シゴタノ! - ゲストコラム : 8周年記念特別号:女性視点で照らすソリアズ的人材育成

WesenBlog 2007.10.31 Wednesday
8周年記念特別号:女性視点で照らすソリアズ的人材育成

 初めまして。荒関望と申します。
 私の自己紹介は文末をご覧頂くとして、とりあえずソリアズ8周年記念特別号をお届けします。今回のテーマは「女性視点で照らすソリアズ的人材育成」です。皆さんにご愛読頂いているソリアズには人材育成をテーマとした号が多々ありますが、ただ人材育成では面白くないので、あえて今回は女性視点ということにこだわってみました。ソリアズを愛読して下さっている、人材育成に携わる実力派の女性3人のインタビュー結果も交え、テーマを掘り下げてみたいと思います。
 最後までぜひお楽しみください。

目次
1 ソリアズに見る女性視点への期待
2 有力女性読者インタビュー(1) 文子様
3 有力女性読者インタビュー(2) 由佳子様
4 有力女性読者インタビュー(3) 洋子様
付録 或る人材育成
あとがき

1 ソリアズに見る女性視点への期待

 今回取り上げる、女性視点の重要性は過去のソリアズの号を読み返すと各所に登場します。それは著者の市川(以下本文中市川)が中小零細企業における女性の特性に着目しているからに他なりません。

 第17話『縁故的予定調和』に登場する台湾女性の言葉の長い引用は、市川が女性のシビアな現実観に着目していることの証左です。人は不完全であるという何の言い訳の余地のない厳然たる認識。そして、それ故、自分をよく知る親などの勧めとは言え、全く見ず知らずのアカの他人とさえ、愛を学び、育み得ると言う強烈な認識が、神の定める真実の愛などを説くアメリカ人の発言を世迷言として痛快に論破します。

 近年、市川の心揺さぶった書籍の一つに『オニババ化する女たち』があります。その中に描かれる女性の一つの望ましい生き方は、女性の身体性を尊重し、人生の早い段階で恋愛結婚を経て出産に至るべきというものです。そのような考えもベースにあってか、企業では、今なお男子社員の採用を女子社員の採用に優先させる場面が散見されます。
 このテーマに関する市川の指向が、かなり明確に表現されている号があります。第27話『面白くなる設定』では、女性の社会的役割分担として、上述のような家庭における女性の役割を肯定しながらも、努力やその結果の積み重ねによってその役割分担以外のキャリアパターンを女性も追求することができると、市川は言っています。

 第84話『賢女の悦楽』では、会社全体を睥睨しているが如き中堅企業の受付嬢が登場し、その機転の鋭さに市川は愕然としたようです。確かに本文を読むとその受付嬢が会社の人間関係や訪問客の心情を細かく読み取り、総合的かつ的確な判断を下せることが分かります。
 普段市川から、人間に対する興味が足りないと叱咤されている私も学びのある号です。

 市川が女性の肌理細やかな観察眼について日常生活の中から題材をとって書いている号もあります。第94話『割り切れる性』では、女性理容師が、お客である市川が喜ぶ話題を探り、その情報を収集し、使いこなし、固定客化に成功しています。肌理細かな観察、さらにそつのない対応。サービス業のみならず、人による付加価値がモノを言うことが多い中小零細企業の差別化にあたっては、学ぶことの多い号だと思われます。

 第112話『常識試験例題』では、女性のシビアな現実認識が、社内環境や働き方自体に向けられています。市川の普段の言葉や判断は、私にとっても、また、私の知る範囲の市川を理解している人々にとっても、十分冷静で的を射たものであると思いますが、さらにその上をいく年若い女性の見方が描かれています。「尻を触らせることも、課題解決能力のうちだ」、「密告する奴は会社に評価されていないから社長にチクるのだ」と言い切る女性の現実認識は、恐ろしいほど冷徹で、正直私自身は、違和感を禁じ得ません。

第17話『縁故的予定調和』
http://cyblog.jp/modules/wordpress/index.php?p=101
第27話『面白くなる設定』
http://cyblog.jp/modules/wordpress/index.php?p=112
第84話『賢女の悦楽』
http://cyblog.jp/modules/wordpress/index.php?p=177
第94話『割り切れる性』
http://cyblog.jp/modules/wordpress/index.php?p=188
第112話『常識試験例題』
http://cyblog.jp/modules/wordpress/index.php?p=206

