彼らを獲得したいと考えるチームにもバイサイドアドバイザーが存在します。

ロベルト佃氏は、顧客である長友選手の意向を受けて、その要望に最大限沿う形で選手の価値の最大化を測り、所属するインテルミラノの代理人も、顧客である(チームに役職を与えられて所属する場合もあります)チームの利益に最も沿う形で、獲得オファーやチーム内での重要度を秤にかけ、年俸や契約延長の数字を弾き出すといった仕事を行なっているのです。

翻って鑑みるに、現在アドバイザーの力を借りずに資産運用を行なっている投資家の多くは、投資というものを理解されていないように思えてなりません。

そのような投資家は、一人で全てのオファーをチェックし、契約交渉に臨もうとしているプロスポーツ選手のような状態だといえるでしょう。


▼井上正明:
Avalon株式会社代表取締役兼CEO。
1959年兵庫県生まれ。香川大学卒業。

日興証券、日興証券ニューヨーク支店、日興証券シドニー支店、日興証券インドネシア支店、その後外資系証券であるメリルリンチシンガポール支店、帰国後メリルリンチ日本証券、独立系FP事務所にてFP業務を経て、現在は、独立し、富裕層向けにバイサイドの資産運用アドバイスを行う。

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