 上述のソリアズでは女性は中小零細企業にとって、有益な特性を持っていると考えられています。その一つは、「肌理細かな観察力」でしょう。

 顧客のニーズの理解が難しいものであることは、市川のホームページで、大きな分量を差別化の解説からの流れに割いていることで分かります。その中では、中小零細企業の差別化の要素として、「人」による差別化が非常に重要であると強調されています。その差別化に必要な能力がまさに人間観察力であり、肌理細かな配慮を行う力になります。社内事情に驚くほど詳しいのは女性であることからもその特性の活用先の幅広さが想像できます。
 
 女性は、小さな頃からグループの中で他の女の子の動向を観察してどの程度個性を出していいものか考えています。女の子のグループ内で、ファッションを見てみると、男性ほどには、流行からそれほどはみ出ず、しかし若干の個性を出すようなおしゃれをしています。女の子同士はグループ化し、ファッションの流行を追いやすいことから、「同質化」の傾向があると仮定します。すると、「肌理細かな観察力」の結果、流行を全員で追いかけることによる「完全な同質化」を辛うじて回避していると見ることができます。
 
 そう言えば、ファッションへのお金のかけ方にしても、男性であればものすごくお金をかけるか、そうでないか大きな差があると思いますが、女性はさほど大きな差が現れないようだと、最近、若作り全開のロック系の服装に目覚めた市川も語っていました。

 このような「同質性」、言い換えると「ばらつきの少なさ」は、能力においても一般的に現れやすいことは、よく知られています。質にさほどばらつきのない女性は、中小零細企業にとって必要な存在となると考えられます。一定の教育は、男性よりも女性のほうが、対象者に能力差が少ないために効果が出やすくなります。トータルで見た人材に関わるコストから考えても、個々の社員の戦力化が強烈に求められる中小零細企業にとっては、女性とどのように付き合っていくかは大きな課題でしょう。それが結果的に差別化へとつながっていくと市川も言っています。

「肌理細かな観察力」と「同質性」。この二つの特性を活かせる場は、以上のように考えると差別化が大手企業より強く意識されなければならない中小零細企業であるように思われます。

 女性の特性とは観点が異なりますが、中小企業のほうが女性のライフスタイルの実現が容易ではないかと、市川は考えているフシがあります。市川がクライアント向けに書いたレポートの中に、女性社員の離職の問題と題された文章があります。少々長くなりますが、抜粋致します。お楽しみ下さい。

「出産にあたって退職する女性の戻り場所はどのようになっているでしょうか。大手企業では、出産休暇だの育児休暇だのの制度を整備しつつある所が増えております。しかしながら、半年単位・1年単位の休暇の後に、仮に復職したとして、同職場、同職務内容、同待遇、同給与額を完全に保証するのは企業側にも大きな負担で、現実的に考えると実行は非常に困難でしょう。また、女性のほうにとっても、以前の職能や人脈は活かしたくても、いきなり、残業なども以前同様に戻ることには困難が伴いがちと考えられます。

 大手企業は、組織が大きく、職場や職務内容を変更すると、それだけで、結果的に見知らぬ人々に囲まれて働くようなことが簡単に起きてしまいます。これでは女性にとって、元の企業に復職する意味が感じられないことも多いでしょう。

 これに対して、中小零細企業では、もともと、部署が多く分かれている訳でもありませんし、仮に事務職であっても、或る程度“多能工化”が図られていることは想像に固くありません。また、待遇も年齢や勤続年数などをベースに、比較的単純な分類しかされていないことが多いと思われます。とすると、出産後に復職した女性にとって、抵抗なく、限りなくもとの状態に近い仕事を元の職場で元の仲間に囲まれて行なう環境は、中小零細企業においてこそ実現しやすいと考えられます。

 また、例えば、パートや派遣、アルバイト、さらに在宅勤務者など、或る意味、節操無く柔軟に取り入れ、できる者、頑張る者、貢献する者には機会を与えるのは、むしろ、社長の判断一つで決裁できる中小零細企業の方であるように思われます。その意味で、ここでもまた、女性社員の活用はむしろ中小零細企業が目指すべきことと考えられるのです」

2 有力女性読者インタビュー(1) 文子様

 文子さんととあるカフェで待ち合わせたのは、日曜の午前。2Fにあるそのカフェの入口前をウロウロしていると、ケースに入ったキーボードを背に、にこやかに登場された姿が印象的でした。
「私は軽いお昼を食べますけど、望さんは何にされます?」と品良く私に聞いて、てきぱきと注文して下さいました。

 略歴を伺うと、『音大を卒業した後に、文化事業をやりたいと思って百貨店に就職したんですよ。その取引先が以前勤めていた人材派遣会社で』と語って下さいました。
 今は、放送会社に勤務されており、以前勤められていた会社で培った人材育成ノウハウを活かし、総務部の責任者という立場にいらっしゃいます。

 以前勤務されていた人材派遣会社から転職した理由を伺うと、
『趣味の音楽をやる時間をもちたいと思っていたので転職したんですね。若いうちはバリバリ働いても良かったんだけど、体力が追いつかなくなってきたら、自分の好きなことに時間を使いたいと思ったんですよ』と率直に仰って下さいました。
 好きなバンド活動に打ち込んで人生を楽しんでいる文子さんを見て、やはり若いうちは多少辛くても仕事に時間を割いて学び、仕事と私生活が一体になるほどに打ち込むことが後々選択肢を広げるのだと思いました。
 これは市川が、私も受講した大学の講義で強調していることです。人生において仕事が占める割合が高い方が、周囲の評価を得やすいのは当り前です。その結果、年を取ってからも仕事をバリバリこなすのか、多少ペースを緩めて働くのかの選択が自分のものになりやすいということでしょう。文子さんは、まさにこのように生きてこられた方なのだと感じる言葉でした。

 その文子さんがされた人材育成というのは主に顧客に対して、育成した人材を派遣するというものでした。どれほど厳しい世界かを知りたく、文子さんにお伺いしました。
『社員の育成と違って、顧客に対してヒトを「売る」ということは、妥協が許されないので、どういうことがこの人の付加価値は上がるのかということを考えましたね。特に、販売員は、マナーや挨拶など基礎的なことを徹底して教え込みます。もちろん、向いている人と向いていない人の違いで、質が大きく違うので、そこは接客業の素養がある人を選びます。或る程度人材の質を均一にして育成し、派遣先へ行って戴くんですけど、一番に感じることは、やはりお客様に社員を育てて戴いているということですね』。
 上品で物腰柔らかな雰囲気で話して下さる文子さんの言葉からは、商品としての「ヒト」を売ることが前提の、成果に値段のつく人材育成の世界の厳しさが伝わってきます。

 穏やかな口調とは裏腹に、冷静に人の価値を分析されている文子さんから見て、市川はどう見えるのか伺いました。
『質問したことに対して的確にアドバイスをくれる人ですよね。あと、意外だったのでよく覚えているのは、中島みゆきが好きだということかなぁ』と文子さんは応えます。そう言えば、ソリアズの中には、中島みゆきの歌詞内容への言及が散見されます。何が市川を中島みゆきファンにしているのか分かりませんが、一応、今後の私の研究テーマの一つかと頷いて、インタビューを終えました。

【インタビューを終えて】
 文子様、お忙しい中、趣味のバンド練習のお時間を割いて頂いて、インタビューにお付き合い頂きありがとうございます。

 三人の方にインタビューを終えてみて、一番市川と付き合いが長い文子さんの市川評などを伺って、頷いたり笑ったり驚くことがたくさんありました。それは、単に付き合いの長さが理由なのではなく、文子さんの職業柄鋭く磨かれた人物評価眼の為せる技なのかもしれません。次回のライブのチケットはぜひ買いたいです。今後ともよろしくお付き合い下さい。

3 有力女性読者インタビュー(2) 由佳子様

 由佳子さんの会社を訪問したのは昼過ぎ。中に入ると、とても気さくで明るい表情で、私を待ち受けてくださっていて、すっと、名刺交換をしようとしたしぐさがとてもしなやかでした。由佳子さんはアミューズメント業界の会社に勤務されており、主に新卒社員やアルバイト、パートの入社時研修をご担当されています。

『やはり新入社員研修で、自分たちで試行錯誤しながらも「研修を自分たちの裁量で作っている」という実感はありますね。というのも、新入社員研修では4泊5日程度、お寺に篭って、研修をするんです。そこで、マナーや挨拶、表情や身だしなみなど、マニュアルを使って、実際におじぎをさせてみたりします。携帯でおじぎの姿を写して、それを本人に見せて指導をしたりしています。
 そのような基礎をしっかり教えて店舗へ配属した後、研修で相談を受けたスタッフが楽しそうに働いていて、それを口にしてくれた瞬間であったり、ホールでお客様からお褒めの言葉を頂いたときにやりがいを感じますね』。

 由佳子さんは屈託なく笑いながら話します。私も自分の勤め先で研修などの仕事をしていますが、このような実感はあまり得たことがなく、余りぴんと来ない感じもしました。そこで、困ったことなどを聞いてみると、私の上っ面な質問が恥ずかしくなるほどに、真面目でひたむきな答えが返ってきました。

『そういった研修を行ったあとのフォローが足りず、何の相談も受けることなく退社してしまうスタッフがいることですね。新卒に限らず、関わったスタッフに何の相談もされずに退社されてしまうのは、自分の力不足を改めて認識させられ悔しく思います。アルバイトの育成で感じるんですけど、すぐ「やめる」という言葉を口にされてしまうことが難しく感じますね』

 そう聞くと、自分も20代前半ですから、やはり30代前半となって、お子さんをご両親に預けてまでお仕事に励んでいらっしゃる由佳子さんの若者観を尋ねてみたくなりました。すると、『若者の耐える力はやはり下がっている』と仰います。

 私も思わず、
「なるほど。今現在の若者は、耐える力などの質が低下しているとよく言われますよね。ゆとり教育の弊害ともいえますし、核家族化が進んだ結果、厳しく躾けられる親が少なくなった結果とも言えそうですね。団塊世代の親が甘く育ててしまった子どもが、そのまた子どもを自分たちが育てられた以上に厳しく育てるのは難しいですからね。甘やかされて育った若者が多くなりますよね」と頷き、自分自身も人のことをいえないなぁと反省しました。

 最後に、市川との出会いや市川の印象についてうかがうと…。

『市川さんの第一印象ですか…。実際にお会いした際の印象は「よくよく考えたことをお伝えするべき方」という印象でしたね。きちんと考えを持ってから、お話しなければいけない堅い人だと思ったんですよね。ソリアズやHPを見ただけだったので。お会いして、早口で次々話題が変わるスピードについていけなかったりしたんですけど、でも分かるように説明してもらえるのは、市川さんが知識のある方だからだと思いますね。
 今では、話す内容が次々変わるのも話にリズムを作っているのだと思いますし、悪い点については遠慮なくズバッと言って下さるので、信頼できる人ですね。一言で言うと「スルメ」みたいな人ですね』

 スルメの意味がすぐには分からなくて、恥をかいた私ですが、「噛めば噛むほど味が出てくるってことだろ」との、珍しく飛び入り参加した市川の説明を受けて、私の持つ市川の印象と重なるところが多く、納得しました。

 由佳子さんと話をしてみて痛感するのは、企業を取り巻く環境要因の一つとしての、「人材の質」です。その低下は、当然のことながら、そのまま放置すれば、組織の質の低下につながります。まして、由佳子さんの職場のようなサービス業では、事実上商品の質を決める重要なファクターですから大問題です。その最前線にあって、できない応募者もできる社員に、限られた時間の中で育て上げ、現場に手渡していかねばならない仕事のつらさと遣り甲斐を、まざまざと見せ付けられた気がします。屈託のない由佳子さんだからこそ、その言葉の一つ一つに重みがあるように思えてなりません。

【インタビューを終えて】
 印象に残るソリアズのエピソードは腕に毛のないスチュワーデス(第159話『人形の夢』)と言いながら、ご自身の腕に目線を落とした由佳子さん、勉強会の合間を縫ってのインタビューにお付き合い頂きありがとうございます。

 アルバイトや新卒社員の方を褒めていた上司の言葉を速攻で本人に伝えるという由佳子さんが、いかに仕事に本気で取り組んでいらっしゃるかが伝わってくるお話が多々伺うことができました。貴重なお話をお聞かせ頂き、本当にありがとうございました。

4 有力女性読者インタビュー(3) 洋子様

 日曜の夕方。中央線沿いのとある駅の改札口で、人の流れを見ながらあたりをキョロキョロして待っていました。するとキャリアウーマンのイメージそのままの洋子さんが現れました。スカート姿の洋子さんはおしゃれな印象で、今回のお三方の中で歳が一番近いこともあってか、前から知っている友人のように話しかけてくれました。

 国内金融系企業で一般職として勤務されていたこともある洋子さんに、食事をしながらあれこれ質問をしました。現在、私も一般職として働いているため、他の企業の一般職がどういうものか、また以前から興味があった金融業界で働いて実際に思うところなどを伺いました。そして、話題は前職での人材育成に移りました。

『前職では、一般職の新卒社員の研修を担当していたのね。それで市川さんと知り合って。それまではパッケージ化された研修が行なわれていたんだけど、在職5年以上の一般職女子社員の研修を始めることになって、一般的な型通りの研修ではなく、受講者自身が自分で考えて動く研修にしようということになったの。
 具体的には、業務改善方法を各自で考えて自部門に持ち帰って相談する。それで修正したものを再度研修に持ってきて、他の参加者とお互いにフィードバックするという研修だったの』。
 
 洋子さんはにこやかに話して下さいました。現在、私は人材開発に携わる部署で働いていることもあり、一般職社員の研修の他社事例を聞くことができたのは収穫です。
『私自身、研修後、毎回市川さんと打合せを重ねたし、参加者の上司とも調整作業が発生したから、周囲の人々を結果的に巻き込むことができたし、受講者自身も自分が改善するんだという意識を持つようになって、影響を与えられたという実感はあったかな』。

 洋子さんのインタビューに先立って、市川からは、「洋子さんとの知り合ってからの時間は今回の三人の中で一番短いが、研修全10回余りの終了後に繰り返した打ち合わせは濃密だった」と聞いていたことが思い出されます。そんな体験を経ている洋子さんが、市川によるとかなりのソリアズ理解者と言うことだったので、ソリアズについて伺ってみました。

『ソリアズは知的欲求を満たすメルマガだよね。分かりにくい文章を見て、こういうことを言っているのかなぁと考えたり、自分の仕事ではこう活かせるかもとか思うよね。特に、印象に残っているのは、『憑依なき言霊』(第56話)かな。電信柱の貼り紙までネタにして、その意味を考えさせちゃうんだよね。だから、ソリアズは日常の風景を見る時の、新たな視点に気づかせてくれる貴重なインプットだよね』。

 自分の気づかない視点で日常を見ることができるツールがソリアズであることに、洋子さんの発言を聞いて、改めて気づくことができました。ソリアズの日常風景を、市川に解説をされずとも見つけることができるようになれたら、世の中がどんなに面白く見えるだろうと感じたインタビューでした。

【インタビューを終えて】
 洋子さん、お忙しい中、地元荻窪のおいしいお店を予約までして頂き大変恐縮です。
 勤務先の外資系金融会社では、かなりハードな仕事の状況と聞いていたので、そこで働く人は体を壊さないのかという質問をしたら、「う〜ん。好きでやっているとどんなにハードな仕事でも倒れる人はいないかな」と当たり前のように洋子さんは応えました。

 社会人になって間もない私は、仕事を楽しむ余裕がなかなか持てずにいましたが、最近、ようやく仕事の要領が分かってきたからか、仕事をやらされているという感覚が薄れてきました。そういえば、会社の繁忙期と市川の課題のピークが重なって行き詰まり、落ち込んだ時、市川のアドバイスの第一声は、「やらされ感を持つな。これが超えられたら、バリバリ仕事のできる人間になれる。そんな自分のイメージを想像しろ。『よっしゃ〜』とか言う感じで、仕事を楽しめ」でした。

 仕事がこなせるようになった人々。そういう人々にとっては常識化している考え方があることを感じます。インタビューを終えて、その「常識」を知る機会の有無や、それを知るタイミングが、その人の働き方や人生の価値を定めていくように思えてなりません。

付録 或る人材育成

「望ぃ。今度の読書感想文、納期に間に合わないんじゃないか。どうする気よ。また、ペナルティってか。いいか。納期って言うのは、約束なんだよ。約束を守ることは信頼作りに必須なわけよ。寝ないでも、死んでも信頼は作れ。信頼もないで生きている恥知らずより、信頼されて死んでしまったほうがまだマシだ」

 こんなヒドイことを、面と向かって言い放たれる可愛そうな22歳のOLが一体他に居るのだろうか。そんなことを思うことさえ、既に忘れつつあるほど、市川さんからの課題作業を本業の会社稼業の傍らにこなすのは大変です。勿論、「納期」と言うのは、単に市川さんが一応推薦したことになっている本を買って読み、感想文を提出する期限です。別にそれを待っているお客が居る訳でもないのに、破るとしこたま嫌がらせを言われます。

 社外でも中小零細企業のありのままの姿を知る機会を持って、将来、家族環境や地域環境に因らず働けるスキルを身につけたいと、大学時代から講師として知っている市川さんに相談したのがことの始まりです。その市川さんが、私を厳しく育てる気持ちを固める経緯をまとめた文章があります。是非ご一読下さい。

8周年記念特別原稿 『希な望』

「喰らいついていく所存ですので、今後ともどうぞよろしくお願い致します」と恥ずかしげもなく私に迫って来る可愛いらしい弟子ができた。彼女は私が教えてる大学の卒業生で、コンサル系の会社に入社するために上京した。「スキル向上」、「キャリアアップ」。そんな言葉は使わなくても、「何もしないで時が流れていってしまうのは非常にまずい!という危機感がある」などと臆面もなく書かれたメールからは、彼女の固い意志が伝わって来る。

4年生の夏。就活を終えて、2年生対象の私の講義を終えてから約二年を経て、突如彼女はメールを送ってきた。それから、卒業までの間、月に一回程度会って、中小企業経営やら、差別化戦略などのサワリを教えた。メモも取らずに聞いている彼女は、必ず2日と経たないうちに、精緻で簡潔な議事録を提出してくる。

私の講義の履修登録者数は、累積で4000人以上だろう。出しても出さなくても良い選択制の課題数種のうち、一番難易度の高い、任意の大人一名の職務経歴書の作成を選び、提出したのは僅かに二人。そのまま人材紹介会社に出しても全く不自然さがない職務経歴書を作成して、満点を取ったのは彼女だけである。話すと随分言葉少なで、思っていることをなかなか言えない不器用さと、驚異的な文章構成力のアンバランスが印象的で、1年生の講義の最終回に、教室から去る彼女に、「思っていること、考えていることを、口で表現できるようになんな」と言ったことを鮮明に覚えている。

上京後は、「喰らいついていく」ことに決めたと言う彼女に、“課題”を出した。提出が遅れると、「あのね。ホウレンソウって知ってるよね」などと会った時にしたり顔でたしなめた。時間を投じても金が儲かる話でもない。「じゃあ、こんな本読んだら」、「あれぇ。そんなことも知らないんだ。じゃあ、これ読みな」と私は安易に言っていた。

見たかった単館系の映画が、都合が合わずなかなか見られない。それを彼女が見つけてきて、「市川さん。これ見たかった映画ですよね」と言ってくれる。彼女をお伴に観たのは『ダーウィンの悪夢』。多種多様な生物が棲むことから「ダーウィンの箱庭」と呼ばれたアフリカのヴィクトリア湖。そこに食肉用にもなる巨大肉食魚ナイルパーチが放流されたことから生態系は崩れ、湖の汚染は進む。人々の間では貧困が進行し、飢餓、武器輸入、戦争、売春、エイズ、ドラッグと、描写は続く。

食品工場の近くで飢えて死んでゆく人々。「戦争が起きてくれたら、金がたくさん貰えるので、助かる」と言う研究所の警備員。兵器を降ろし、巨大魚の切り身を数十トン単位で積んで去るロシア輸送機イリューシンのパイロット。漁業目当てに従来の仕事を捨て集まる人々。そして鰐に襲われたり、エイズに感染して死に行く人々。三百人程度の教区で、半年に数十人の葬式が行なわれていても、為す術のない神父。蛆の湧く魚の残骸を拾い集めて、飢えを凌ぐ人々。その残骸の中で作業を続け、湧き立つアンモニアで眼球を失った女。輸送機が離着陸を繰り返すのに、未だに手信号で管制し、空港を航空機の残骸で埋める管制官。浜辺で鍋一つの食べ物に群がり奪い合う子供達。切り身の梱包材を溶かし、シンナーのように吸う事がやめられない子供達。宗教は麻薬との教えなのか、次のシーンはイエスの教えをマイクでがなりたてるコンマン。イエスの福音で漁民の船は魚で一杯になったと教えている。しかし、多分、その古の漁民達は魚を工場ではなく、まず自分の口に運んでいただろう。

人々の殆どは拙い英語で話す。現地の言葉はこの文明による惨状を表現しきるほどに発達していないだろう。誰も議論もできず、誰も将来を語れない。ロシア人パイロット相手の街娼は、何が欲しいと尋ねられ、「教育が欲しい。学校でコンピューターを学びたい」と言葉少なに語る。拙い英単語一つ一つが、聞き取れるが故に胸に刺さる。その彼女も終盤、客との諍いで死んだ。

子供の頃、劇団四季の公演を見て、高熱を出して寝込むほど、感受性が強く、特に人々の感激・感動・喪失・絶望・悔吝・憤然などの激情には簡単に引きずり込まれ共感してしまう。成人してから、こういう場面に出くわすと、笑い出してしまうことがある。多分、共鳴からの自己防衛だろうと自分で思う。笑っていても、全く可笑しさも愉快さも感じていない。映画の人々。その生の姿が目に焼き込まれる。その生の言葉が胸を抉る時、拙く強い言葉の力故、思わず漏れる私の言葉も英語になり、 “Oh, fuck…” “You shouldn’t do that…” などとつい呟きつつ、口元に笑みが浮かんでくる。貯金はどんどん減り、人生背水の陣。死に物狂いだった留学中の、何かの強い激情が心の中で蘇り渦巻き始める。

「無知は犯罪を構成する」。『無知の涙』。「教育」をこれほどに欲する人々が、飢え、傷つけられて死んで行くのを観ながら、色々な言葉が頭に浮かぶ。金や短絡的欲情に溺れる者は、荒んだ関わりの中で、望みの結実を見ることはない。この人々がクライアントだったら。この人々の搾取の企画が仕事だったら。想像が渦巻く。

エンドロールが流れて、去る人々の中から、「あんな風になっちゃあ、希望なんてありえないよね」と声が聞こえた。立ち上がろうとして横を見ると、私をここに連れてきた彼女は、ただ普通に画面を見ていた。私の顔を見て、「市川さん、途中で笑ったりしてましたよね。これが市川さんの好きなタイプの映画ですか。淡々と映像が続いて、こう、なんていうか、分かり難いですよね」と、訥々と、しかし、にこやかに言う。

驚愕して私は、「あのさ、まず、冒頭から見てもさ、あの飛行場在り得ないじゃん。あんだけ事故が起きてんのに、手信号だよ、手信号。それに何でみんなロシア人パイロットだと思う?」などと映画のディテールと映像の持つ意味を自己流解釈で説明する。

「映画評にもあったけどさ。あの状況って、アメリカでは絵面こそ違え、日常生活のほんのちょっと向こう側に現実にある訳よ。日本だって、下流だの何だの騒ぐ前から、そういう部分あるし。実際、引き受けている仕事でも、対象者に考えさせないようにして働かせるにはってニュアンスの仕事はたくさんあるよね。だから、刺さっちゃったし」と一息つく。「なるほど、そういう風に聞くと、凄い映像ありましたよね」。ふんふんと頷く彼女。聡明なはずの彼女に、映像の意味解釈が必要だとは思わなかった。彼女には何が欠けているのか。それが欠け続けるとどのような結果が待っているのか。私を「師」だと言い、「喰らいついていく」と言う彼女に、私は何を与え、どうさせればよいのか。彼女の瞳を見つめながら、呆然と考えた。ふと館内で聞いた「希望なんてありえないよね」が思い出される。

帰札の途上、クライアントが研修に使う本を読んだ。中小零細企業の文鎮組織では実質的に存在しない筈の幹部を徐々に形成してゆく仕事が最近増えている。私が独立前に勤めていた出版社でも、読者であるオーナー経営者に絶大な人気を誇っていた、染谷和巳氏。その『上司が「鬼」とならねば部下は動かず』は基本のキ。「なるほど。まあ、こんな感じか」と思いながら、読み進めるうちに、厳しさを持って人を育て導くことの素晴らしさが描かれてゆき、私は段々と息苦しくなってきた。なぜ、私は真剣に彼女の「喰らいついて」くることに応じていなかったのか。なぜ、ホウレンソウの不出来をすぐに厳しく注意しなかったのか。彼女は今や数百人のうちの一人の学生でもなければ、ただの可愛い女の子でもない。社会人として組織人として、生き残る力の必要性を感じて私に教えを乞うたのではなかったか。

中小企業診断士の三次実習で言葉では言い表せないほどにお世話になった恩師、小谷喜八郎先生は、実習の最中、その日の診断結果をレポートでまとめて、その日のうちに提出するよう、夕刻私たちに指示した。やっとワープロで打ち終わったレポートを、当時ファクスのなかった自宅を出て、コンビニからファクスしたのが真夜中。明日の街頭調査に備えて寝ようとしていたら、夜中の2時過ぎに留守番電話が叫びだす。
「市川はん。出てください。これからファクスをコンビニに送るから、訂正して明日の朝には持って来てな」。翌朝6時、消耗しきって、調査対象の商店街に行くと、先生は先に来ていて、「なんや。みんな眠そうな顔して。わしも全員の分のファクス送るのはしんどかったわ」とチーム5人の顔を見渡して平然と言う。以前から、癌に冒されていた先生は、既に胃を3分の一以上切除していて、「ビールなんかの泡立つもんは、もう飲めないんや」と言っていた。脳にまで癌が転移し亡くなったのは数年後。

先生には妥協がなかった。メンバーがレポート作成の打ち合わせをしていて、「放置自転車の問題は、いい解決策が見当たらないから、さっと流すだけで終わらそう」などと口にした途端、「何を言ってるんや」と激怒した先生が、カバンから放置自転車の資料を出して机に叩きつけ、「あんたら、それで一日5万とかのお金をクライアントさんに払って貰えると思ってるんか」と怒鳴りつけられたこともある。私の師とはこういうものではなかったか。

私に留学を勧めた福原先生は、十度目でも尚、私の書いた大学へのアプリケーションレターに、ただ、「やり直し」と書いてつき返した。「外国での成績証明は事実上無意味なので、アプリケーションレターは、たかが一枚の紙でも、市川さんの人生を表現する唯一最大の道具です。ちゃんと考えてください」と先生は繰り返すのみだった。

留学の卒業時に、コンサルティング会社への推薦状を何パターンも用意して下さったパケット教授は、私の作文に大きく斜めに線を引き、右上隅に“Redo(やりなおし)”とたった四文字を書くだけだった。直してまともになれば点数はくれる。何をどう直せばよくなるのかを、粘って、喰らいついて、諦めず追求した者だけが点数を獲得できる。彼のクラスを二回受け、私はしつこさ故に、両方ともAを取ったと教授自身が笑いながら言ったことがある。「私が答えを教えたら、私以上の人間が育たない」と彼は何度か言っていた。

私の師を思い起こせば思い起こすほど、彼女から師と呼ばれるなど悪い冗談のようだ。コンサルタントでもなければ、研究者でもない。多分、私が彼女に教えられるのは、組織人として、職業人としての組織や集団との関わり方だけだろう。「希望がない」状況を描写した映画を観て、実際は日本でも一緒だと感じた。ならば、彼女に生き残り、勝ち残る力を与えねばならない。彼女を容赦なく挫き、立ち塞がり、遮り、押し戻し、打ちのめして、彼女を強く生きられるようにしなくてはならない。そうでなければ、私を超える者を育てられない。そして、いつか彼女に凌駕され、礎にされなくてはならない。そうでなければ、今より困難な、私も知らない時代に生きるであろう彼女に、力をつけたことにはならない。

「もっと金が欲しい」、「もっと時間が欲しい」。人は望を口にしやすい。私とて全く例外ではない。一方で、映画などの定番の台詞で、「どんなに苦しい時でも希望は捨てるな」と言う。なぜか「望は捨てるな」とは、あまり聞かない。希望は多分、望の中でも多くの犠牲や覚悟を代償に実現する希なものなのだろう。

あとがき

「ソリアズを読んでいるなら、8周年記念号を書いてみないか」という市川さんの軽い一言から始まった、今回の文章作成の作業を通して改めて感じるのは、最近世間でも言われている「下流」、「下流化」などの言葉です。

 課題の映画や図書でも、頻繁に意識させられることがありました。『希な望』にも出てくる『ダーウィンの悪夢』では、自分たちの社会の課題さえ共通に語ることのできない人々の苦悩が抉るように描かれています。『下流志向』ではリスクヘッジの方法として人間関係の構築が必須であると書かれています。『あなたが年収1000万円稼げない理由』では、自分を商品化する、売れる人材になることが強調されています。自分自身のこととて、商品である以上、相手のニーズを精緻に捉えることなく成立する訳はありません。

 私が、なぜ下流化の道から逃れたいかと問われたとすれば、やはり自分で自分の将来を決められる力をつけ、選択肢を増やせるようになるためということに尽きると思います。市川さんと色々な議論を重ねる中で、下流にならないための能力・資質はコミュニケーション力であると痛感させられます。高いコミュニケーション力とは、相手を観察し相手に合わせる力に基づくことは、考えるまでもありません。

 今回、人材育成の実務に関わる素晴らしい女性3人のお話を伺い、市川さんが言うような女性の特質でもある人間観察力は、結果的にアンチ下流化の大きな鍵であるとの確信を持つに至りました。この8周年記念特別号は、その確信に私が至る道程となりました。読者の皆様にとっては、未熟な私の拙い文章そのままですが、何か学びや発見が少しでもその中にあれば「望」外の喜びです。 最後までお付き合い戴きありがとうございます。


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